10:幻視
ようやく現実離れし始めました。
「京がこんなお店知ってるなんて思ってみなかったよ」
「まぁな。普通なら知ってても行かねぇけど、ここは特別だ」
僕は出された料理に手を着けながら京に言う。
京はビールを呑みながら答える。
ちなみに今はカウンターで、神楽ちゃんを中に左に僕、右に京が座っている。
味は言わずもがな。
「だよね。入りたくても入れないね。敷居高そうだし」
すると、『敷居高そう』に反応したのか、オッサン改め大将が僕に話し掛ける。
「兄ちゃん、そりゃあいけねぇな。若いんだから色々体験せにゃ」
「そうだぞ。時には大胆になるべきだ」
京も尻馬に乗る。
「クソガキ、手前ぇの大胆さは別格だ。もっと慎ましさと節度を覚えろ」
そんな話で笑っていると神楽ちゃんが僕の服を軽く引く。
顔を向けると廊下の方を指差した。
……あ、トイレね。
「うん、いってらっしゃい。場所は分かるね?」
神楽ちゃんは頷くと椅子を降りて廊下へ向かった。
「ん?神楽ちゃんはトイレか?」
京……デリカシー無いな。
「……そうだよ」
「…ふーん。それでオッサン、視てみてどうだった?」
ふと、変なことを言い出す京。
「あぁ、兄ちゃんとお嬢ちゃんの線は繋がってるが、繋がり方がおかしい」
大将も訳が分からない事を言う。
「クソガキ、ついでにもう一つ。オレに嘘の紹介しやがったな?」
「あぁアレか。ゴメンゴメン」
京は笑いながら謝る。
これは分かる。神楽ちゃんをいとこと紹介したことだね。
「まぁいい。兄ちゃんとお嬢ちゃんの繋がりについてだ」
大将は溜息をつく。
「へぇ。樒と神楽ちゃんの繋がりはどんなだった?」
京は僕を見てニヤニヤしながら大将に聞く。どうせ『恋人』とかいう言葉を待ってるんだろう。
「……ありゃあ親子の繋がりだ」
「…………へ?」
あ、京が固まった。
「だから、親子だ。お・や・こ」
京は依然固まったままだ。
変わりに僕が続ける。
「親子ですか?」
「……兄ちゃん、責任とってるわけだな?」
「……」
えぇ〜?
「いやっ!変なこと言って済まなかった!」
焦りながら取り繕う大将。
盛大な勘違いをしてらっしゃる。
「全く身に覚えのない事なんですが、何故親子と?」
「それは俺から言う!」
あ、京が復活した。
「オッサンは見えるんだ。
所謂
『対象の人との繋がり』
を」
京はしたり顔で僕を見つめる。
「こらクソガキッ!手前ぇ、何したり顔で自分の事のように答えてんだよ!」
大将が良いところを盗られ憤慨する。
京と大将のコントはともかく、大将の特技?力?も普通は笑い話と捉えるけど、今なら疑うことなく信じられる。
何故なら……、
「ねぇ、京?」
「ん?どした、神妙な顔して」
「僕の夢についての事で、まだ話してないことがあるんだ」
「……何だよ?」
「大将の……いや、この場合は僕の答え合わせかな。……夢で神楽ちゃんに合ったって言ったでしょ?アレの関係なんだけど」
「夢……」
「そう、夢の中での話なんだけど……神楽ちゃんに『お父さん』って呼ばれてた」
僕が答えを知っていたから。
今更ですが感想・批評をいただけたら嬉しいです。