2:日常
早速二話です。
……prrr!!!
「……夢?」
携帯電話の音で現実に引き戻される。
時間は午前11時07分。
「………あ…バイト!」
既に07分の遅刻。
電話の相手を確認すると案の定バイト先からだった。
「…あ!樒です!申し訳ありません!!」
『…いや、珍しいね。何かあったの?』
「いえ、寝坊です!すぐ行きます!」
『ん、事故には気を付けて。あと、遅刻分はきっちり残業してもらうからね』
「はい、直ぐに向かいます!失礼します!」
電話を切ると急いで着替えて鞄を肩に掛ける。
財布と携帯電話はパンツのポケットに突っ込み、寝癖が付いた髪は帽子で誤魔化す。
「行ってきます!」
玄関で靴をはきながら誰もいない部屋に声を掛ける。
一人暮らしを始めても中々抜けない癖。
声は返ってこないけど気にしない。
急いで部屋を出て、扉を閉める。
ただ、今日は何時もと違い、扉が閉まりきる直前に声が聞こえた気がした。
いってらっしゃい
「お疲れ様でーす」
遅刻分の時間を含めたバイトを無事終えて荷物をまとめていると、店長に後で事務所に来るように呼び出されたので事務所に向かう。
呼び出しの理由は勿論今日の遅刻についてだろう。
事務所の扉をノックする。
「失礼します」
扉を開けると、事務所のテーブルで煙草を吸っている店長が居た。
店長は特別怒っているようには見えない。
「お、樒君か。今日もお疲れ様。まぁ座ってよ」
店長は座るように促し、座ると話を切り出す。
「で、どうしたの?何時も20分前行動の君が寝坊で遅刻なんて」
珍しそうに尋ねる。
「はい、今日は申し訳ありませんでした」
「まぁいいさ。遅刻分は残業してもらったし。今日のところはイーブンって事で。でも次からは気を付けてね」
店長は苦笑しながらも思い付いたように続ける。
「…あ!もしかしてアレか!?」
そう言うと店長は右手の小指を立てた。
「い、いえ…違いますよ…?てか古いですね、小指たてるの」
ただ、カノジョではなく少女だったという違い。しかも夢。
「アレ?違うの?」
「どこからカノジョって出てくるんですか!?」
「いやぁ、俺が学生の時には大体女絡みで遅刻してたからさぁ」
笑いながら答える店長。
内容によっては、下手したら刺されかねない事を笑い話で済ませるのが恐ろしい。
遅刻にもあまり怒らなかったのもこの言葉によるものだろう。
むしろ『経験者は語る』というものに近いようにみえる。
「じゃっ、話はこれだけだから!早くカノジョの所行ってあげなよ!」
「だからカノジョなんていませんってば!…失礼しました」
事務所を出て、他のスタッフとも挨拶をして店を出る。
空を見上げて煙草を吸う。
夕焼け空が眩しい。
溜め息をつきながら煙を吐き出す。
「今日は早く寝よう」
この作品はジャンル分けをファンタジーとしていますが、日常がメインの話となってます。