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BREAKER  作者:
第2章 「首都不明攻撃事件」
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第二十二話 通夜

 区画という区画を埋め尽くさんばかりに所狭しと並び建つ摩天楼が遠い秋空を支える。

そんな首都の一角ではよくありふれた立体駐車場の出口で話す喪服姿の男が二人。一人は眼鏡をかけたいかにも生真面目そうな男であり、もう一人はふんわりとした癖を纏う薄い桃色がかった白髪に万華鏡のような極彩色の瞳の少年である。はたから見てみれば二人は微塵も似ていない親戚か何かというようにも見える。


「それで、篠崎さんと何を話したんですか?」


「いえ、軽い世間話だけして連絡先だけもらいました。他には何も……」


 井山の問いに、マコトが答えた。


「そうでしたか、ならいいのですが……」


「先生、ここだけの話いいですか」


 何か吹き込まれていないかと案ずる井山に、マコトは声を小さくして話す。


「なんでしょう」


「Vは本当にあいつを助けてくれますかね。実際、面倒にはならないんですか、救出なんて……だから、どうという話じゃないですが」


 助けるよりも、処理する方が簡単である。特に事態を徹底的に隠蔽したいなら、全て処理するのが最も都合がいい、疑ったところでどうにもならないとして、組織の実態を十分に知るわけでないマコトがそう疑うのは別段筋違いでもなかった。

 そして、マコトは羽黒レイを救いたいのだ。それだけは、誰がどう考えるにしても間違いない。


「この一件は恐らく、公安と処理部との事実上の協働になるでしょう。少なくとも、我々は彼が生きてるならむざむざ死なせないです。それに鷲律さんの足元は硬い、彼女は良くも悪くも他人が制御できないので、安心してください」


 一般論で井山は答え、そして言葉を切った。


「しかし、心配なら万が一を想定しておくべきでしょうね。それが何であれ……ですが、妙な気は起こさないでくださいよ。何かあれば、無理に抱えないで私に話してください」


「……そうですか、丁寧にありがとうございます」


 多くの含みを持たせた井山の答えに、マコトは礼を言った。今の彼に頼れる人間はそういないが、例え一人でもいるといないとでは大きな差がある。


「私は会場に向かいますが、君も来ますか?」


 井山が言った。


「いえ……もう少ししたら行きますんで、また後で」


「そうですか。では、また」


 そう言えば、その担任は背を向けて会場へと向かい、彼がもう行ったことを確認した後、マコトは懐から煙草を取り出すのだった。


 葬儀会場に訪れた集団の、まだ子供の面影を纏う参列者のうちほとんどは学生らしい制服を身にまとっていた。古斗野高校の生徒もいたが、中にはそうでないものもいた。それは不幸な夭折をした故人にどれだけ人望があったか、十分に示していた。

 そんな集団を遠目に眺める少年も、その喪服が制服でなくとも、態々参列することの意味が彼らより深くとも、その本質は変わらない。

 詠航マコトの青春にとって何をするにもいてくれなければ始まらない男の遺体は、未だ発見されていない。速やかに下された認定死亡の真意を参列者のうち知るものはほとんどいない。ここにあるのは事実だけで、真実はない。


 詠航マコトは、駐車場で火のついた煙草を携帯灰皿に押し込む。煙とともにならば、深く吐いた息が意味を持つことはない。

 そうして、彼が葬儀場に入ろうとしたその時だった、聞き覚えのある声がその名を呼んだ。


「詠航くん」


 彼に声をかけたのは、皆と同じ制服姿の牧野シロだった。

 少女はいつもと変わらぬさらさらの長い黒髪を携えて、凛とした目が少年を捉える。話しかけるために名前を呼ぶ発声の一つとってみても穏やかに奏でてみせる彼女は、その頬に刻まれる小さな傷跡に見える荒々しさすら品格を纏わせるにはお手の物だった。


