5:冤罪
基本は一話、一人の視点のみで語ります。
なので内容も短くなりがちです。
例外はあります。
三人称を書く力はありません!
「いやぁ、妹の服が着られて良かったよ」
サイズが少し心配だったけど、と笑っているのは僕の限り無く狭い交友関係の内の一人、境田京。
こんな名前だけど一応男だ。
今風の服装、緩いパーマの髪型に優しげな顔立ち。
所謂イケメン。
本人は自称『草食系男子』と言うが、僕にはとてもじゃないがそうは見えない。
どこの草食系が居酒屋で女性だけのグループに自然に話し掛けられるんだという話だ。
ちなみに九歳の妹がいる。
――閑話休題――
「アリガトウゴザイマス」
夢で会っただけの、隣で寝ていた見知らぬ少女Aに服を着せる京に声を掛ける。
少女Aは着ていた服以外何も荷物を所持してなかった。
京が一旦帰宅し、妹の服を数着持ってきてくれたのだ。
部屋の隅で三角座りをしてボーっと二人を見ていた僕に、少女Aに対しては終始笑顔だった京が無表情でこちらに振り向く。
「…で、弁明は?」
「…ぼ、僕は無実です」
「ド変態」
「…え?」
「淫行罪」
「え?」
「未成年者略取」
「……」
「……ロリコン?」
とどめの一言。
「ち、違うよ!ホントに違うんだ!!」
「熟専?」
「そっちじゃねーよ!!」
そこは全力で否定させてもらう。
「まぁ気にすんなよ。ただの茶目っ気だ」
京は笑いながら答えた。
冗談に聞こえないから質が悪い。
「樒、冗談は置いといて……マジでどうすんの?」
どうすんの?とは少女の扱いについてだろう。
「どうすんの?……って警察位しか――」
そう言うと少女Aはびくりと肩を震わせて、京の腕に抱きついてしまった。
「あ、嫌われちゃったかな?」
少し心配になる。
「いや、違うと思うぞ。…きっと警察ってワードが引っかかったんだと思う」
さすが妹がいるだけのことはある。子どもの機微に詳しい。
こじつけだけど。
すると、京は何か考えるような素振りを見せると、少女Aの頭を撫でて優しく声をかける。
「俺の名前は境田京。ねぇ、君の名前を俺に教えてくれるかな?」
「……」
沈黙。
「恥ずかしいのかな?お兄ちゃんにお名前教えてくれないの?」
再挑戦。僕だったら一度無視されただけで心が折れてるよ。
「……」
再び沈黙。
なんだか京が可哀想だ。
「なんなら俺の事はミーちゃんって呼んでくれ」
「……」
三度沈黙。
京の甲斐甲斐しさに涙が出てくる。
しかし、京を受け入れたのか小さく頷く。
「で、あっちで三角座りしてる変態が樒。シーちゃんって呼んであげてね」
反応を貰えたのが嬉しかったのか嬉々として僕を指差す。
「……」
首肯。
「え?なんだか僕に対する扱いが酷くないかい?」
「いや、十分だろ。このロリコ――」
「まだ言うかっ!」
即座に否定。
何とかして一矢報いたい。
「とかなんとか言って京もその気があるんじゃないの?」
きた!僕の会心の一撃!
「はン!樒には俺の慈しみの心が理解出来んのか?そんなだからモテないんだぜ」
京の痛恨の一撃。
僕の心にヒビがっ…!
「…っ!……だけど肝心な名前は聞き出せてないじゃないか?どうするんだい?」
重箱の隅をつつくように詰問する。
すると、京は周りを見回すとテーブルの上のペンを取り、カバンからルーズリーフを取り出して少女Aに手渡した。
少女、オロオロ。
「さぁ俺たちに名前を教えてくれないかな?」
京がそう言うと意図を理解したのか、少女Aは紙に名前を書く。
「へぇ、神楽ちゃんっていうのか。可愛い名前だね」
京は満足そうに少女A改め、神楽ちゃんに笑いかける。
神楽ちゃんは嬉しそうにはにかんでいる。
「あ、やっぱりその名前なんだ?」
ぽろっと零してしまった。
すると、京はもの凄い早さで僕を睨み付けて、
「名前、知ってたのか?」
こう尋ねてきた。
怖い怖い!京さん超怖いですよ!
取りあえず頷く。
「俺の努力って一体……」
京はそう言いつつ、うなだれてしまった。
…なんかゴメン、京。
京の落胆っぷりに神楽ちゃんも慰めるように京の肩を叩いていた。
早く魔法的な何かを出したいです。