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中学生になると、灯純はさらにモテるようになった。

「あのさぁ…」

「ん?」

「これから朝ご飯の事なんだけど…」

「ん?」

無心でオニギリを食べている灯純。リスみたいだな。

「灯純、最近女の子が差し入れとかプレゼントとかで食べ物もらったりしてるじゃない?」

「あぁ、アレ?」

「沢山もらえてるんだし、もう良いんじゃない?朝ご飯」

私が見てる限りでも灯純は沢山食べ物をもらっているので、もう栄養の面で私が心配することは無いのかなと思っていた。

途端に灯純は、私の方を向いて

「なら断る、というか他の子から貰ったもの何が入ってるか分からなくて怖いから捨ててるんだ」

「え?捨ててるの?」

「うん」

「勿体ないなぁ」

「…なら見てみる?」

と、灯純は私を昼休みに家庭科室に来るように言った。私は家庭科室で灯純を待ってると紙袋に沢山のお菓子やパンとかお弁当が入っていた。

「わぁ、凄いね。これ皆もらったの?」

「まぁ…取り敢えず見てよ」

と、家庭科室で灯純は紙袋から食べ物を出した。


それから家庭科室でチョコを溶かした途端…

「何これ…何か臭い?」

「何か変な匂いするよね」

更にパンの中には…

「これって…何かの破片?」

「たぶん、爪」

「うぇ、嘘でしょ?!」

更に弁当箱を開けてみると

「うわぁ…」

「怖いでしょ?」

中身は真っピンクのオニギリと、何か異臭を放つ黒いおかず達…。

手紙も添えてあり

【灯純君へ

私は貴方が大好きです。私の気持ちをどうか受け取ってほしいです、私毎日灯純君を思ってます】

灯純の事を大好きなのは分かるが…これはちょっと。

「確かに食べれないね」

「だよね」

「…何でこんな事しちゃうかなぁ」

「気持ち悪いよね」

「…」

否定できない。こんな感情ばかり向けられてたらキツイよね。

灯純の恋愛観が歪まないよう今後の人生のために健全なアプローチをするよう呼びかけなくては…。


取り敢えず、これからは差し入れやプレゼントは受け取らないとハッキリ断るよう灯純に話をした。

「世の中こんな女ばかりじゃないからね?」

「知ってるよ」

「本当に?灯純、無理してない?」

「大丈夫。俺もう小さい子じゃないから」

「そうだけど…」

灯純はもらった食べ物を残飯として家庭科室の生ゴミ処分の箱に入れた。


灯純の周りは中学生になってから目まぐるしく変化していた。

ファンクラブが出来たし、文武両道で成績も優秀。

皆から一目置かれる存在として輝いていた。

何だか遠い人になっちゃったなぁ。


「菜子、帰りにゲーセン行こうぜ」

「いいよー」

私を誘ったのは小学生からの遊び仲間の男子、葉里(はり)という男子。

「今日、灯純は部活の助っ人で忙しいみたいだからこないらしい」

「そうなんだ。葉里と遊ぶの久しぶりだね」

「だな、ってか幼稚園以来じゃね?灯純無しでの遊びって」

「そうだね、いつも灯純はいたからね」

「そうそう。いっつもお前の後から付いてきたよな」

「そうだっけ?」

「そうだよ、俺達てっきり両思いなのかと思ったし」

「幼馴染だからだよ、灯純最初は人見知りだったし」

「ならよ、俺とかどう?」

「え?」

「…その、いつも灯純と一緒にいたから言えなかったけど…お前のこと好きだ」

「…えぁ、あっと…」

と私がテンパってると、葉里はニッカリ笑い

「返事はそうだな、来週にでもくれよ。振ったからって気まずいとか友達じゃないとか思うなよ?振られたとしても俺等友達だからな」

と、葉里は私を気遣うように言ってくれた。


その日は2人で遊んで楽しかった。

葉里は私が楽しめるように気遣ってくれ、時折私を見つめて頭を撫でたり人混みでぶつからないよう肩を抱いて守ってくれたりした。 

