24話「厳罰」ざまぁ・番外編10
――国王・視点――
卒業パーティから二カ月が過ぎた。
「スタン・ゲート、ゲレ・ベルガー、ジェイ・ヨッフム、カスパー・ラウ、ルーウィーの五人は、卒業パーティの後、レストランに行き食事をした。
そして酔った勢いで死の森に遊びに行き、モンスターのスタンピードに遭遇し、死亡。
ハッセ子爵一家、ベルガー男爵一家、ヨッフム子爵一家、ラウ侯爵一家は流行病にかかり死亡。
病が他の家に感染するのを防ぐため病人を出した、ハッセ子爵家、ベルガー男爵家、ヨッフム子爵、ラウ侯爵家の屋敷は焼却処分された。
側妃は、父親であるハッセ子爵の看病中に子爵と同じ病にかかり、死亡………」
報告書を読んで、長いため息をついた。
机の上には書類の山。
机の上に置ききれなかった書類が床にも山積みになっている。
余はこの一ヶ月執務室に缶詰にされている。
理由は王太子派と中立派の貴族が、腹痛、頭痛、腰痛、骨折、歯痛、水虫、痛風、しゃっくり、深爪、あかぎれ……などなどの理由で休んでいるからだ。
仕方なく第二王子派だけで仕事を回していたが、ここ数日第二王子派の貴族まで休むようになった。
理由も、原因も、影で貴族を操っている人間も、分かっている。
分かっていても、余には対処できない。
「……余も覚悟を決めねばならぬか」
アリシアを不当に断罪した五人が死に、そしてその家族も死んだ。
わしだけが、ぬくぬくと玉座に座っているわけにもいくまい。
執務室に大臣を呼ぶ。
「お呼びにより参上いたしました」
「今から勅令を出す。
余の言うことをしかと書き留め、速やかに実行せよ」
「承知いたしました」
「王太子スタン・ゲート、男爵令嬢ゲレ・ベルガー、子爵令息ジェイ・ヨッフム、侯爵令息カスパー・ラウ、元公爵家の養子で現在平民のルーウィー。
以上の五名は卒業パーティで公爵令嬢アリシア・フォスターに冤罪をかけ不当な理由で殺害した。
この五人の罪は重い。
よって主犯であるスタンを廃太子し、王位継承権を剥奪し、王族から除籍処分とする。
スタンはすでに死んでいるが王族の霊廟に祀ることは禁ずる」
「スタン殿下……スタン様はすでに亡くなっております。
そこまで重い処分を下す必要がありますか?」
大臣が余に問う。
「スタンはそれだけの罪を犯した。
本来なら市中引き回しの上、八つ裂きの刑に処しているところだ」
大臣はスタンの罪の重さを知り、身震いした。
「ゲレ・ベルガー、ジェイ・ヨッフム、カスパー・ラウは各貴族家から除籍する。
ゲレ、ルーウィー、ジェイ、カスパーの四人の名を百年間、凶悪犯罪者リストに載せる」
凶悪犯罪者リスト、それは犯罪者の中でも特別な重い罪を犯した者の名を記したリストだ。
このリストに名を刻まれた者の罪は、親族にも及ぶ。
「ベルガー男爵家、ホルン子爵家、ヨッフム子爵、ラウ侯爵家は子供の教育を間違え、凶悪犯罪者を出した責任を問い取り潰しとする。
ゲレ、ジェイ、カスパー、ルーウィーの親を死罪に処す。
すでに死んでいる者は墓を掘り起こし遺体の首を刎ねよ。
なおこの者たちの墓を作ることを禁じる」
大臣が息を呑んだ。
国家反逆罪、王族の暗殺、謀反など、よほどの重い罪を犯さなければこれほどの罰を受けることはない。
ハッセ子爵家から始まった奇病は、ベルガー男爵家、ホルン子爵家、ヨッフム子爵、ラウ侯爵家へと広がった……ということになっている。
だが、あれは病ではなく毒。
王都の民や、他の貴族に病が移らなかったのがなによりの証拠。
スタンの共犯者の家を断罪した。
「なお、側妃の実家であるハッセ子爵家は、流行病を王都に広げた罪を問い、取り潰しとする」
主犯であるスタンの、生み親である側妃の実家であるハッセ子爵家を、罪にも問わないわけにはいくまい。
「側妃リンダは、余の許可なく実家に帰省し、流行り病を他家に移した罪に問い、側妃の身分を剥奪、死罪にする。
リンダはすでに死んでいる、遺体の首を刎ねよ」
大臣はわしの言ったことをスラスラと書き記していた。
これでスタンとその仲間たちと、その実家についての処罰は終わった。
「これにて、卒業パーティでの公爵令嬢殺害事件、並びに王都で流行した流行り病の一件の処罰を終える。
次に…」
あとはわしの身の振り方だな。
スタンの言動を止められなかった余にも罪はある。
せめて卒業パーティでスタンがやらかしたと知らせを受けたとき、スタンとその仲間たちを捕らえ、城に連行させるべきであった。
