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リリの襲撃から翌日、学校へ行きバイトへと向かう。周りには何となく自分の状況を話せないまま1週間が過ぎた。

流石にお金も心配になり、意を決して家に一度戻ることにした。


(リリがいませんように…)

私はリリと会わないよう祈りながら家の近くを警戒しながら歩く。

玄関に着くとそこには赤いスプレーで死ね!と落書きがされていた。

(もう無理だ…)

リリは家にまた来てたんだ、私がいないからスプレーで落書きしたのか。

この家に居るのはやはり危険かもしれないと私は急いで必要なものを家から掻き集めてまた家を出た。


大きなカバンとキャリーケースを引きずりながら私は途方に暮れていた。

(はぁ…マジでどうしよう)

警察に相談しに行くことにした。

相談して分かった事はリリは精神を病んでるらしく両親がリリを見ていたようだ。

今回の件で入院させていたらしいが数日前に脱走し現在も居場所が分からないらしい。

「捕まるまでは家には帰らないほうがいいですよ、頼れる人はいますか?」

「えっと…それは…」

「良かったら未成年の保護施設に一時的に入れるか聞いてみますか?」

「少し考えさせて下さい」

「何かあったら直ぐに来て下さい」

と警察を後にした。保護施設ってどんな場所なのか…、今まで一人で気ままに過ごしていたから抵抗あるなぁ。

しかしホテルでの暮らしも金がかかり過ぎるし…。


とにかくバイトに行こうと荷物を抱えてバイト先へと向かった。

店長や岸丸先輩には家出?と驚かれたが事情を説明すると酷く同情してくれた。

「言ってくれたら良かったのに!私の家に来なさいよ、家は小さい子供がいてうるさいかもしれないけど何日いてもいいからおいで!」

と女性の店長である星塚ホシヅカさんは私が呆気に取られてる間に私の荷物を自分の車に詰め込んでくれた。

「いいんですか?」

「当たり前じゃないの、もうアナタって子は何でも抱え過ぎなのよ!私じゃ頼りないかも知れないけど頼ってくれていいんだからね!」

と涙ながらに私を抱きしめてくれた。

店長がいい人で本当に良かった。

岸丸先輩も

「菜子ちゃん大変だったんだね、言ってくれたら良かったのに」

と心配そうに言ってくれた。

「大丈夫です、今のところ無事なので」

「俺も協力するから一人にはならないようにね」

と岸丸先輩は不安そうな曖昧な顔で私の頭を撫でた。

それからバイトをこなし、店長の家へお邪魔することになった。


店長の家は小さい子が2人いてそれぞれ2歳と4歳の子だった。

とても可愛くて私はその子達のお世話をしたりしながら店長の家に厄介になっていた。

子供達とも打ち解けてきた頃、私は再びリリと会うことになった。


「こんにちわ」

リリは穏やかな顔でバイト先に現れた。

私は驚きのあまり動けなくなった。

「菜子、ここでバイトしてるんだね…楽しそう」

と意味ありげにニタリと笑う。私は咄嗟に店の外へ出ようとした。

店内では数組のお客様がまだ食事をしている。

もし巻き込まれたら大変な事になると咄嗟に思ったからだ。

私が外に出る素振りを見せるとリリは逃さないという雰囲気で私の前に立ちはだかる。

先程から鞄の中にリリは手を突っ込んでいて、そこには凶器があるのだろうと容易に予想できた。

(店にまで来るなんて…)

「リリね、大変だったんだよ。菜子を殺さなきゃいけないのにさぁ…入院させられちゃったから逃げたり菜子はいなくなるから探さなきゃいけなかったし…でも灯純くんとの愛の試練だよね。でなきゃ納得できないもの」