葉里ってこんなに紳士だったんだなと見る目が変わった。

家まで送ってくれて、その日は不覚にもときめいたりしてしまった。

葉里はいい奴だし、彼氏にしたらきっと楽しそうだよなぁと部屋で考えていると襖をノックする音がした。

「ん?灯純?」

この家でノックするのは灯純しかいない。

幼馴染の灯純は私の家を出入り自由でいつでも好きな時に来ている。

「入るよ」

「はーい」

灯純は汗をかいていた。

「部活終わりでそのまま来たの?」

「うん」

私は灯純にタオルを渡した、灯純は汗を拭いてから

「…今日、泊めてほしい」

「いいけど、何かあった?」

「母さんが男呼んでるから…」

「…好きなだけいたら良いよ」

と、私は灯純の状況を察した。きっと、灯純の母さんの彼氏に邪険にされ殴られるのかもしれない。

前にもこういった事があり灯純はしばらくここに住んでいる事があった。

灯純に関心のない母親は男と別れると思い出したように灯純を連れ帰るのだ。

きっと、今回もそうなのかも…。


婆さんに灯純が泊まると話すと

「いいよ、灯純ちゃん。好きなだけいなさい」

とニコニコしている。婆さんは本当に優しい。

きっと察してはいると思うけど何も追求しない。

ただ、困ったらいつも受け入れてくれている。


周りの大人からすれば児童相談所に行けと言うかもしれないが、灯純はこの街を離れるのも友達と離れるのも嫌だし施設の大人も信用できないから行きたくないと言っていた。

灯純は見た目が良すぎて、ロリコンに付きまとわれた事もあったし母親の彼氏に悪戯されそうになったりもした。

灯純がトラウマにならないよう、私や婆さんや友達が灯純を守っていた。

だから灯純にとって信用できる人から離れるのは耐えられないのだと思う。

だから児童相談所には行かないようにしていた。


「灯純、私さっき風呂に入ったから次どうぞ」

「ありがとう」

「タオル置いとくね」

「うん」


私は灯純が風呂から上がるまで着替えを用意して、ご飯を用意した。

婆さんはいつも早く寝るので先に食べてもらっていた。

「菜子ちゃん、私は先に寝るからね」

「わかった、また明日ね。お休みなさい」

時間は8時になっていた。


灯純は風呂から上がり、髪を乾かすと居間に来た。

「ご飯ですよ、どうぞ」

「ありがとう…おいしそう」

「そう?最近は夜も私が作ってるんだけど婆さんみたいに出来ないから味の保証はしないわよ」

「菜子が作ってくれたらなんでも美味しいよ」

「また調子の良いことを」 

「本当なのになぁ」

それから2人で食卓を囲んで学校の事を話した。

「菜子はテストどうだった?」

「平均かな?灯純は相変わらず1位なの?」

「まぁね」

「凄いねえ、灯純は。高校もこのまま行けば良いところ行けるんじゃない?」

「うん、まぁ」

「灯純が凄い所に行ったら幼馴染として嬉しいよ」

「…幼馴染としてじゃなくて、恋人としてならどう?」

と、灯純が言うと私は冗談だと思い

「そりゃハードル高すぎよ。灯純みたいなイケメンでハイスペと付き合うなんてさぁ」

「何で?」

「だって、私は特に凄い所なんてないしさ」

「だから葉里ぐらいが丁度いいってこと?」

「…へ?」

何で知ってるの?

「葉里の態度見てたら分かるよ、菜子の事好きなんだなぁって」

「んー、そっか」

「どうするの?」

「うん、ちゃんと考えて話すよ。葉里は真剣に言ってくれたんだから」

「菜子は葉里みたいなのが好き?」

「好きって言うか、葉里って本当に思いやりがあるんだよね。人として葉里みたいな人は好きなんだ…けど恋愛で好きかって聞かれたら…考えたことなくて」

ミシッと箸が折れる音がした。

「あ、ごめんね。お箸駄目にしちゃって」

「お箸持ってくるね」

買ったばかりなんだけどなぁ、不良品?

