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ケーキの女の子

 東京の郊外にある小さな町には、美しい桜並木が続く大きな公園がありました。その公園には、女の子の霊が現れるという噂がありました。


 村上隆は妻を交通事故で失い、一人娘の愛と二人で暮らしています。そんな愛は昔から病弱で、母親を亡くして以来、元気を失っていました。


 ある春の日、愛が高熱を出し、病院に運ばれました。医師からは栄養のある食事を摂るように指示されましたが、村上家は貧しく、十分な食材を買う余裕すらありませんでした。


 愛は、母親が生きていた頃に一度だけ食べたことがある「いちごのショートケーキ」を食べたいとせがみました。母親が作ってくれたそのケーキの味が、愛の心に深く刻まれていたのです。しかし、ケーキを作るための材料を買う余裕はどこにもありませんでした。


 困り果てた隆は、二十四時間開いているスーパーに入り、こっそりケーキの材料を盗んでしまいました。どうしても愛の願いを叶えたい一心からの行動でした。


 翌日、愛は母親が作ったのと同じ味のショートケーキを食べ、喜びのあまり笑顔を見せました。その笑顔は、隆にとって何よりも嬉しいものでした。


 その後、愛は公園で友達と遊んでいるときに無邪気に「お父さんがケーキ作ってくれたの!久しぶりに食べたんだ!」と大声で話してしまいました。春菜は公園の横を通りながら勤めていたスーパーの在庫の数があわなかった日のことを思い出しました。


 「まさかね…」と呟きながら春菜はコンビニの防犯カメラ映像を確認しました。すると一人の男が材料を盗む瞬間を見つけてしまいました。春菜は警察に連絡をとり、隆は罰せられることになりました。愛を守るため、隆は全ての罪を認め、「愛、心配するな。お父さんはすぐ戻るからな」と言い残し、警察に連れていかれました。


 父親を失った愛は、公園のブランコに座り悲しみに暮れていました。たまたま通りかかった春菜は愛を見つけると「ごめんね…君がケーキのことを話しているのを聞いて調べてしまったの…」とだけ話し立ち去ってしまいました。


 愛は自分の不用意な発言が原因で父親が罰せられたことを知り、深い悲しみと後悔に襲われました。それ以来、愛は誰とも話さなくなり、心を閉ざしてしまいました。


 数年後、子どもたちが公園で遊んでいました。一人の男の子が「今日ケーキ食べたんだ!」と言いかけた途端気絶してしまいました。周りの子ども達は驚き慌てふためいた様子でその男の子をおぶって公園を立ち去りました。


 公園には一人の女の子が立っていました。女の子は「不用意にケーキを食べたなんて言わない方がいいわよ」と言うと、少しだけ悲しそうな顔をして再び姿を消しました。

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