18:哀悼
勢いだけで書きました。
昨日狼男が現れた場所に行くと、そこには神楽ちゃんがいた。
神楽ちゃんは狼男が倒れた場所で、しゃがんだ体勢で目を閉じて手を合わせていた。
「……」
「……」
その光景を黙って京と見守る。
神楽ちゃんのその姿はとても綺麗で、とても清廉で、思わず目を奪われてしまった。
しばらく見ていると、神楽ちゃんの涙が頬を濡らした。
優しいんだろう。
襲われたというのに、狼男のために心を痛めるなんて。
とてもじゃないが僕にはできない。京を横目でみると、彼もばつが悪そうに目をそらしていた。
しばらくすると神楽ちゃんは僕たちに気付いようで、慌てて涙を拭うとぎこちない笑顔で近づき、僕に抱きついてきた。
少し腫れた目元を隠すように。
暫く好きなようにさせていたが、対応に困り京を再び見ると、先程の神楽ちゃんと同様に手を合わせていた。
意外だった。
さっきは嫌そうな顔してたのに拝むとは。
京ならあんな目にあったんだから唾でも吐き捨てるかと思ったけど、そうではないようだ。
「……京?」
「……どうした?」
京らしくない真面目な顔で僕を見つめる。
……未だに境田京という人物像を掴めない。
真面目不真面目破天荒軽薄慇懃無礼気紛れ……今までいろんな顔を見てきたつもりだけど、どれも本当でどれも嘘のように見える。
でも、知ってる。京はとても優しくて甘くて時に苛烈。
以前、学校の講義で『自分をお菓子に例える』というものがあった。
そこで京は自分のことを『コーラ』と評した。
曰く『冷たくて甘くて皆に愛されてる』だそうだ。
巧いこと言ったみたいだけど痛々しかったのを覚えてる。
でも、それが全てでないのは想像がつく。
『冷たくて甘くて皆に愛されて歯に悪い』
本当ならこう言いそうなものだ。あくまでも予想だけど。
とにかく、嘘はついてないだろうが本当を全ては明かしてないのだろう。
そのあたりはプライバシーってものかな。
『ちなみに俺としては樒はスルメだな』
曰く『噛むほどに味がでる』
何のこっちゃ。
お菓子ですらない。
閑話休題。
「……いや、手を合わせてたから……」
「ああ……。皮肉だろうが、一応気に入ったって言われたからな」
なんというか律儀だ。やっぱいい奴なんだね。
「へぇ…」
京は『俺は大っっ嫌いだけどな』と続けた。
凄く嫌そうな表情。
思わず苦笑してしまう。
「……なんだよ、急に笑いやがって」
『何でもないよ』とだけ返すが、京は納得してないようだ。
頭ちゃらんぽらんだと思ってた友人が不思議な優しさを発露させ、襲いかかってきた狼男に対して哀悼の意を示したんだよ?
そんな彼の僅かながらのマトモな人間性を評価しないでどこを評価するというのだろう。
彼の心の成長を祝福しようではないか。
アーメン。
ま、意味ない適当な思考はなおざりに。
「……樒、ニヤニヤしてると頭疑われるぞ」
失礼な。
「……さて、神楽ちゃんも見つかったし、帰ろうか?」
神楽ちゃんと手をつなぎ、京に先行して歩く。
すると、後ろからぽつりと。
「…幼女と手をつなぎ、ニヤニヤ歩くその姿は正にロリコンそのものであった」
……よくもまぁ口がまわることで。
今後の方向性が定まりません。