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アンチ・セーラームーン事件  作者: 立花 優
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第七章 事態の急変

第七章 事態の急変


 図星であった。


 荒木君の顔色が、サッと真っ青に変わったからである。しかも、急にぶるぶる震え出したではないか?そして、以前に叫んだあの言葉を再び、大声で叫んだのだ。

「おお、恐ろしい、あれは、あれは、まともな人間じゃねえ!」



「荒木君、絶対に誰にも言わないから、あれはとは一体誰をさしているんや?」



「そ、それは、僕の口からは恐ろしくてとても言えません、ただ、決して出会い系サイトで知り合った女性ではありません。ごく、まともに出会った女性なのです」



「ごくまともに、と言うところを聞くと、普通にそこら辺りにいる人間なような感じもするが?」



「そう、そうですね。きっと、あんな場面に遭遇しない限り、豹変をする彼女の隠蔽された心理状態は、誰にも理解できないでしょうね?」



「と言う事は、今は、君の口から誰だとは言えないが、ともかく変わった人間、特に女性である事だけは間違いがないと解釈してもいい訳だね?」



「ハッキリ言ってしまえば、そういう事ですが、ともかくこれ以上は勘弁させて下さい」



「分かったよ、もうこれ以上は聞かないよ。しかし、君の話を聞いていると、相手はさしずめ江戸川乱歩先生の小説にでも出てくるような変態的人物なんだろうなあ?」



「ええ、それだけは、この僕が断言します。あいつは、人間ではありません。人間の皮を被った悪魔です!」それだけ言って、荒木君は店をよろついた足取りで出て行ったのである。



 その時、私は、酔った足取りで帰ろうとする荒木君に向かって、かって流行ったテレビドラマの「刑事コロンボ」よろしく、

「じゃ、最後にひとつだけ聞いてみるが、その変態と「アンチ・セーラームーン」との関係はないのかな?」



「まず、ありえません。「アンチ・セーラームーン」の噂話は、僕も聞いた事はありますが、それについては僕は違うと断言します。何しろ、僕が言っているのは女性の事なのですから……」ろれつの回らない口ぶりでそれだけ言って、荒木君はタクシーに乗り込んで自宅へと帰って行ったのである。


 

 私は、ようやく荒木君のノイローゼの真の原因に辿り付けた。しかし、彼の指していたのは変態的な女性の事であり、「アンチ・セーラームーン」は連続強姦犯である。

 ここには、永遠に埋められない溝がある事を私は即座に理解できた。



 結局、では、私の今までの努力は一体なんだったのだろう?そもそも、「アンチ・セーラームーン」などこの世に存在するのだろうか?やはり、私が、一番最初に辿り付いた結論、「アンチ・セーラームーン事件」は一種の都市伝説、いや情報の極端に少ない田舎特有の世界が生み出したおとぎ話や田舎伝説に違いがないのだ。



 総てが、これで終わる筈だった。



 しかし、自体は急変する。



 私の娘である友美の友人が、本当に「アンチ・セーラームーン」らしき人物に襲われかけたと言うのである。ただ、その友人の父親は大変に用心深い人だったらしく、この事件の噂話が出始めた頃から、通販で「ペン型」の「小型のスタンガン」を自分の娘に常時携帯させていたというのだ。



 その友人の言によれば、クラブ活動の帰り道、人気のない草むらから急に覆面をした人物が現れ、まず自転車でその友人にワザとぶつかり道に倒れさせて、自分は直ぐにズボンのベルトを緩めて下半身を出そうとしたと言う。



 下着は着けていたらしいが、大きく張り出した下半身を見て、その友人は間違いなく例の「アンチ・セーラームーン」だと確信、胸ポケットから先ほどのスタンガンを取り出して、相手の下半身に押しつけて、そのまま逃げ帰ったと言うのだ。間一髪だったらしい。



 しかし、この話を聞いて、再び、私の探求心に火が付いた。



 今までは、単なる噂話と決めつけていた「アンチ・セーラームーン事件」に、本気で取り組んでみる事にしたのだ。ちなみに先ほどの娘の友人は、足にかすり傷を負ったのみで、別に強姦された訳ではないので、警察には被害届け出は出さないと言う。また、仮にこちらから勧めても恥ずかしいので本人は決して被害届けは出さないであろう。



 私は、その話しを娘から聞いた後、その日の夕方にコンビニに行き、日本酒2号入った瓶を買ってきた。今日は酒2号とイカの燻製の肴でチビリチビリやりながら、今までの事件の総ざらいを頭の中で行うつもりでいた。



 これは、私の学生時代からの癖で、難問、特に哲学的・理論的な問題を考える時は、素面で考えるより、この方法でたまにだが「ふと」いいアイデアが浮かぶ事があったからである。



 まず、最初に不思議に感じたのは、この「アンチ・セーラームーン事件」の話を最初に持ちかけてきたのは、幼なじみのミッチャンであった事だ。



 彼女は、自分の長男の睦夫君が危ないと言っていた。しかし、私が調べた限り、睦夫君は早熟で天才的な少年ではあるが、彼が変な行動を取っているという確証はついに得られなかったのは先ほど述べたとおりである。だから、私は、睦夫君が「アンチ・セーラームーン」では絶対に違うと言う確信を持っていた。



 「ふと」やはりこの時も「ふと」なのだが、「アンチ・セーラームーン事件」には、睦夫君ではなくて、逆に、ミッチャンの方が大きく関与しているのでは?と思ったのである。



 その根拠はほとんど無いに等しい。しかし、考えてみれば、ミッチャンは今回の事件の最初から、自分の息子の睦夫君にかこつけてこの私に、「アンチ・セーラームーン事件」の話を持ち込んできている。彼女の弁によれば、自分の息子の行動が心配だとは言え、よくよく考えれば、それは総て彼女からの一方的な話であり、いかなる証拠もない。彼女の作り話かもしれないではないか?



 特に、変だと感じたのは、私が、喫茶店「マンゴー」で会った時に、彼女にネット上のカルト系サイトの話をした時、実に気軽に私の話に簡単に受け答えしていたと言う点である。



 私の述べたカルト系サイトの例は、その方面に相当の知識や造詣が深くないと知らないものばかりで、例えば『肉だるま』と検索すれば、フェイクのスプラッター・エロビデオの画像が出てくるのだが、撮影後、そのエロビデオに出演していた女性は自殺しているのだ。



 これは、カルト系サイトに詳しい者なら誰でも知っている知識なのだが、医者の奥さんで専業主婦で優雅な暮らしをしているミッチャンが、カルト系サイトなどの話に全く抵抗なく会話に入り込んでくることができるとは、いくら暇をもてあましている身分だとしても、少し変ではないのか?



 では何故、私が知っているのかと言えば、私がX市青少年健全育成連絡協議会の事務局長を担当しているためであって、変なサイトがあれば、地元のネット犯罪担当の刑事さんに連絡する仕事をしている関係もあるからであって、彼女が知っている事に、何とも言えない違和感を感じたのだ。



 この事を逆に考えると「アンチ・セーラームーン事件」の噂話を流しているのは、あのミッチャン自身ではないのか?……ただ、ここでの最大の問題は、何故、彼女がそういう事をしなければならないのか、その動機が解明できないのが残念ではあるのだが…?




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