わしはオロオロするだけで何もできず、スタンの帰りを待ってしまった。
帰ってきたスタンから事情を聞けばよいと、そう思ってしまった。
おそらくスタンもその仲間も、八つ裂きなどよりもっと惨たらしい殺され方をしたのだろう。
わしが公爵より先に、スタンを捕らえていれば、もう少しましな死に方をさせてやれた。
息子の骨ぐらい拾ってやれた。
全てはわしの判断が遅かったせい。
公爵はわしにスタンたちを捕らえる時間を与えてくれたというのに。
わしはまごつくだけで何もできなかった。
「余は不治の病に侵されている。
よって、第二王子であるファルケに譲位する」
「しかし陛下、ファルケ殿下はまだ幼く」
「ファルケが成人するまで王妃に代理政権を任せる。
王妃の補佐にはフォスター公爵をつける。
以上だ」
「フォスター公爵は確かに政治に明るいですが、それではこの国の政治がフォスター公爵の思うままになってしまいます」
「何を言う、すでにこの国の政治は余の手を離れておるよ。
机にある書類の山を見よ」
大臣は部屋の中にある書類の山を見て、状況を理解したようだ。
「すでに貴族の2/3が登城を拒否し、城の仕事が滞っている。
彼らに登城してもらうには、フォスター公爵に声をかけてもらうしかない」
フォスター公爵家は、王族の暗部の仕事を引き受けてきた。
その上、現フォスター公爵は人心掌握術に長けている。
国王であるわしですら、フォスター公爵の前では赤子も同然。
フォスター公爵を敵に回したら、一年と生きられん。
「しかし……」
大臣が食い下がる。
「フォスター公爵とその仲間が抱える私兵の数は、王族の抱える兵士の数を超えている。
今わしが譲位しなければ、武力での制圧にかかり、ゲート王家はわしの代で終わる」
「そんな……それはあまりにも!」
「分かってくれ大臣。
これが罪なき王妃と、幼きファルケを生かし、ゲート王家を存続させる唯一の方法なのだ」
大臣は「承知いたしました」と言いながら、涙を流した。
大臣の忠誠心をありがたく思う。
フォスター公爵の世になっても、上手に仕え、生き残ってくれ。
☆
――五年後――
離宮で療養する余の前には、小瓶がある。
中身は毒薬だ。
フォスター公爵のはからいで、苦しまずあっさりと死ねる毒が用意された。
元王族は「凶悪犯罪者リスト」に名を載せることができない。
しかしスタンの母である側妃は、死んだあとに罪人として首を刎ねられた。
スタンの父親である余だけが、前王という立場に甘え、罪から逃れることはできぬ。
スタンの名は「凶悪犯罪者リスト」には載せられなかったが、スタンには別の方法で後世に名を残してもらった。
ゲート国がある限り「スタン」という名を、王族と貴族の名前に使用してはならない。
王族が大罪を犯したときに取られる処置だ。
スタンが起こした悪事は、この国がある限り未来永劫語り継がれる。
スタンを悪い見本とし、今後は公衆の面前で婚約破棄をする愚か者が出ないことを願う。
フォスター公爵の温情により、ファルケが成人するまで生きることができた。
成人したファルケの姿を、遠くからだが一目見ることができた。
譲位した頃のファルケはまだ幼かったが、五年ぶりに見たファルケは、背が伸び顔立ちも大人になり、立派な王になっていた。
ファルケの結婚式には参列できなかったが、愛らしい花嫁と腕を組むフロックコート姿のファルケを、遠くから眺めることができた。
フォスター公爵の温情には、痛み入る。
フォスター公爵はアリシアの花嫁衣裳を見ることも、アリシアに別れの挨拶をすることも叶わなかった。
罪を犯したスタンの父親であるわしが、息子の花婿姿が見られたのだ。
贅沢であり、とてもありがたいことだと思う。
歴史にもしもがあるのなら、アリシアをスタンの婚約者にはしない。
スタンを立太子させない。
スタンをしっかりと教育し、早いうちに臣籍に降下させる。
それでもスタンがまともに育たなかったときは、他人に迷惑をかける前に余の手で処分する。
歴史にもしもがあったならな…………。
余はスタンが大罪を犯す前に、苦しまなくて済む方法で殺してやる。
そうすれば、スタンに別れの挨拶をすることもできる。
だが、そんなもしもはない……。
そんなことを思いながら、余は小瓶の中身を一気に飲み干した。
読んでくださりありがとうございます。
少しでも面白いと思っていただけたら、広告の下にある☆で評価してもらえると嬉しいです。
残り二話、最終話までお付き合いいただけると嬉しいです。