何もおかしいところは無いという穏やかな声色で淡々と話してくる。

「菜子…死ね」

と鞄から包丁を取り出して私に向けたリリ。

私はその切っ先とリリから目が離せず恐怖で動けなくなる…頭の中ではどうするべきなのかと考えがぐるぐる回るがまとまらない。

リリが距離を詰めてきたと思った瞬間、私は外へ出ようと走り出した。

その様子にようやく事態を察知した客や従業員は叫び声を上げる。

「逃げるな!!」

とリリは鬼の形相で追いかけてきた。

私は店の外に出た瞬間髪の毛を掴まれて地面に倒された、相変わらずどこにそんな力があるのか物凄い力だった。

「あぁあぁああああああぁぁぁぁぁぁっ!!!」

とリリは獣のように叫び声を上げながら包丁を振りかざす。私は倒されながらも逃げようと藻掻いた。

「離して!」

髪の毛を掴んで離さないリリ、避けようと藻掻いため刃は私の左腕を切り裂いた。

「痛いっ!!」

その時、店から岸丸先輩が出てきてくれた。

「菜子ちゃん!!」

先輩はリリを背後から殴りつけた。リリは蹲り呻いていたが岸丸先輩は容赦なくリリを更に蹴り上げ包丁を取り上げた。

「いったぁ…っ」

岸丸先輩凄いと思いながらも痛みで腕が熱い、冷や汗も出てきた。

「誰か女を押さえて!警察と救急車を早く!」

と岸丸先輩が言うとどこからか出てきた数名の男性にリリは押さえられていた。

「離せぇぇぇ!!!」

と叫ぶリリが怖い。

「菜子ぉぉぉ!!死ねぇぇぇぇ!!」

とキーッ!!と威嚇する獣のようなリリ。そのリリを遮るように私の顔を心配そうに焦ったような顔で岸丸先輩が覗き込んできた。

「菜子ちゃん、生きてる?大丈夫?」

岸丸先輩は優しく話しかけてくれた。

「生きてます…」

「救急車来るから、大丈夫だからね」

と私を安心させようとしている。岸丸先輩は着ていたエプロンの紐を引き千切って私の腕を止血しようとしていた。

「痛いけど我慢してね」

「はい…うぅぅぅっ!!」

「もう少しで救急車来てくれるから、頑張ろうね菜子ちゃん」

「はい」

止血してくれた岸丸先輩に私はされるがまま抱きしめられて救急車を待つ。

警察や救急車が暫くすると到着し、辺りは騒がしくなった。

私は岸丸先輩と救急車に乗った、岸丸先輩はずっと私が落ち着くように話しかけてくれていた。

「菜子ちゃん、大丈夫だからね。俺がいるからね」

「ありがとうございます…」

私は段々と落ち着いてきたせいか、涙が出てきてしまった。

「怖かったね、可哀想に。もう大丈夫だからね」

「うっ…はい、ありがとうございます」

救急車で病院に運ばれた後、入院することになった。


警察に事情聴取されたり、様々なことが目まぐるしく起きる中私は退院して家に帰れたのは事件から3日ほどのことだった。

岸丸先輩が荷物を運んでくれたりととてもお世話になっている。

久方ぶりの家に岸丸先輩を通す、先輩は窓を開けて空気の入れ替えをしてくれた。

「何から何まですいません、ありがとうございます」

「気にしなくていいよ、怪我人なんだから座ってて」

と岸丸先輩は本当に優しくしてくれた。

私は居間に座りテレビをつけた、すると昼のワイドショーの時間で話題のニュースが取り上げられていた。

【続いては、町中で女が刃物を振り回した事件についてです】

と、リリの顔写真が映った。

「うわっ…」

岸丸先輩はリモコンで急いでテレビを消した。

「大丈夫?」

と気遣わしげに私を見ていた、心臓がバクバクしていたが心配かけたくないと思い

「大丈夫です」

と応えた、岸丸先輩は言いづらそうに

「あの日の事が昨日からニュースで取り上げられて騒がれちゃってるんだ。暫くしたらほとぼりも冷めるだろうから、何かあったら俺もいるし。菜子ちゃんは気にしないで」

「そうだったんですね…」

「大丈夫だよ、菜子ちゃんには俺がいるから。お腹減ったかな?何か作ろうか?」

「いえ、そこまでは!荷物を運んでくれたり沢山助けてもらってますから、これ以上は…」

「俺がやりたいんだよ、菜子ちゃん腕も痛いでしょ?それに一人にさせるのが心配だし」

「十分ですよ、助けて頂いた命の恩人にそこまでさせるなんて、心苦しいというか…」

私が色々とごちゃごちゃ話していると、岸丸先輩は困った様な笑顔で

「何ていうか…俺がやりたいんだ」

「…でも」

「怪我人なんだから大人しくして」

そう言ってくれた岸丸先輩に結局甘える形になってしまった。


その日の夜、岸丸先輩も帰り私は居間でゆっくりしていた。

(バイトもできないし、暫く節約しなきゃな)

