宇宙に咲け、百合の花
「婚約破棄だぁっ!」
俺は自分の婚約者に向かって宣言した。
「王子殿下、なぜですの!?」
婚約者は訳が分からぬという表情で叫ぶ。
「そうですよ、お兄様! どうしてそんなことを急に仰るのですか! 私、素敵なお義姉様ができたって嬉しく思っていたのに……」
妹は涙混じりに、俺の決断を覆そうとしている。
だが、俺が婚約破棄を決めた理由の一端は、妹にあるのだ。
「なぜ? どうして? ふふん、言わねば分からぬか――」
俺はそこで一度、言葉を切る。
実のところ、 婚約者に対して不満はない。見目麗しいし、よく気が利く。最高の女性だと心底から思う。それでも……いや、だからこそだ。
彼女には、本当に愛する相手と結ばれて欲しい。
「婚約者殿よ。あなたが愛しているのは俺ではない。俺の妹であろう!」
「そ、それは!」
婚約者は雷に打たれたような顔で固まってしまう。
そのそばに妹が駆け寄り、体を支える。
「お兄様、違うんです! お義姉様は悪くありません……私がお義姉様を誘惑したんです……!」
「ふん。愚かな妹め。なにも分かっていないな。そいつは初めからお前目当てだったのだ。俺に近づいたのは、お前を手込めにするためだ!」
「ま、まさか……そんなっ!?」
妹は婚約者を見つめる。
すると婚約者は、罪悪感に苛まれるような表情を浮かべた。
「ごめんなさい……彼の言っていることは本当ですわ……」
「そ、そんな……それが本当なら……嬉しいですわ、お義姉様!」
妹は婚約者の腕を握りしめて、そう訴える。
「私、お義姉様が大好きです! 性的な意味で!」
「ありがとう……私もあなたが大好きですわ……性的な意味で!」
二人の言葉を聞いて、俺は深い満足感に包まれた。
「元婚約者殿よ! 妹をよろしく頼む! 餞別にこれをくれてやろう。女性同士でも子供を作れる薬だ。ただし女の子しか産まれないから気をつけろ! そこにセックスしないと出られない部屋を用意した。存分に使うといい。あと俺が乱心したらこれを使え。百合に挟まりたがる男を絶対に殺すビーム砲だ!」
元婚約者と妹は、手を繋いでその部屋に入っていった。
二人が結ばれたあと、俺は仙人の修行を積み、精神生命体となった。
そして元婚約者と妹の子孫たちが繁栄し、この地上が百合で包まれるのを見届けた。
今やこの惑星は女性しか存在せず、女性と女性が恋愛して女性を産むのみである。
しかし俺の使命はまだ終わらない。
この宇宙には生命体がいる星がほかにもあるだろう。
宇宙の全てに百合の花を咲き誇らせよう。
それが終われば、別の次元にも同じことをしよう。
ゆえに俺は旅立つ。
さらば母なる星よ。宇宙よ。
俺は全宇宙全次元全時間を百合で染め上げるのだ。
一人が評価するたびに、宇宙に一輪の百合が咲くでしょう