9話「エデル」
「こうも、あっさり死なれるとつまらないですわ」
公爵家のバルコニーで、お父様とエデル殿下とお茶をしている。
今日の紅茶はアップルティー。お菓子はチーズケーキとクッキーだ。
「ジェイは前世でアリシアを殺した男だ。スタン殿下の命令であったとしても許せんよ。わしは前世のアリシアの仇を討てて嬉しいよ」
お父様は上機嫌でチーズケーキを口に含んだ。
ジェイは良く言えば素直、悪く言えば脳筋なので、命令の意味を深く考えずに実行してしまう。
ある意味こんなにはめやすい男はいない。
「アリシアまさかとは思うけど、スタン殿下に、第二王子の悪口を言いに行くように仕向けたりしてないよね?」
エデル殿下が話に入ってきた。
「私は何も知りませんわ」
私が首を横に振ると、エデル殿下が父を見た。
「わしも何も知りませんな」
父も首を横に振る。
「ただ……スタン殿下がファルケ殿下をいじめに行く日は、城内で『ファルケ殿下の方が王太子にふさわしい』『ファルケ殿下が【スタン殿下は能無しのでくのぼう】だと言って笑っていた』という噂が流れていたようです」
「まぁ、どなたがそんなひどい噂を流したのかしら?」
私は父の顔をちらりと見る。父は「関係ありません」という顔で、クッキーを食べていた。
私と父の会話を聞いていた、エデル殿下がため息をついた。
「ファルケ殿下も気の毒に、第一王子にいじめられて、心に傷を負ってないといいけど」
「ファルケ殿下の心のケアはしっかりとしてあるので、問題ありません」
父が言った。
私の復讐計画に、幼いファルケ殿下を巻き込んでしまったことには、多少の罪の意識を感じる。
だがやり直し前の世界でも、スタン殿下はファルケ殿下をいじめていた。
なのでやり直し後の世界でも、私たちが何もしなくても、スタン殿下はファルケ殿下をいじめただろう。
スタン殿下がファルケ殿下をいじめていることを早期に陛下と王妃様の耳に入れ、側妃の実家を破滅させ第一王子の権力を削ぎ、ファルケ殿下へのいじめを止めさせたのだから、感謝しろとは言わないが、大目に見てほしい。
今後はスタン殿下がファルケ殿下に嫌がらせをしないように、ファルケ殿下の警備を強化する。
ファルケ殿下がスタン殿下にいじめられた期間を、やり直す前の世界より、大幅に短縮したのだ。穏便に取り計らってほしい。
ついでに言えば、父が中立派閥をまとめ、第二王子派に引き込んだおかげで。微妙な立場だった第二王子が、王太子の最有力候補になれたのだ。
多少、我が家の為に役に立ってもらいたい。
「エデル殿下、そうしかめっ面をしないでください。今後二度とスタン殿下がファルケ殿下に嫌がらせできないように、ファルケ殿下の警備を強化しましたから」
「そうですわエデル殿下、多少のことには目をおつぶりください」
私たち親子の言葉を聞き、エデル殿下は何か考えるように顎に手を当てていた。
「そうですね。綺麗事をならべても何もできませんからね。僕も閣下に、追っ手を何人か消して頂いた恩がありますからね」
エデル殿下が公爵家に滞在してから、ゼーマン帝国からの暗殺者が何度か公爵家を襲撃している。
父が暗殺者に対応し、エデル殿下を狙った暗殺者を秘密裏に処分している。
「エデル殿下を狙って暗殺者が度々襲撃してくるなんて、私婚約前に聞いていなくてよ」
「それは申し訳ない。そのへんは僕も君の復讐の全容を聞かないし、お二人が何をしても深く追求しないから、温情を持って処理してほしい」
本当に厄介な人と婚約してしまったものだ。
「アリシア、残るターゲットは、スタン殿下と侯爵令息のカスパーの二人だね」
「先にカスパーを片付けましょう」
やり直す前の人生でカスパーは、私が男爵令嬢をいじめる現場を目撃したという偽の証人を仕立てた。
いつもスタン殿下の後ろに隠れ私を嘲笑していた嫌な男。さてカスパーのことをどう料理してやろうかしら?
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