と一人でボーッと考えているとドンドンとドアをノックする音が聞こえた。

「っ!」

少しトラウマになっているのか、ドアのノック音が怖い…。リリでは無いと分かっているがドキッとしてしまう。

ドアに近づき

「どちら様ですか?」

と声を掛けた、するとドアの向こうから

「俺だよ、菜子!」

と懐かしい声がした。

「灯純?」

「そう、開けて!ニュース見たんだ、大怪我したって聞いたから…」

私はスライドドアを開けると灯純が泣きそうな顔で立っていた。

「良かった…昨日は家も真っ暗だったから…俺怖くて…」

と私の足元にしゃがみ込んで心底ホッとした顔をして見上げていた。

「大丈夫だよ、心配してくれてありがとう」

「腕、大丈夫?」

「大丈夫、沢山縫ったけどもう平気だよ」

と笑ってみせると灯純は顔をクシャとさせて

「平気なわけないだろ…俺、菜子を助けてあげられなかった」

と泣きそうな声で呟く灯純。

「何でよ、灯純は関係無いって。気にしないで」

「関係無い…か。そっか」

と、とうとう涙を流してしまった。

「あっ、その!違うよ!リリが悪いのであって、灯純は悪くないし気にしないでってことで…」

と私が慌てると灯純は

「俺、菜子の側を離れてずっと…ずっと、寂しくて会いたかった。ずっと側にいた菜子がいなくて、受け入れられてない癖にそれでも菜子と居たかったってずっと考えてて…自分が苦しいから離れたくせに離れたら余計に苦しくなって…」

「灯純…」

「そしたら、菜子が大怪我したって聞いてもし菜子が居なくなったらどうしようって思ったら…」

グズグズ泣く灯純を玄関に立たせたままなのも忍びないと思い

「大丈夫だよ、入って?少し休んでいきなよ」

と居間に灯純を通した。

「お茶淹れるよ」

と私が台所に立つと灯純もついてきて

「手伝う」

とお茶の用意を2人でした。終始グズグズ泣いてる灯純にどうして良いか分からず取り敢えず2人で居間に座る。


「灯純、心配してくれてありがとうね」

私がそう言うと灯純は首を振った。

「お礼なんて言わなくていい、俺が菜子を守れなかったから…俺はいつも菜子に助けられてたくせに」

「そんなに気にしないでよ。それにね、助けてくれた人も沢山いたんだよ。だからもう平気だよ」

「俺にも頼ってくれたら良かったのに」

「葉里から彼女もいるって聞いてたし、それに灯純だって忙しいだろうなって思ったから…でも余計に心配かけちゃったね」

「葉里から?」

「うん、ダブルデートしたって聞いたよ?灯純にも大事な人ができたんだなって、良かったなぁって思った」

「そっか…」

「うん」

「けど、俺菜子ほどその子の事大事じゃないんだ」

「え?」

「やっぱり、菜子がいい」

灯純は真っ直ぐに私を見つめた。

「菜子が俺を好きじゃなくても、俺は菜子が好き」

「けど、彼女…」

「別れる。だからまたここに来ていい?菜子の怪我も心配だから」

そう言って私の怪我した左腕をそっと撫でた。

「いや、でも…」

「菜子は俺の彼女に悪いとか、気持ちに応えられないのにとかってごちゃごちゃ考えてるでしょ?」

「そりゃそうだよ、分かってるなら…」

「分かってても止めない。もうごちゃごちゃ考えるのは嫌だ、俺は菜子が大事って気持ち変わらないし菜子の側にいたい気持ちも変わらない。菜子が応えてくれなくてもいい」

「何もそこまでしなくても…」

「俺の正解はこれだから」

「正解?」

「うん」

灯純は私の傷を庇いながら私を抱きしめて

「菜子がいる人生がやっぱり俺の正解だった」

と安心しきった笑顔を私に見せた。

「菜子、愛してる」

「えぇっ」

綺麗な笑顔で灯純にそう告げられ狼狽えている私に灯純は更に笑みを増した。

「ずーっと側にいるね」

「…」

私は灯純の言葉にもはや何も言えなくなった。


開いていた私と灯純との距離は再び近づいた。








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