25話「小瓶と白い花」番外編11
――フォスター公爵・視点――
「あれから五年が経ったよ、アリシア」
わしは王都近郊の高台にあるアリシアの墓参りに訪れていた。
数年前にアリシアの墓の周りに植えた花の種が繁殖し、今では墓の周りは花畑と化している。
「幼かったファルケ陛下が先日婚姻なされた。王妃の腹の中にはすでに子供がいるらしい」
早いな、時が経つのはなんと早いものだ。
アリシアの仇であるスタン、ゲレ、ルーウィー、ジェイ、カスパーを殺し、奴らの実家を滅ぼし、政権を掌握し、王を退位に追い込んでも、わしの心は晴れなかった。
「わしもアリシアの花嫁姿や、アリシアの子供を見たかった。
孫をこの手で抱きたかった」
生きているアリシアに会いたくて、タイムリープする魔法や、時を司る精霊やアイテムを探したが無駄だった。
「この花はね、時を司る精霊を探すときに見つけた花なんだよ」
他のどの地域にも咲いていない、白い花。
古い書物には、魂だけ時を遡る効果があると書かれていたが、眉唾だろう。
「また来るよ」
『……お父様』
踵を返そうとしたとき、誰かの声が聞こえた気がした。
「アリシア……なのか?」
ウェディングドレスに身を包んだアリシアが、白のフロックコートを着た見知らぬ黒髪の男性の横で、ほほ笑んでいる。
アリシアの手には、墓の周りに植えたのと同じ白い花が握られていた。
『お父様、私エ……と結婚します』
アリシアの前には、涙を滝のように流す自分の姿があった。
アリシアと会話しているわしは、礼服に身を包んでいる。
『今幸せかですって? とても幸せよ。……ルが私を愛してくださるから』
この映像はいったい?
墓の周りに咲いてるのは、時を司る精霊を探すときに見つけた「魂だけ時を遡る効果がある」といわれる花。
「まさか……!」
アリシアはタイムリープしたのか?
古文書に書かれていたことは本当だったのか……!
確証はないが、わしはそう願わずにはいられなかった。
アリシアの魂は時を遡り、人生をやり直し幸せになれたのだと……。
やり直し後の世界で、アリシアは心から愛してくれる人を見つけ、幸せに暮らしているのだと。
「良かった……! 良かったよ、アリシア……!」
わしはその場に膝を突き、ボロボロと涙をこぼしていた。
『私はとっても幸せです。だから泣かないで、お父様』
その言葉を最後に映像は途切れた。
映像が途切れても、わしはしばらくその場から動くことができなかった。
☆
涙が止まり、ようやく立ち上がったときには、日はすでに傾いていた。
「ありがとうアリシア、わしももう少し生きてみるよ」
そう独り言を呟き、墓を後にする。
自宅に帰る頃には日はとっくに暮れ、辺りは真っ暗だった。
書斎に戻ったわしは、小瓶を暖炉にくべた。
瓶の中身は、前王に送ったものと同じ液体だ。
わしにはまだやることがある。
まともな養子を迎え、フォスター公爵家を存続させるという仕事が。
『お父様、私は必ず幸せになります。
私は今でもお父様の幸せを願っています。
だからそちらの世界のお父様も、健康に気をつけて長生きしてください』
養子を取り生きようと決めたわしの耳もとで、アリシアが囁いている気がした。
「アリシア、お前の元に行くのはもう少し先になりそうだ」
わしが死んだときは、わしの墓の周りにもアリシアの墓に植えたのと同じ花を植えてもらおう。
天使のはねのように、汚れのない真っ白な花を……。
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次回最終話。