「よう、牧野」


 対して相も変わらずぶっきらぼうに言葉を返す少年はさもいつも通りというような調子だ。


「話は井山先生から聞きました。羽黒くんは……災難でした」


 多くの意味を伏せて、シロは語った。


「ああ……そっちは、パーティーはどうだった?」


 シロもまたVの人間だ。


「昨日、ね。無事上手く終えました」


「そうか」


 確かに、無事でなければ葬儀に参列などできはしまい。それ以上の詮索はなく、ただ納得したように彼は頷いた。


「関係ないことだけど、部内での配属について何か聞きましたか」


「いや、まだ……配属って?」


 シロの問いに、マコトは首を傾げる。

 話の意図がいまいち読めないというのも、本来経るべき事務的な手続き等より先に事件に巻き込まれたのでは無理もなかった。


「部にはいくつかの課があるんです、会社みたいに。少しすると決まるものなんですけど」


「……まあ、今度聞いとくよ。上は今、色々あるみたいだし」


 シロの例え話に調子良く返事だけはするマコトだったが、会社のイメージをするにしても実際のところ鮮明にイメージできてはいないだろう。社会への理解自体まだまだ浅いのだから。


「……にしても、大勢の人が来てらっしゃるのですね」


 立ち話をする傍ら、シロが会場に続く道を横目に見てみれば外からでも大勢の人間が訪れているのが見えた。


「ああ、あいつらしいよ」


 ポツリと、マコトは言った。


「ええ、そうですわね。……私、少し、月下さんの様子を見てきます。来れるようだけど、心配で……」


「……ああ、仲良かったもんな」


 月下ユウと故人は交際していて、その関係は上手くいっていた。

 お陰で二人の学生生活がより充実していたことを何の因果かこの二人はよく知っている。そんな中で、彼をある日突然喪ったともなれば彼女の苦痛は察するに余りある。


「詠航くんこそ、無理はしないで。貴方だって、すごく辛いんだから……」


「俺は一番平気さ、まだやることがある」


 心配するシロをよそに、マコトは微笑してみせた。まだ悲しむことも、死を受け入れられる立場にもない彼の言葉は、前向きだが、どこか自嘲的だった。


「ええ、でも、辛くなったら休んでください。……それから、その服……」


 シロが言いながら、マコトの顔からその衣服に視線を落とす。

 実戦用に仕立ててあるスーツを着こなしながら、靴は通夜には本来相応しくない戦闘用のブーツ──どの道、気の利いた革靴など彼は持っていないが──と、楠木原が調整した装備を身にまとい、葬儀場に来るには些か大きな黒い鞄を片手に訪れているところ、彼の置かれている状況は一目でわかる。


「ちょっと、似合わないかな」


 冗談めかしてマコトが笑った。


「……いいえ、似合ってますわ。けど、また二人とも制服で会えたら、きっと羽黒くんも喜びます」


 そう言い残せば、シロは友人を探しに去っていった。


 月下ユウを探すシロと別れて、葬儀場に着いたマコトが受付を済ませたところ、そこでもまた声をかけられた。声をかけたのは、遺族の羽黒夫妻であった。

 マコトは何度も羽黒家に遊びにくる長期休みの名物のようなもので、二人が親しい事は彼の両親もよく知っていた。マコトもまた、羽黒家の雰囲気というものを知っており見知った仲であった。

 レイの父はバリバリ働く大企業のエリートサラリーマン、レイの母は専業主婦、彼らは一人っ子のレイをきっと精一杯可愛がって育てたのだろう、羽黒家には彼の幼い頃からの写真が並べてある。