私は灯純に箸を渡して

「もし、やっぱり恋愛対象として見れなくても友達でいようって言ってくれるくらい優しいから…」

「ゆっくり考えなよ、菜子の気持ち次第だし」

「うん」

灯純はその日、居間で寝てもらって私は部屋に戻った。


翌日、2人で学校へ行く。

「お、菜子ー、灯純ー!」

と葉里が寄ってきた。

「相変わらず仲いいな、二人は」

「まぁ色々あって…しばらく灯純は家に居られないみたいだから昨日から家にいるの」

と私が言うと葉里は何か察したのか

「あぁ…そっか。俺に出来ることあれば言ってくれよな?友達なんだしよ」

灯純はニッコリと笑って

「うん、ありがとうな」

と葉里に言う。三人で登校しながら放課後の事を話していた。

「灯純は暫く助っ人で忙しいの?」

と私が尋ねると灯純は困ったような顔で

「うん、何でもレギュラーの子が怪我したらしくてさぁ。予選も近いからって頼まれて」

葉里は

「スポーツ万能だからなぁ。灯純は」

「俺じゃなくても良いのに。放課後遊べないから嫌なんだけどな」

「最強の帰宅部ってスポーツ系の部活の子は言ってるよね」

と私が言うと、葉里も頷く。灯純は面倒くさいという顔で

「いいように使われてるだけだって」

と言い放った。


灯純は暫く放課後は忙しそうにしていた。

だから、私はなるべく忙しい灯純に構いすぎないようにしていた。

葉里も気を使って放課後は灯純を誘うことなく自然と葉里と二人で過ごすことが増えた。

葉里は告白した日からそんな素振りは見せなかったけど気にしているだろうなと思った。


何度考えても小さい頃から一緒だった葉里をそんな風には見れなくて、何を言っても傷つけてしまう事は分かっていた。

だからと言って何もなかったようにするのは卑怯だよね。


告白された日から暫くして私は葉里に正直に話すことにした。

「葉里…あのね、この前の事なんだけど…」

「うん」

夕暮れの帰り道だった。葉里と私は歩きながら話す。

「…この前の返事なんだけど、私はやっぱり葉里とは付き合えない。葉里の事が嫌いとかじゃないよ、けどやっぱり友達としてしか私は考えられない。ごめんね…」

「いいよ、聞けてよかった…もしかして灯純が好き?」

「灯純?そんなんじゃなくて、友達だよ。小さい時からの仲だし」

「なら良かった」

「え?」

「あんまし言いたくないけど、同じ小さい時からの仲で差があったらヤキモチ焼くし、それに…」

「それに?」

「灯純はちょっと怖い所あるから、恋人とかになるのは心配なんだよな」

私はヒュッと息を呑んだ。葉里も灯純の中の何かに気付いてるんだ。

「灯純は菜子に執着してるから、その気がないなら気をつけろよ?」

「そう…かな」

「そうだと思うよ…灯純には言わないで欲しいんだけどさ…リリって居ただろ?小6の時の灯純の彼女」

「いたね、何か最後は大変だったけど」

「あぁ、あの時さ灯純はリリと付き合ってたけど…リリと居る時は目を合わさなくて本当に興味がなさそうでさ、リリがどんなに一笑懸命話しても「そうだね」しか言わないんだよ」

「そうだったの?」

「うん、俺達男子は灯純が照れてるだけなのかと思ったんだけど段々とそうじゃないって気付いたんだよ。本当に興味が無いんだ、つまらない授業の時の顔と同じでさ…」

「リリはそれでも話しかけてたの?」

「うん、灯純の事本当に好きだったんだろうな。灯純に見てほしくて色々してたけど…本当に灯純はリリに対して目を合わせず「そうだね」しか言わなかった。けど、一回だけリリが「私のこと、好きじゃないの?」って言った時さ初めて灯純がリリを見て微笑んだんだよ…」

「え?」

「何も言わなくてニコニコしててさ、今思えばようやく気付いたのか?って意味だったのかもな…その後またいつも通り興味無さそうにしてたけど、その日からリリが段々とおかしくなって…」

「そんな、嫌なら付き合わなきゃいいのに」

「菜子をリリが虐めてたからじゃないか?…だから灯純なりに菜子を助けたかったのかも」

「…そんな」

「俺の勝手な憶測だし、灯純の考えは灯純にしか分からないけど俺はあんな事を小6で平然とできる灯純が何かちょっと怖くてさ」

「…知らなかった」

「菜子には特別に優しいからさ、アイツ。そんな所見せないだろうけど…ただ、気をつけろよ」

「うん」


灯純の中の残酷な部分はやっぱり残っていたんだと知るとショックだったが、まだ何か事件を起こしたわけでは無い。だから、これ以上灯純が歪まないように私が出来ることを考えなきゃならないと思ったし、私に依存してるのが本当なら灯純にとっては良くないんじゃないかと思う。


大人になった時の灯純がしでかした事が頭をよぎる。

(あんな事にならないために…私が出来ること…)

その日、私は遅くまで寝れなかったが気づいたら微睡んで夢の中へと旅立っていった。












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