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男子と遊ぶことが増えた事で私はだんだんと女子に嫌われてしまうようになった。
「ねぇ!私が中島君のこと好きなの知ってて何で一緒に遊ぶの?!」
と、女子グループに詰め寄られている。
「ご、ごめんね。知らなくて…あのね私は阿炎君と仲が良くて…」
「酷い!阿炎君は人気で好きな人が多いんだよ!?何でそんな事するの?!」
私は内心
(だったら、テメェ等殺されてぇのかよ!こちとら神経逆立てまくって灯純といるんだよ!そんなに好きなら変わってみろゴラァァァァ!!)
と、かつてのお隣さんを彷彿とさせる事を心で叫んでいた。
小学校も高学年になると、恋愛感情からヤキモチを焼く女子が増え始め小6になる頃にはこうしてして女子からの呼び出しも増えてしまうことになる。
(はぁ、私女子の友達できないだろうなぁ…)
学生の間は友達関係を諦めた方が良いだろうなと思っていた。
そんな頃、転校生がやって来た。
「裏雪リリです」
可愛い黒髪の女の子だった、あっという間に人気者になりリリは学校では目立つ存在になった。
リリには意中の相手がいた、そう阿炎灯純である。
外面の良い灯純に騙されているのか熱烈にアプローチしている。
リリが灯純にアプローチするのを周りも応援していて私は完全に邪魔者扱いになってしまった。
「リリの方が灯純君とお似合いだよね〜」
「どっかの、男好きとは違うもんね〜」
と本当に小学生かよという陰口?を堂々と私に聞かせる同級生達。
居づらい…、けどリリと灯純がカップルになれば晴れて私はお役御免になれるのかも。
そうしたら、この先殺人鬼にならぬようにと神経を尖らせる事もなくなるかもしれない。
普通の恋愛をして、普通の友達関係を築く。
家庭環境が複雑な灯純には必要なことなんじゃないのだろうか。
朝、いつもの様に朝ご飯を灯純に渡す。
今日は珍しくサンドイッチだ。私は最近婆さんに代わって料理をすることが増えた。
高齢の婆さんは最近めっきり体が弱っていたからだ。
私の両親は私が生まれてから直ぐに亡くなったので、婆さんが育ててくれていたそうだ。
お陰でこうして婆さんのお陰で育つことができた。
「灯純さぁリリに興味ないの?」
私の問に灯純は表情を変えず
「興味?まぁ、別に…どうでもいい」
「どうでも…」
ん〜、リリのアプローチに気づかないのか?意外と恋愛に鈍い?
「んー、そっか」
「それよりか来週テストだね」
「あぁ、うん。あんまり自信ないなぁ」
「そんなんで中学大丈夫かよ」
「ヤバいかもね」
「教える?」
「大丈夫だよ、テキトーにやるからさ」
私は空を仰いだ、それよりも灯純が普通の人生を歩めるかが問題なんだよなぁ。
もし、どっかで大きく歪んでしまうと取り返しがつかなくなるかも知れないし。
「俺さ、高校は公立しか行けないから…」
ふと、灯純は私を見つめながら言う。
「そうなんだ」
「うん、俺にあんまり金かけたくないんだって」
「うーん、そりゃ灯純大変だよね、何か奨学金とか使えないのかな?」
「うん、そういうのもあるみたい。菜子はどうする?」
「私は行ける所に行くかな?」
両親の残した遺産も無限では無いので、無駄遣いせず相応の場所に進学できれば万々歳かなと考えている。
「菜子とずっと居たいなぁ」
「ありがとう」
灯純の私に対する執着、それが成長と共に無くなることを祈りながらトラウマを作らないよう、刺激しないようにするしかない。
「灯純、そろそろ行こっか」
「うん」
生徒達が集まってきた時間、私と灯純は教室に向かう。
私と灯純はクラスが隣同士だ。
灯純は1組、私は2組だ。私のクラスに辿り着くと
