3話「ガーデンパーティ・叔父といとこ」
「久しぶりだな、兄上!」
「バナンか……」
「ルーウィーも挨拶しなさい」
「お久しぶりです伯父上、お元気そうで何よりです」
「兄上、早速で悪いが子爵家への融資の話と、それとルーウィーの養子縁組の話だが……」
庭に出ると、バナン叔父様とルーウィーが話しかけてきた。
目下の者から目上の者に話しかけるなんて、相変わらず叔父は礼儀がなっていない。
それから、私への挨拶はないわけ?
今日は私の誕生日パーティ。主役は私だ。
「誕生日おめでとう」の一言も言えないなんて、本当にだめな人たち。
「悪いが今日は娘の誕生日なんで、その話はやめてくれ」
「甘いですよ兄上。アリシアは一人娘。そしてアリシアは王太子殿下の婚約者です。アリシアはいずれは公爵家を出ていく身。一日も早く公爵家の跡継ぎを決め、跡継ぎ教育を始めなければ!」
叔父様は私の顔をチラッと見ると、すぐにお父様に視線を戻し、早口でまくしたてた。
叔父の言っていることは色々と間違っている。
第一に、私はまだ第一王子の婚約者ではない。
第二に、第一王子は立太子していない。
第三に、私が王族に嫁いだとしても、子供を二人以上作り、公爵家を継がせるという方法もある。
やり直す前の人生、お父様は私が王族との婚約が確定し、いずれは家を出ていくかもしれないショックから、少しおかしくなっていた。
だから叔父様の口車に乗って、見た目は天使だが中身は腹黒い悪魔の申し子のようなルーウィーを、養子にしてしまったのだ。
「失礼ですが叔父様、叔父様の言うことはいくつか間違っておりますわ」
「なんだと?」
私が二人の会話に口を挟むと、叔父が不機嫌な顔で私を睨んだ。
「まずスタン殿下はまだ立太子しておりません。立太子前の王子を王太子と呼ぶのは不敬にあたります。そして第二に私はスタン殿下の婚約者候補であって、まだ正式に婚約が決まった訳ではありません。それに万が一私が王太子殿下に嫁ぎこの家を出ていったとしても、子供を二人以上作り、二番目や三番目に生まれてきた子に、公爵家を継がせることも可能です」
「ちっ! 些細なことをごちゃごちゃと!
年上に向かって生意気な! アリシアと婚約すれば王太子になるのは確定したも同然! 第一王子はアリシアを婚約者に選ぶに決まってる! それに子供が二人以上生まれる保証はないだろう! 一人も生まれなかったらどうする!」
結婚前に私を石女扱いするなんて失礼ですわ。
「バナン、わしの娘に舌打ちすることは許さない。それにアリシアの言うとおりだ。第一王子殿下も第二王子殿下もまだ幼い。王族の跡継ぎについて論じるべきではない。お前の発言は不敬と取られても仕方ないぞ。それから婚姻前の娘を石女扱いするな。今度娘を石女扱いしたらただでは済まさんぞ」
父に睨まれ、叔父は顔色を青ざめさせた。
「す、すみませんでした兄上……」
「お前が謝るのはわしではない、アリシアだ」
「ぐっ……! す、すまなかった、アリシア」
叔父が屈辱に体を震わせながら、私に謝罪した。
叔父の顔には「ガキが余計なことを言うから、兄上に怒られただろ!」と書いてあった。分かりやすい人だ。
ルーウィーも己が公爵家の養子になるチャンスを潰され、不機嫌そうだ。
「お父様〜〜! 怖〜〜い! 叔父様とルーウィーが私を睨んできます〜〜! 私〜〜この人たちに誕生日パーティに参加してほしくありませんわ〜〜! お帰り頂いて〜〜!」
ゲレ男爵令嬢が殿方に媚びるときに使っていた、語尾を伸ばす甘ったるい喋り方を真似、お父様の腕にすがりつく。
「アリシアちゃん、せっかくお祝いに来たのに、そんな言い方しないでくれ。ルーウィーは君のいとこだろ。 仲良くしてくれ。もしかしたら君とルーウィーは義理の姉弟になるかもしれないんだ。邪険にしないでくれ」
誕生日のお祝いに来たのなら第一声は「誕生日おめでとう」でしょう?
私は今日一度も、叔父からもルーウィーからも「おめでとう」と言われていない。
ちらっとルーウィーを見ると、作り笑いを浮かべ「僕もアリシア様と仲良くなりたいな」と言っている。
やり直す前の人生の私は、ルーウィーのこの天使のような笑顔にころっと騙されていた。
内面の醜さを見抜けなかった、愚かな自分が恥ずかしい。
「ルーウィーが義理の弟になるなんて絶対に嫌っ! 私は一人っ子のままがいいわ! 弟なんていらない!」
お父様の袖を引っ張り、いやいやと首を横に振る。
「わがままを言うアリシアも可愛い。天使だ」お父様が私の顔を見てつぶやいた。
お父様、私のぶりっ子な演技ににやにやしている場合ではありませんわよ。
叔父をキッと睨むと、お父様は真顔に戻った。
「そうだな、アリシアが嫌がるなら止めよう。ルーウィーを養子にするのは止める。子爵家への融資も取り止めだ」
「兄上! いまさらそんなこと言われては困ります!!」
叔父様が大声を出したので、会場にいた人たちが一斉にこちらを見た。
今更もなにも、この段階で父はなんの確約もしてない。
融資の件も、養子の件も、叔父が勝手に成功すると思い込んでいただけだ。
「兄上。ここではなんですから、向こうで話しましょう。ルーウィー、私は兄上と大事な話がある。お前はアリシアに庭でも案内してもらいなさい」
人の目を気にした叔父は、父を庭の隅に連れて行った。
今日は私の誕生パーティだ。
大切なお客様への挨拶もしてないのに、なんで嫌いないとこの世話をしなければならないのか。
普段なら叔父の言葉を無視するところだ。
計画のために、ルーウィーと二人きりになりたかったのでちょうどいい。
「アリシアお義姉様、お庭を案内して下さい」
お得意の天使スマイルを披露するルーウィー。お前の笑顔には二度と騙されない。
それに、私はお前の「お義姉様」じゃない。
そして一生あなたの「お義姉様」になる事もない。
「気安く『お義姉様』なんて呼ばないで! 気分悪いわ! あなたのことなんか絶対に認めないから!」
私はルーウィーをキッと睨みつけ、走り出した。行き先はバラ園だ。
「まってください! お義姉様!」
「ついて来ないで!」
と口では言っているが、ルーウィーについて来てもらわないと困る。
ちらりと振り返ると、ルーウィーが私の後ろを走っているのが見えた。
よしよし、いい感じに計画はうまく行っている。
一分後、薔薇園についた。目に見える範囲に人はいない。
レニに頼んで薔薇園を立ち入り禁止にしておいたのだ。
「待ってください、お義姉様!」
遅れること数秒。息を切らせたルーウィーが薔薇園に到着した。
私はくるりと振り返り、ルーウィーに笑顔を向ける。
薔薇園にはルーウィーと私の二人だけ。
いや本当は他にも人はいる。ルーウィーに気づかれない位置に配置してある。
さぁルーウィー、あなたの断罪劇の始まりよ。
少しでも面白いと思っていただけたら、広告の下にある【☆☆☆☆☆】を押して評価してもらえると嬉しいです! 執筆の励みになります!!




