9:淵瀬
前話のあとがきが嘘になってしまいました。
「ここはどこですか?」
目の前にはどっしりした門構えの『いかにも通な人の御用達』という雰囲気の店がある。
看板には『茶寮 淵瀬』と書いてある。
それを見て樒は完全にビビってる。
「さて、行くぞ」
「無理!」
「気にするな」
「気になるし気にするよ!こんなお店行けるわけ無いよ!」
そんなビビる必要無ぇのに…。
「大丈夫!いけばわかるさ、コノヤロー!」
「余計心配になってきたよ」
「さぁ神楽ちゃん!いざ行かん!」
神楽ちゃんを呼び寄せ中庭を歩いていく。
樒もビクビクしながら付いてきている。
なんていうか……不審者みたいだな。
庭を渡り、入口の扉を開けると着物を着た女性が待ち構えていた。
「いらっしゃ……て、ミーちゃんか。」
この女性とは顔馴染みだが名前は知らない。しかも勝手に俺のことをミーちゃん呼ばわり。
悪い人ではないので呼び方は改めさせていない。
「よっ!飯食いに来た」
「アレ?今日予約してた?」
「いや、してない」
「部屋空いてないよ?」
「カウンターの方で食べるから大丈夫」
「それなら、こっちの入口から入って来ないでよ」
「いやぁ、二人のリアクションを見たくてさ。ついこっちから入りたくなったんだよ」
「なるほど。お兄さんなんて完全に萎縮してるじゃないさ。……いらっしゃいませ。今日はお座敷にはご案内出来ませんが、どうぞお寛ぎくださいね」
俺に小言み言うと、二人に向かうと営業スマイルで話し掛けた。
なにこの扱いの差は。
樒は会釈しつつ挨拶。
神楽ちゃんはしっかりとお辞儀。
とても礼儀正しい。親御さんはしっかりと躾たみたいだな。
席へ移動するため廊下を歩いていると樒が疑問を投げ掛けてきた。
「さっき、店員さんが『こっちの入口』って言ってたけど、どういうこと?」
「あぁ、行けばわかるさ。あ、ここを右に曲がるぞ。左に行けばトイレがあるから」
右に曲がると少し開けた部屋に出た。
「へぇ、こっちはカウンター専用のスペースなんだね」
「入口も専用のがあるんだぜ。こっちはその入口から入るんだ。」
アレだな。要は客層・客種を分けるような造りになっているんだ。
会席・接待には座敷。
軽く一杯にはカウンター。
だから店名は『淵瀬』
付き合い・集まりの深さの度合い。
深いと浅い。下らない暗喩だ。
「おい、クソガキ。さっさと座れ」
椅子に座ろうとすると、カウンターの奥からオッサンがでてきた。一応ここの主人。
オッサンは不機嫌そうだがこれが普通の状態。
「よっ、オッサン。飯食いにきてやったぜ!」
「ふん、手前ぇが来るとウチの価値が落ちちまうぜ」
違ぇねぇや。
「で、その二人が今日の連れかい?」
オッサンが二人の紹介を促してくる。
「あぁ、樒と神楽ちゃんだ。樒は学校の同期生。神楽ちゃんは樒のいとこだ」
神楽ちゃんについては誤魔化しておく。
「よく来たな。今日はゆっくりしていってくれ」
オッサンは二人にニカッとわらう。
「よし、さっさと食べようぜ?オッサン適当に頼むよ」
更新する度に思います。
長ったらしい。