「はぁ…」
私の机はクレヨンで黒く塗りつぶされ、その上に花瓶と花が添えられていた。
(どんどん酷くなるなぁ…)
私は雑巾とバケツで机を拭く、ふとリリがやって来て
「可哀相、菜子ちゃん」
と私をあざ笑うリリ、お前の仕業かよと内心悪態をつきながら
「…手伝ってくれるの?」
と声をかけた。するとリリはバケツを蹴飛ばして
「ンな訳無いじゃん」
とニンマリと底意地の悪い顔を見せた。
(どうやったらそんな性悪になんのよ)
私は飛び散った水を眺めてリリを睨んだ。
「…」
「私、あんた嫌いだから」
そう吐き捨てるとリリは友達のところへ戻っていった。
「馬鹿じゃないの?灯純が好きなら灯純に言えば?」
リリに聞こえたのか、怖い顔でこちらを睨んでいた。
私はランドセルを背負って
「私、これ片付けるつもりないから」
と帰る支度をした。リリ達は私に何か文句を言っていたけど無視する。蹴飛ばされたり殴られたけど、それでも無視して帰る事にした。
廊下に出ると、先生に呼び止められたがそれも無視した。
(下らない事にまともに取り合うかってのよ)
それから家に帰った、婆さんに心配かけたくないので何も言わず気分が悪かったとだけ告げた。
翌日、いつもの様に朝ご飯を作り学校に持って行く。
灯純がお腹を空かせてるかも知れないと思ったからだ。
本当は昨日のことがあり気まずいが、一応学校に向かう。
「菜子!」
灯純は心配そうに私に駆け寄り抱きしめてきた。
「菜子、大丈夫?」
「大丈夫だよ。はい、朝ご飯」
と灯純にオニギリを渡した。
「…ありがとう、菜子…もう来ないと思ったよ」
と、灯純は泣きそうな顔をしていた。
「来るよ、灯純がお腹空かせてるかもしれないじゃん…」
灯純は昨日のことを友達から聞いたらしく私を心配していた。
「菜子は何も悪くないのに…」
「私も納得してないけど、だからって素直にいじめられる訳じゃないよ?灯純は心配しないで?」
灯純は心配そうな顔をしていたが、途端に黙り込んだ。そうしてニッコリと微笑んで
「何かあったら僕に言ってね?」
「え?うん」
その微笑みが何を意味していたか、私は後々知ることになるのだ。
リリと灯純が付き合うというニュースが耳に入ったのはそれから1週間後だった。
(まぁ、可愛い子だしね…)
いじめられた側としては複雑だが、リリからの嫌がらせも無くなり私は平穏に過ごしていた。
朝ご飯も彼女から貰えば?と言ってみたが
「何で?菜子は嫌なの?」
「嫌っていうか、彼女以外の子が仲良いのは嫌がられない?灯純だって誤解されるの嫌でしょ?」
「?…菜子は何言ってるかよく分からないね」
とトンチンカンな灯純。
(小6だとヤキモチ焼くとかそういうのあんまり考えないのかもな…まだ子供だしね)
私は灯純がまだ幼いから仕方ないのだと考え、一応朝ご飯以外は気を使って灯純とは距離を置くようにした。
そうして暫くすると、何故かリリは元気がなくなりピリピリするようになった。
常にイライラしている彼女の側からは人が居なくなり孤立するようになった。
「最近リリ何かおかしいよね、イライラしてさ」
「本当、こっちが心配して声かけてもキレるし。意味わからないよね」
「リリに構うのやめよーよ。どうせキレるんだし」
と、クラスの女はリリを遠巻きに見るようになった。
リリは休み時間になると、灯純の所へ行ってアレコレと話しかけたり世話を焼こうとしていた。
その度に灯純は
「そこまでいいから、リリも友達と過ごせば?」
「私は灯純君と一緒にいたいの!」
「困ったなぁ…僕にも友達と予定があるし」
「そんなの無視して!私だけ見てよ!」
リリのその姿に灯純と周りの人も引いてる感じだった。
リリはあっという間に重たい彼女として高学年の間では有名になった。
