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③になります。
「どうしてですか?右ちゃんは、何時も一生懸命やってくれてるです。」
「確かに、その可愛らしい姿を消さないといけないかもしれません。
けど、右ちゃんは、右ちゃんです。感情があって良いじゃないですか?」
「まあ、確かに勝手に物語の流れを変えられちゃうのは困りますが、」と作者が口どもるがナレーターは聞き流す。
「でも、ここで右ちゃんまでいなくなったらサキは、ひとりぼっちになっちゃいます。それは、嫌です。」
「その縫いぐるみがいるじゃないか。」
ナレータは、作者が踏みつけている薄汚れた茶色い犬の縫いぐるみを指差す。
「へ?」
無意識の内に踏みつけていたのか、作者は、驚いた顔で拾い上げる。
「ありゃまあ、ワンちゃんこんな所にいたですか?ずいぶん探したんですよ。」
「探して無いだろう。なす子。」
「なす子って言うな!えっへへあったりです。」
作者は、犬の縫いぐるみを拾い上げ、愛しそうに抱きしめた。
「私の大切なお友達、やっと見つけた。」
作者は、大事そうに犬の縫いぐるみを牛の着ぐるみのポケットに入れる。
「っと言うわけで、ワンちゃんを見つけてくれた右ちゃんには特別なお礼をしちゃいます。」
「いらない。」
ナレーターは、即座にそう答えた。
「けど、その代りひとつだけお願いがあるんだ。」
ナレーターは、作者に必至に頼んだ。
自分の罪を許してくれとは言わない。
元々、自分がやってしまった事なんだから。
けど、今回のニワトリはどうなる?
また何時もの様に一人ぽっちの、孤独な、
寂しい終わりを迎えさせてしまったら。
だからせめて物語が終わるまで待ってくださいと。
「もうさっきも言った通り
作者は、顔をしかめ尋ねた。
「ねえどうしてそんなにあの鶏の側にいたいの?」
「それは、」
「私がいなければ、あのニワトリはひとりぽっちになってしまうから。」
「そんな事ないよ。ナレちゃん。ニワトリさんには、お友達がいっぱい。確かに、今まではひとりぼっちだったかもしれないけど、っ少なくてもこれからは寂しくなんてない。」
今、あの鶏は気絶していて、どこまでが夢か現実か理解していない。
このまま今までの事は、夢だったんだと思い込んでもらった方が都合が良いと。
「それにもう一度、あの鶏に会っちゃったらもう二度と右ちゃん帰ってこなくなっちゃいます?」
「さぁ、もうこの話は終わり」と、頬をふくませすねる作者に、ナレーターはそれ以上なにもいう事が出来なかった。
この世界で作者の言うことは絶対。作者の機嫌を損ねた時点で、存在することなど
『次の日、街の病院では全身包帯だらけのニワトリさんが入院していました。』
『ニワトリさんの周りには、屋上で背中をおしてくれたおじさんや、列の順番を譲れと無言の圧力をかけてきた素直じゃないおばさん、
兎に角たくさんの友達に囲まれていました。」
「………」
今ニワトリさんは今期もっともカッコ悪い鳥男に送られる。ダサ雄鳥大賞に見事選ばれ、病室で表彰式が行われている所です。
全身包帯だらけの何だか分からない物体はダンディな会長と共にカメラに収まり、その次の日の新聞に載ったと言うことです。
「だからなんだって言うんだ。このオイラの扱いは!!主役のはずでしょうオイラは!!」
少なくても主役かどうかは作者が決めると言う事で。
「酷い。」
『ニワトリさんには内緒ですよ。実は先程ニワトリさんが受賞した賞。本来なら鶏が受賞する事はまずないんです。おまけに会長は大の鶏嫌い。だから少しは変わったと
その日の新聞には「空飛ぶ中年!少女と荷物を救う」と言う記事が一面を飾りました。
そして、きつすぎた宣言は少しだけゆるくなりましたとさ。めでたし、めでたし。』
「って終わってなーい。」
「いんや兄ちゃん。もう終わりだ。」
『デパートの屋上でニワトリさんの背を押してくれた(物理的に)おじさんがそう言いました。』
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
「ねっ、あの鶏には、たくさんの友達がいて一人ぽっちじゃなかったでしょう?」
『みんなが去った病室で、ニワトリさんは、しばらくぼーと、していました。
少し空いた窓から差し込める温かなお日様の光や、風が頬を撫で』
「平和ってこう言う事を言うんだね。」
そんなニワトリの様子を盗み見る二人の人影の姿があった。
数分前、無数の光の玉が飛び交う空間で、作者とやりあったナレーターだ。
光の粒となって消えていった筈の彼の体も、今は、
「でどうしてこうなった。」
ナレーターは、不服そうに足元の自動進行機を蹴る。
「あっ止めて。蹴らないでやっと修理したんだから」と
「だってしょうがないの修正用のペン落としちゃったんだから。」
「どこに?」
「え―と、多分なんだけど。多分、ニワトリさんのモフモフの羽毛の中です。さぁ手を突っ込みたまえ。」
「あの何が入ってるか分からない。もふもふの羽毛の中に?」
「うん。羽毛の中に」
「むしるしかないな。」
「うん。むしるしかないね。」
「さぁ、行け!ナレちゃん。」
「そう言えばお前の大切な友達の姿が見えないな。」
「えっあっ!またワンちゃんどこかに置いて来ちゃった。」
『ベッドの横に置かれていた棚の上に、見慣れた犬の縫いぐるみ犬が置かれていることに気がつきました。 』
「あっ」
さりげなく置かれたそれは、色に光り輝くペンを加え誇らしげに座っているのでした。
「ナレちゃんは、ここにいて。」
作者は嬉しそうに背中に担いでいたリックサックの中から、なにやら取り出し始める。
「それ何時も持ってるが重くないのか?」
ナレーターは、日頃から思っていた疑問をぶつけてみた。
「重くないかですって?」
作者の背後で波が立ち、鯛が飛びあがった。
声のした方を見ると、鳥のくちばしや羽を付けた牛?の看護師さんが立っていました。牛の着ぐるみの顔の部分も切り取られまた別の肌色の顔が覗いています。
大抵の事なら受け入れるニワトリさんも、これには困り顔。
「え~とこれは鳥?それとも牛?違うなにか?」と、目を白黒させ悩んでいると、
「いやいやいや。ありがとう。ペン所かワンちゃんまで探してくれて。」
全く気がついていない。なんだか分からない物体は、ニワトリさんの両翼を持つとブンブン握手をしました。
「あの阿呆め。」
部屋の中を覗いていたナレーターが呟いた。
「それじゃあこれらは回収して行くんで。」
『突然、病室に現れたなんだか分からない物体は、突然お礼を言って、部屋の中にあった犬のぬいぐるみを持って行ってしまいそうでした。』
「ちょっと待って!」
『ニワトリさんは、尋ねます。』
「君は、誰なの?」
「私……私は、うーん。あっ!」
作者は強引にナレーターから台本を奪い取ると、何やら書き始めた。
「はい。ナレちゃん!」
「ぬ?」
『ナレーターは答えます。「私達は新しい友達です。さぁ新しい物語を紡ぎましょう!」
「え----」
「文句あるのか?」
「ないよ!オイラ達はずっと友達だからね!」
最後までご覧いただきありがとうございました。