 そして、そんな家庭で羽黒レイは一人っ子の優等生で穏やかで心優しい少年に育った。彼の穏やかな気質は、やはりその家庭で育まれたのだ。


「あら、マコトくん。来てくれたのね、ありがとう。制服も良いけどスーツも似合うのね」


 レイの母親は空元気にそう言った。


「その、この度はご愁傷様です……」


 マコトは形式的な言葉をひとまず紡いだ。


「いえ、そんな、マコトくんが仲良くしてくれて……レイだって……」


 レイの母はそう言いかけて、言葉を止めた。


「……ごめんなさいね……まだ、信じられなくて……」


 そうして彼女は涙ぐみながら、ハンカチで涙を拭うのだった。


「……レイは、マコトくんのことをよく話していた。大きくなってから控えめだったあの子が、君と会ってからは昔みたいに活発になって……だから、あの子と仲良くしてくれてありがとう。本当に」


 レイの父親は感情がどこかに行ってしまったかのような、淡々とした調子でマコトに礼を言った。

 彼はやはり前にマコトが見た時とは比べ物にならないほど、やつれていた。


「……僕こそ、たくさん世話になりました。あいつに礼を言わなきゃいけないのは、僕の方なんです」


 命を助けられたことを、マコトが伝えることはできない。何があったのか、その真実を彼らが知ることはない。

 そうした会話をしているうちに、また他の参列者がきたものだから、二人はその相手をせねばならず、挨拶を済ませたマコトは密かにその拳を強く握りしめ、その場を後にした。


 参列者には、マコトが見知った顔もあればそうでない者もいる。その中にいた特に大柄な異形の人間にマコトは一際目を引いた。否、故人も異形型ならば、古斗野のクラスメイトが大勢いるのだから、ここでは異形型であるというだけで目立つことはない。

 それにも関わらず、確かにマコトの目を引いたのはその人物が参列するとは到底思えないからだ。


「久しいな、詠航」


 彼の視線に気が付いたのか、灰色がかった豹紋浮かぶ体が揺れる。彼は長い尻尾を窮屈そうに巻きながら振り返れば、夜行性の爬虫類特有の縦型の瞳孔を持つ大きな瞳でマコトをとらえた。


「……そうだな、西田先輩」


 表情を硬くして、マコトがいった。


「なんだ、意外か」


 マコトの反応を見て西田はぶっきらぼうに言う。男は大した感情を持ち合わせていないように見えた。


「正直、意外だ。何で来た」


 少年は、眉を顰めれば恐れず言った。その因縁からして西田が来る義理はないはずだから、自然な反応である。


「偶然帰ってたんでな、線香あげるだけだ」


「……そうか」


 普通、よく顔を出せたものだと顰蹙を買うものだが、マコトが敢えてそれ以上何か言うことはなかった。意外な遭遇、ただそれだけの話に過ぎないのだから。


 その後、通夜は予定通り粛々と執り行われた。入れる遺体がなければ、棺を用意する必要はなく、花の中に飾られた故人の遺影だけがそこにあった。

 ヒーローの殉職率は年々低下の傾向にあるが、それでも古斗野の生徒はいつか来るかもしれないその時に覚悟している。だとしても、級友の死というのはやはり学生にとって辛い出来事であろう。通夜中、必然的に彼の周りにいるクラスメイトたちは大抵がそうであるように浮かない表情(かお)をしていて、中には涙を流す者もいた。その中の一員であるマコトは、徹底した沈黙と無表情を貫いて過ごした。

 翌日の葬式は、家族だけで済ませるという。本来、遺族は通夜もそうしたいだろう程の混乱だったはずだが、この通夜は彼と親しくしていた友人を慮って行ったということは想像に難くなく、葬式に出れない友人たちは往々にしてこの通夜を経て故人との別れを決心するのである。

 通夜を終えれば、一般参列者は各々解散する。

 マコトもその例に漏れることはなく、彼はいくつかに分かれるクラスメイトの固まりのうちのひとつに紛れ込めば、少し話でもして不自然のないことを演出していた。


「詠航、大丈夫か?」


 クラスメイトの一人、富永が言った。

 彼は、大方のクラスメイトとそれなりに話しこそするがクラスメイトより寧ろ生徒会のような場での交友関係の方が深く、逆に非常に親しいというようばクラスメイトはいない。

 マコトなんかと比べるべくもない好青年であるが、パブリックイメージ的なヒーローそのままを自他に求める人物で、古斗野の教育とやらを一種の崇拝に近い態度で肯定するお堅いところがそうでない人間との付き合いをどうしても浅くさせる。