そして束縛される灯純は可哀相と同情されるようになっていった。
「何か最近、大丈夫?」
私は朝ご飯を体育館裏で灯純に渡しながら聞くと灯純は何て事ない顔で
「ん?何が?」
「だから、リリの事だって!周りで色々噂もあるし…灯純は平気なの?彼女と本当に大丈夫?」
「大丈夫だよ、僕には何も害はないし」
「本当に?…私から見てもリリの束縛はちょっと酷いと思うんだけど…」
すると灯純は急に私の顔を覗き込んで
「菜子、気になる?」
「え?」
「僕がリリに束縛されてるの見て…どう思った」
と目をキラキラさせワクワクした顔をしている。
久しぶりに珍しくこんな顔見たな。
「どうって…大変そうだなって…。友達とも遊べないでしょ?流石にそこまでの束縛はやり過ぎなんじゃないかなと思うよ。灯純は嫌じゃないの?」
「…菜子と学校で話せないのは嫌だな」
「んー、まぁ私以外ともそうだと困るよね。リリに束縛しなくても安心してって話してみたら?」
「菜子は僕に別れろって言わないの?」
途端に下から睨めつける様な顔で私を見ながらオニギリを食べている灯純に、今日はよく表情がコロコロ変わるなぁと思った。
「そこまでは言わないよ。灯純とリリの事にとやかく言えた立場じゃないし」
「…ふぅん」
灯純はオニギリを食べて終わると
「いつもありがとう、菜子」
と今度はニコリと笑って礼を言う。
「ううん、ついでだもん。朝の会に行こっか」
私が立ち上がろうとすると、灯純は私の手を取り立たせてくれた。
いつの間に力がついたのか、ヒョイと私を簡単に引っ張り上げる。
(力ついたなぁ、背も伸びてきてる。しっかり育ってきて良かったよ)
と母親みたいな気持になる、初めて会った時はガリガリで心配だったからなぁ。
まだ細いけど、これからも栄養をあげて少しでも助けになれば灯純を犯罪者の道からそらしてあげられるかもしれない。
そのうち私なんかいなくても平気なくらい灯純が生きられるようになれるまで出来ることをやろう。
灯純とリリの関係はどんどん悪化してるように見えた。
リリは必死に灯純に纏わりついて灯純はそれをニコニコしながら相手したり時にはスルーしたりしてる。
「リリ、お前いい加減うぜぇよ」
灯純の友達の男子は思わずリリにそう言い放った。
「何よ?私は彼女よ?!」
「いくら彼女でもよ、俺達だって灯純と遊んだり話したりする事があるんだよ。それを毎度側から入ってきてさ…何かリリって自己中だよな」
「私は、彼女なの!灯純君だって私を…」
灯純は溜息を吐いて
「もう別れようよ、リリ」
「え?何で?嘘でしょ?灯純、私とずっと一緒にいようねって…」
「こんなリリの姿見てたら嫌になったよ…じゃ」
と、灯純はあっさりとリリを置いていく。
「待って!灯純!」
とリリが灯純を掴もうとすると、灯純の友人が間に入り
「リリ、自分の教室に帰れよ。もうこっちのクラスに来るな」
「マジで来るなよ。来たら殴るからな」
と男子数人に凄まれてリリは泣く泣く戻っていく。
教室で大泣きしてるリリ、誰も助けず見かねた通りがかりの先生が保健室まで連れて行くことになった。
リリは次の日から学校を休んでいた。
リリが灯純と別れたニュースはたちまち広まり、あちこちから
「やっぱりね〜リリやばかったもんね」
「そうそう灯純君可哀想だったよね」
「リリがこんなだと思わなかったなぁ」
と、リリへの不満を述べる声が聞こえる。
(早くほとぼりが冷めないかなぁ…リリも灯純も話のネタにされてたら学校居づらいだろうし)
恒例の朝ご飯の時には灯純は大丈夫かそれとなく聞いてみることにした。
(心に傷を負ってなきゃいいけど…)
灯純は今日も美味しそうに朝ご飯を食べている。
