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アンチ・セーラームーン事件  作者: 立花 優
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第四章 2チャンネル

第四章 2チャンネル


 ここで、ミッチャンは持参した小型のノートパソコンを開いて、パチャパチャとキーボードを叩いた。無線ラン装備対応型(作者注:現在ではWi-Fi対応の事)のノートパソコンである。どうキーボードを押したのかは、あまり素早くて見えなかったが、そこに例の2チャンネルの書き込み画面が現れた。



 その内容の最初の部分は、次のような驚愕的な会話の連続だったのです。



A:ところで、俺らのD中学3年生の騒尻絵里子の屋上からの飛び降り自殺。あれホント非道かったな。何しろ俺の教室の窓際から、狂ったような目をして、地上に落下していくのが見えたんやからな。ううう…、今思い出しても狂おしい。



B:うん、騒尻絵里子は美人やったし、俺も彼女に気があったんやが、一体、何で自殺したんや。



C:学校の発表では、中三だし、受験ノイローゼとか何とか言ってんやけど…。彼女は勝ち気な性格やったしガタイも大きかったから、いじめによる自殺では絶対にないと思う。



A:受験ノイローゼの話は、俺も聞いた事がある。しかし、彼女、騒尻がノイローゼになったんは、別の理由らしいんや。



C:じゃ、一体、何なんや?



A:騒尻絵里子は、自殺の直前に、自分の机の上に、かって流行った漫画『美少女戦士セーラームーン』の漫画の1ページを切り抜いて、油性ペンで大きく×印を付けた後、屋上から飛び降りしているんや。



C:その噂話は、俺も聞いた事がある。ピンク色のリボンが可愛いいセーラー服で有名な俺らの市内にあるT園芸高校の女生徒も、やはり漫画『美少女戦士セーラームーン』をボロクソに友人達に言った後、その夜、首つり自殺したと聞いた事があるからなあ…。



D:ちょっと待てよ。『美少女戦士セーラームーン』なんて漫画。俺らの生まれる以前に流行った漫画やで。今時、なんでそんな古臭い漫画が急に出てくるんや。おかしいやろが。



A:いや、そこでや、ここにとっておきの噂話があるんや。



B:それは、一体どんな話なんや?



A:一言で言えば、セーラー服の女生徒のみを狙った連続強姦事件が、このX市を中心に起きていると言う話ながや。



B:その話は本当かな、俺にはとても信じられないが…。



A:一部の人間達では、「アンチ・セーラームーン事件」と既に名前まで付けて話題としているらしい。しかも、この連続強姦犯は、強姦直後の被害者の局部や顔写真をデジカメで撮りまくって、「バラしたら、このデジカメの写真、ネット上で公開するぞ」と言って、口止め工作をしているらしいんや。つまり、結局、絶対にバレないやろう。



E:すっげえ、知能犯やな!



A:そうなんだ。強姦罪は、被害者が強姦された事を警察に届け出て、初めて犯罪となるらしいが、その口封じが実にうまいんや。本当に、そんな強迫されたら、誰も一言も言えんやろうが……。



 以上の話は、この2ちゃんねるの要約ではあるが、まあ、このような書き込みが、延々と続いていたのだ。



 特に、最初の騒尻絵里子の自殺事件の話は、1ケ月前にあったX市青少年健全育成連絡協議会の席上でも話題になった、D中学校三年生の沢井絵里子(仮名)の校舎からの飛び降り事件を指していた事は間違いがなかった。無論、生徒全員に綿密なアンケートも行われたが、今流行のイジメによる自殺でない事だけは間違いないらしい。



 ……とすると、X市を中心とした連続強姦事件の話は真実なのだろうか?



しかし、百歩譲って、そのような事件が起きていたとしても、どうしてミッチャンは、我が子の長男の睦夫君を疑っているんだろう?単に、変なHな画面を見ていただけなら、性に目覚めた少年なら、あながちありえない事ではないではないか?


 この、私の疑問に対し、ミッチャンは、次のような事実を私に話したのである。それは、自分の長男睦夫の机の中に隠してあったノートのメモ書きに、



①14歳未満の者は刑事責任能力が無い事、つまり罰せられない事。


②強姦罪は、本人が警察に訴えなければ捕まらない事、つまり親告罪である事。(集団強罪は除く。)


③よって、そのためにも、絶対に相手に警察に訴えさせない事。  

……等々の、細かな点についてまで書いた、メモ書きがあったと言うのである。



 しかし、中学生にしては、特に刑法の中身について、いくらネットで簡単に検索できる時代にしても、その知識には相当に高度なものを感じる。



 この点を、ミッチャンに聞いてみると、夫の十津川郁夫氏の弟が、金沢市で弁護士をしているから、多分、その叔父さんからの知識の受け売りじゃないだろうか?と言うのだ。確かに親戚に弁護士がいるならなら、これぐらいの知識は持っているのは当然かもしれない。



 しかし、この睦夫君のメモ書きについても、少年法上の問題点までは触れていないのが気にかかる。この点を、ミッチャンに聞いてみた。



「そりゃ、確かに、現在の刑法では刑事責任は問えないかもしれないけど、かような事件を起こした少年は、少年法等の規定により触法少年として、保護観察処分に付されるとか、あるいは精神に障害がみられるような場合は医療施設に送致されるなど、決して無罪放免という訳にはいかないんだよ。この事を睦夫君は知っているんだろうか?」



「それも知っていると思います。あまりに恐ろしい話を淡淡とする睦夫を諭すように話しをした長女の遥に、睦夫はニヤリと笑って言ったそうです。要は、警察に訴えられなければ、すべて結果オーライなのだと、ね」



「そうすると、ミッチャンは、睦夫君が確信犯的な行動で、この連続強姦事件を起こしているのではないか?と言うのですね」



「そうは、親としては思いたくないけれど、そう疑いたくなる事が、このようにネット上にも、さっきのように流れているのです」



「で、僕にどうしろと……」私は、確信の部分を聞いてみた。



「ここは、顔の広いタッチャンの人脈を生かして、本当に、睦夫が変な行動を起こしていないか?調べて欲しいのです。しかもできる限り口の堅い人にお願いしたいのです。

 もし、できればの話ですが、タッチャン自身が動いて欲しいのです。

 そして、私の頭から離れない、この連続強姦犯が実は他の別人である事を証明して欲しいのです」



「うーん、僕は警察でも探偵でもないからなあ。かと言って、民間の探偵社に頼んだ場合、秘密が漏れるだろうし……。それに、万一、本当に睦夫君が真犯人だと分かった場合、ミッチャン、あなたは一体どうするつもりなんや?


 そのまま、事件をもみ消してしまうつもりなんか?」



「そんな恐ろしい結末を考えてもみたくなかったけれど、その時は、この体を張って連続強姦事件を止めさせます。後の事は、金沢市で弁護士をしている夫の弟さんと相談して決めたいと思います」



「旦那さんには相談しないのですか?」



「うちの夫は、代々続いたこの十津川家の名誉を異常に重んじています。きっと、もみ消す方法に走るでしょう……この点だけは、睦夫の叔父さんの弁護士に相談したほうが賢い選択になると思います」



 ともかくミッチャンの強い決意を聞いて、私は、少しは協力してみようと言う気になったのである。まあ、何度も言うように、私自身はこの話しは一種の都市伝説のようなものだと考えていたから、それほど真剣に思わなかったのもその一因ではあったのだが……。



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