 真面目腐ってもつまらなく、実際の所ついていけないというのがその他大勢の答えに過ぎないが。


「難しい質問だな」


 はぐらかすようにマコトが言う。彼はこの手の質問に答えないよう振る舞うことが得意だった。

 少年の明快な本心が理解(わか)る人間は少なくとも、ここにはいない。


「そうか。俺は……辛いな、悔しいよ」


 富永がどこか感傷的に言った。


「ああ、そうだな」


 対して平坦な声音で、感情を一片も出さずにマコトは返す。


「別に答えなくていいんだ、だってみんな辛いんだから。この先、俺たちはヒーローになる人間も多い。だから、ちゃんと羽黒の分まで頑張ろうな」


「ああ、みんなで卒業しような」


「そうだね」


 富永が言えば、他のクラスメイトたちも口々にどこか義務的に答えた。

 背後では、他の参列者の大層重々しい雰囲気の会話が聞こえる。


「そういえば、寄せ書きは?」


 ふと思い出したのか、一人が言った。


「俺は書いたけど、マコトはまだだよな」


「寄せ書き?」


 マコトには初耳のことであった。


「……こういう時くらい、ちゃんとグループの連絡見とけよ」


「ああ?るせぇな。色々、バタついてたんだよ」


 マコトは答えた。

 彼だって、嘗てない窮地を前に瀕死に追いやられていましたなんて言い訳をしたいところだったろうが、そういうわけにもいかない。ヒーローのような武勇伝もなければ、何も知らぬ人間であり続けねばならないのが諜報員の辛い所である。


「まあ、丁度いい。ほら、これだよ。クラスメイトや友達の全員分揃ったら家族の人に渡すから。仲良かったんだから、近くに大きく書いとけよ。そして書いたら、明日には返してくれ」


 富永がリュックサックから、一枚の色紙を取り出した。

 そこには、一番字の上手い誰かを捕まえて書かせた「羽黒レイ君へ」という文章を中心にクラスメイトが各々書いた文章が刻まれていた。

 きっと考えついてすぐのことなのだろう。富永を始めとした数人のものだけで、まだ多くは集まっていないようだった。


「……」


 色紙を受け取ったマコトの表情が、僅かに歪む。


「ああ、わかった」


 そう言えば彼はそれっきり何か話すことはなく、踵を返した。


「帰るのか?」


 富永の問いを聞こえないふりして、彼はクラスメイトの集まりからひとり離れた。

 色紙を握りしめる微かに震える手を落ち着かせて、荷物を手に会場を後にしようとした。


 その時だった。


「詠航くん……!」


 ふと、少年を止める声が響く。マコトが足を止めて振り返れば、そこにはいたのは月下ユウだった。


「……俺はもう帰っけど、何か用か」


 少年を引き留めたユウは意外にも泣いてはいなかった。だが、口元をきゅっと固く閉じて、どこか緊張したような面持ちのまま俯いていた。

 そんな彼女に受け答えをするマコトの表情は険しい、あるいは、元々険しい表情だったのかもしれない。


「これ、詠航くんに持ってて欲しくて……」


 そう言いながら、彼女は懐から小さな紙で包装されたものを開けば、包みごとそれを差し出した。


「これは……」


 その紙を受け取って、彼が開く。

 少年の手のひらには、一枚の黒い羽根があった。


「詠航くんは、レイの親友だから…………」


「だから、持ってなきゃ」


 ユウは静かに、そして確実に断言した。


「……そうか」


 マコトが短く答えれば、それに合わせてユウは小さく頷く。

 彼にそれ以上語るべき言葉はなく、いまや受け入れがたい言葉だとしても拒絶する権利すらないのならば、黒い羽根を握りしめて、ただユウが去っていくその後ろ姿を眺めるのだった。