「灯純、リリと別れたんだよね?」
「うん」
「その…また何か色々噂になってるから大丈夫かなって…私が出来ることあれば力になるから何でも言ってね!」
「じゃあ、帰りはまた一緒に帰ってくれる?」
「うん、もちろん良いよ!また遊ぼうよ!オヤツも婆さんが灯純最近来ないから食べてほしいなって言ってたし!」
「うん、ありがとう。ねぇ、菜子?」
「何?」
そっと、私の頬に自分の手を添える灯純。
「ど、どうした?」
「可愛い」
「は?」
「やっぱり、菜子が一番可愛い」
「…何か、傷心でおかしくなったかな?」
「そうかも。慰めてね」
「まぁ、励ますけど…世の中には灯純に合う人が絶対にいるからさ!」
「そうだね」
と幸せそうに笑う灯純、取り敢えず元気だしてもらいたい。
「よし、今日は放課後沢山遊ぼう!!」
と約束をした。
それから卒業まで灯純や灯純の友達と仲良く遊ぶ日々が続き平穏に過ごしていた。
卒業式の日、リリがやって来た。
あの日以来学校に来なかったリリ、色も白くなり顔色が悪い。
皆腫れ物を扱うようにリリを遠巻きに見ていた。
私も関わりたくなくてリリを視界に入れないようにしていた。
式も終わり、私は灯純と歩いて帰るところだった。
灯純は親が見に来るような家庭ではないし、私は婆さんが足も悪くなってきたので家で待ってるように話していた。
他の子達は親と帰る中、リリが灯純を呼び止めた。
「灯純君!」
リリは灯純の元に駆け寄り私なんか眼中にない様子で
「灯純君が忘れられないの!お願い、もう一度私にチャンスを頂戴?!今度は間違わないから!駄目なところ全部治すからァァ!」
と、叫びにも近い告白をしてくる、私は灯純をちらりと見ると
「ごめんね、リリとは付き合えないよ」
となんの感情も籠もらない目で見てる。
「どうして?何が駄目なの?直すから…全部、直すから…」
と、灯純ににじり寄る。
(ヤバい、ヤバい。何かリリぶっ壊れてるよ?)
私は咄嗟に灯純を背にしてリリに立ちはだかる。
「…アンタ、どこまで邪魔すんのよ!灯純君の周りでウロチョロしてさぁ!」
と、般若のような顔のリリ。私は
「リリ、灯純にも灯純の気持ちがあるんだよ。リリが灯純を好きなのはよくわかるよ。けど…こんな無理矢理迫っても灯純の心は手に入らないんじゃない?」
「アンタに何がわかるのよ!私は灯純君とずっと一緒にいるって約束したのよ!あの時灯純君だってそうだねって言ってくれたの!」
「確かに付き合ってるときはそうだったと思うけど、今は別れちゃったでしょ?」
「だからやり直すのよ!邪魔しないで!」
と、リリが私を突き飛ばした。瞬間、灯純が私を助けて後ろに倒れた。
「灯純!大丈夫?」
「うん…、先生呼んでこよう?行こう菜子」
と、私の手を引いて学校に戻る灯純。それをリリは
「待ってよ!」
と追いかける。職員室に駆け込んで私達は2組の担任を見つけると
「先生、裏雪さんが!」
と声を掛けると、リリは私の髪の毛を掴んで止めさせようとした。
「卑怯じゃない!先生呼ぶことないでしょ!」
「コラ!裏雪!何してるんだ!」
と、先生に叱られてリリは手を放した。
「ご両親が探していたぞ?裏雪。阿炎と畑花と何があったんだ?」
私達は先生に一部始終を話した。
そうしてリリの親も駆けつけて事の顛末を聞いた。
リリの親は私が虐められていた事を謝ってくれたし、灯純にはリリが我儘を言ってごめんねと謝ってくれた。
リリだけは灯純とやり直すと騒いでいたけど、親に連れられて無理矢理帰って行た。
「ごめんな、先生が気づいてあげられなくて」
と先生も申し訳無さそうで折角の卒業式だからと、帰りにラーメンを奢ってくれた。
リリとの事で何だかんだあったが、無事に小学校を卒業する事ができた。