13:軽口
ぶつ切りの文章で細やかな表現は難しいです。
神楽ちゃんが立ち止まる瞬間、おかしなものを見た。
自販機の影が揺れたのだ。
揺れた影は膨らむと人の形になった。
人……いや、口の形は人のそれではなく肉食獣のものだ。
狼男。
これが率直な感想だ。
いくらなんでも俺の守備範囲外だ。
あの影が『旨い飲み屋を教えてくれ』って言えば教えられるが、さすがに無理がある。
あー………。
ホントならこの後家に帰って可愛い妹と一緒にWIIをして風呂入ってから漫画を読んで心地良く床について明日は何があるかなと考えつつ目を閉じると同時に羊の数を数えて羊と山羊の違いは角と毛以外ないのかと思いながら俺には関係無いと結論付けたら何時の間にか朝になって妹を学校の近くまで送ってからUターンで家に帰り新聞を広げつつコーヒー飲みながら今日の運勢に一喜一憂してから家を飛び出して学校に直行して講義で寝て気付いたら飲み屋にいたりバイトに精を出しながら大暴れして精魂尽き果てボロボロで帰宅して風呂上がりにコーヒー牛乳飲んだらパックに妹の名前が書いてあったから慌ててコンビニまで走って馴染みの店員と暫くダベって帰ったら家が施錠されて家なき子で樒の部屋まで行って買ったコーヒー牛乳を神楽ちゃんに渡して変な目で見られ―――――
大きな金属音で意識が戻る。
気がつくと隣に居たはずの神楽ちゃんが樒の一歩前に出て、掌を狼男に向けて翳している。
神楽ちゃんの足下には動物の――狼男の――毛が煙を出しながら落ちている。
「……神楽ちゃん?」
呼び掛けても反応は無く、狼男に向けて手を翳したままだ。
「見ぃつけたぁ」
狼男が喋った!
てか動物が喋るのかよ!?
おかし……。
狼(動物)+男(人間)=狼男
人間。よって奴は喋る!
よぉぉしっっ!納得ぅぅっ!!!
目で見た現実は受け入れるのが俺のポリシー。
で、気持ちを入れ替える。
「かか神楽ちゃん、ああちららのか方はおお知り合いいかな?」
やべ、気持ちを入れ替えた筈なのにかなりブルッてる。
神楽ちゃんは無言で頷く。
だが、知り合いとはいっても明らかにお友達の雰囲気は無い。
樒を見ると狼男に目を合わせたまま固まっている。
顔が真っ青。
きっと俺も真っ青なるだろうな。
「見つけたと思ったらぁ、そんなカスの近くに居たのかぁ」
何ていうか……非常に勘に障る喋り方だ。
皮肉ってやりたいが生憎声が出せない。
「おいガキィ、こっちの空気はどうよ?」
神楽ちゃんは黙ったままだ。
「すんげぇ旨ぇだぁ…ろっっ?」
そう言いながら狼男は自らの体毛を毟り、投げつけてきた。
投げられた瞬間、柔らかな体毛が針のようになり神楽ちゃんに向かって飛んできた。
しかし、体毛の針は神楽ちゃんに当たる直前に掌を中心に広がった何かによって金属音を響かせながら弾かれた……ように見えた。
再び神楽ちゃんの足下に体毛が落ちる。
………怖ぇぇぇ!!!
どこの鬼○郎だよ!
「やっぱり二回防いだってことはガキでもこれ位は防ぐかぁ。流石だなぁ?」
笑ってる。
明らかに神楽ちゃんを馬鹿にしてやがる。
神楽ちゃん相変わらずシカト。
俺がムカムカしてきた。
俺ってば単純。
神楽ちゃんが無反応で、退屈なのかターゲットを俺にしてきた。
「……で、手前ぇは誰だ?」
狼男が俺を指差した。
「向こうじゃ知らねぇぞ。見たことねぇ顔だ」
突然話を振られて焦る。
向こうってどちら?
てか、脇とか背中が汗でびっしょりなのに、口の中がカラカラ。
喋れない。
「んん?手前ぇビビって喋れねぇのか!?」
否定できない。
「気にすんな。当然だよなぁ、こんなの見ちゃあ。だが、逃げてもいいぜぇ。……逃げれるならなぁっ!!」
そう言うと俺に大きく飛び上がると、俺に飛びかかってきた。
瞬間、とっさに前転して避け、避けた勢いのまま狼男に向き直る。
俺が居た場所は小さなクレーターができ、中心には狼男が立っていた。
……俺天才!俺の本能スゲェ!!
今の回避で心に余裕がでて少しなら喋れそうだ。
「ざ、ざまぁねえな。避けてやったぜ?」
「ハハッ!偶然……だろ?」
狼男は口の端を吊り上げながら笑った。
まるで楽しく遊んでいるかのように笑ったように見えた。
そう思うと俺の気が楽になった。
それなら……。
「どうだか」
笑いながら言ってやった。
こっちとしても思いっきり笑ってやろうじゃないか。
……怖いけど。
「…気に入ったぜぇ、このクソガキィィ」
何故か気に入られた。
マトモな表現力と語彙力がほしいです。