灯純
俺の母は、母親になれない人だった。
俺は母親から疎まれていた。
お前さえいなきゃ私は有名になれたのにといつも言っていた。
女優を目指していた母は、その昔有名俳優と不倫して俺を産んだ。
多額の慰謝料や手切れ金をあっという間に使い果たした母はこのボロアパートで俺と暮らしている。
見た目はいいから毎日男を取っ替え引っ替え、夜の店で働いていた。
酔って帰ると俺を殴り、父親似の俺がムカツクと呟いていた。
そんな地獄で俺は育った、ろくな食べ物もなく、水が止められると公園の水で腹を満たしたりそこで服を洗ったりしていた。
俺の地獄に光が挿したのは菜子のお陰だ。
「友達だもん、灯純くんは」
そうして菜子は俺の手を引いて明るい所に出してくれた。
菜子がいなきゃ腹が減りすぎて死んでいたかもしれない、菜子は食事を与え俺の身だしなみを整えたり、人と関わるように輪の中に入れてくれた。
菜子は俺以外にも優しくて、菜子は優しいから盗られたくなくて菜子だけいれば良いのにと何度も思った。
自然と菜子が大好きになって菜子とずーっと一緒にいたいと思った。
そんな時にリリという女の子が邪魔をしてきた。
菜子を虐めるリリを遠ざけたくてわざと少しだけ付き合って別れようと思った。
そしたら思いの外しつこい女の子で、大好きだの一緒にいたいだのと言ってくるから面倒臭くて適当にそうだねと合わせていた。
菜子も俺に彼女ができた事を何とも思ってないようなのも面白くなくて、リリが邪魔でしかたなかった。
リリは素っ気ない俺にさらに構うようになっていく、俺は適当にニコニコとそうだねと話を合わせる。
何を言ってもそうだねと、目を合わせない俺に必死に縋るリリが馬鹿みたいに見えていた。
どっかで別れるタイミングはあるかなと思っていたらリリは勝手に自爆した。
俺の友達の葉里がリリに怒った。
チャンスだと思い別れ話を切り出した。
それから面白いように学校に邪魔者が来なくなり、俺はそれから楽しく学校に菜子と通えるようになった。
卒業式の日にはまた暴走してたから殴りたかったけど我慢した。
菜子には普段から平和的に解決するようにと言われていたから。
中学になると、リリみたいなウザい女が沢山現れた。俺に好意を寄せるその目が態度が気持ち悪い。
誰がお前等の飯何か食べるかよ。
菜子が作った飯でなきゃ意味ないし、気味の悪い物が入れられてるものを人に渡す神経が分からない。
菜子はそんな事しない。
ちゃんと、俺の体の為に考えて用意してくれる。
菜子はきっと良い奥さんやお母さんになるんだろうな、俺の親みたいにならず。
もし菜子が結婚するなら俺が旦那になりたい。
菜子と家族になりたい、俺のために帰りを待っててくれて俺のためにご飯を用意してくれて、俺の話を聞いてほしい。
菜子が俺の帰る場所になってくれたらいいのに。
そしたら俺の人生少しは報われるのに。
どんな時でも俺が腹を空かせてないか心配してくれる奈子が俺は大好きだ。
なのに…、俺見たんだよ。
葉里何かに告白されて舞い上がっちゃってさ…。
許せないだろ?
葉里も菜子も酷いよね。
だから葉里なんか忘れてほしくて俺は菜子を盗られたくないから考えたんだ。
菜子と付き合えば良いんだよ。
そうしたら俺は菜子の側にずっと居られる。
菜子を縛れる権利がもらえるんだ。
菜子は優しいから、俺が可哀想だってきっと受け入れてくれる。
菜子、俺の菜子…絶対に俺の人生から逃がしてやらないからね。
暫く菜子の家に世話になることになったので、菜子が寝静まったあと俺は菜子の寝顔をそっと覗きに行った。
健やかな寝顔で、愛しさが込み上げてくる。
(菜子、ずーっと一緒にいよう)
祈りを込めて菜子のおでこにそっと手のひらを乗せた。可愛い菜子…。
俺の人生に菜子は絶対に存在してなきゃいけないんだよ?だって、菜子が俺を見つけたんだから。
だから最後まで俺の救いでいてね、俺の世界の真実は何時だって菜子なんだよ。
無責任に俺から離れるなんて絶対に許さないからね。
でなきゃ俺は壊れちゃうかもしれないから。