「……」


「なんだよ」


「たかが羽根で」


「本当に、死んだみたいじゃねえか」


 独り溢せば、少年は黒羽根を丁寧に包装紙にしまえば懐におさめて、動揺のままその場を去った。

 同じ頃合い少年は標的であり、よもや常に詠航マコトは詠航マコトである必要はなくなっていた。

 また、悪意とは隠されるのが世の理であり、今まさに路上に停められた変哲の無い一台の乗用車に密かに隠されていた。


「通夜がそろそろ終わる。予定通りだ。準備はいいな?」


 運転席で、平柳が言った。

 よもやすぐに終わる仕事の連絡を受けてのことだった。


「ガキ一人に、二人もいると思うか?」


 岡田は長身と長い手足を窮屈そうに助手席に押し込み、ウェーブがかった黒髪を揺らせば、ため息を吐いて仕事仲間に問いかけた。


「水浦がそれなりには()()と見積もった、さしもの奴も節穴じゃない。さっさと終わらせるぞ」


「ああ、そうだ、そうとも、あいつがここまで警戒しているんだ、相手は当然()()んだろう……だが、問題はそこじゃない」


 その警戒を杞憂に終わらせる。それが彼らに課せられた仕事であり、平柳のその答えは全く正しいものであるのだが、しかし岡田にとり肝要なことは全く別の所にあるようで彼は首を横に振る。


「……何が言いたい?」


 怪訝な表情で、平柳は恰幅のいいその身体を僅かに揺らす。肥満体というよりはプロレスラーや相撲取りじみた特に骨太な腕力家であり、男は大きいことをそのままに活かして威圧的にすら半ば無意識に岡田を詰めるのだ。


「……何が?ああ、何がか」


「そうだなあ。要するに、そもそもなんでこんな話を受けたかってことだ」


 岡田は、実に余裕綽々というような様子で、芝居がかった様子でセリフを紡ぐ。


「旅は好きか?」


「何を──」


「あれはいいぞ、手厚いサポート満載じゃまるで駄目だが、そうでないならそれ以上にいいことはない」


「かつて人間は天に張り巡らされた星を頼りに旅をした。広大な大海原、あるいは砂漠で自分自身を見失わないように」


「……だから、何が言いたい」


 苛立ちを露に、平柳は言った。


「五月蠅え」


 次の瞬間、冷ややかな金属音が微か擦れるように鳴る。それは、岡田の手に握られた自動拳銃を向けてのことだった。

 平柳が反応するよりも先に、岡田が引き金を引けば、消音器の抑制下、自動拳銃は電子レンジで温めてはいけないものを温めた際に鳴るようなパンというような破裂音を鳴らした。


「この──」


 即座に反撃しようとする平柳の顔面に、それより早く拳銃の銃床が強かに衝突する。鈍い衝撃の直後、感覚的にぐしゃりともぐちゃとも取れる音と感触が微かに響いたのはその打撃が致命的であることの証左だ。

 平柳はぐったりと動かなくなって俯けば、胴から滲み出る鮮血が血の目立たぬように選ばれた黒衣を深く染めた。


「黙ったか?」


 岡田が問いながら巨漢の肩を揺らす、下手人の望み通り動くことはなかった。

 彼はそのまま運転席の平柳の体勢で俯くようにした。


「よし、ここからだな」


 岡田は自動拳銃を懐にしまえば、代わりに煙草を取り出した。

 それは丁度黄昏時の頃だった。男は、紫煙をくゆらせながら腕時計で時間を確認した。灰皿の無い車内に捨てたとてそれを咎めるものはない。

 そうして数分後、一匹の猛獣が落ちる日の中箱から解き放たれた。


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