20話「天使の皮を被った悪女」ざまぁ・番外編6
――ジェイ・ヨッフム視点――
硫○をかけられたルーウィーが、床にたおれている。
フォスター公爵は、ルーウィーの伯父で養父だろう?
フォスター公爵は甥であるルーウィーに、なぜそんな残酷なことができるんだ?
そんなことを考えていたら、フォスター公爵と目があった。
フォスター公爵は、絵本に描かれている魔王より恐ろしい顔をしていた。
「ひぃっ……!」
まずい……!
オレは殿下の命令でアリシアを斬り殺している……!
こ、殺される……!
逃げなければ……!
だが体がしびれて動かない。
「わしとしたことが、うっかりしていた。
ルーウィーよりも、卒業パーティでの騒動の元凶。
庶民出身のあばずれの処刑が先だった」
フォスター公爵は、ゲレのことを言っているのだろうか?
「ゲレはアバズレなどではない! 清らかで、天使なような存在だ!」
明るく活発な性格のゲレは、オレたちの太陽だった。
ゲレはオレたちを平等に愛してくれた。
ゲレはオレたちの中で一番身分の高いスタン殿下と結婚するが、結婚後はオレたちと床を共にしてくれると約束してくれた。
そして結婚後も、殿下と同じぐらいオレたちのことを、愛してくれると約束してくれたんだ。
「アバズレを天使と言うとは、貴様の目は節穴だな。
脳みそまで筋肉でできている貴様に言っても理解できないだろうがな」
「ゲレを侮辱するな!」
愛しい女をアバズレ呼ばわりされては騎士の名折れ、今すぐにも公爵を斬り殺してやりたい!
しかし、悲しいかな指一本動かせない。
「守ってきた愛しい女の顔が、硫○で溶ける様を、そこで眺めているといい」
フォスター公爵はゲレの髪を掴むと、ゲレの体を壁に押し付けた。
「離して!
あ、あたしは何も悪くないわ!
アリシアの敵討ちに来たのなら、あたしを狙うのは間違いよ!
卒業パーティでの断罪を企てたのも、アリシアを斬り殺したのも、スタン様とその取り巻きよ!
あたしには関係ないわ!
殺すなら彼らだけにして!!」
ゲレの言葉に耳を疑う。
いつも語尾を伸ばしたおっとりとした話し方をしていたゲレが、あんなに早口で話せるなんて!
だが一番驚いたのは、我が身可愛さにオレたちに罪をなすりつけて逃げたことだ。
「今の言葉を聞いたかね?
自分が助かるために仲間を売る。
これが貴様らが守ってきた女の本性だよ」
「嘘だ!
ゲレはそんな子じゃない!
ゲレは清らかで優しい心の持ち主なんだ!
フォスター公爵に脅されて、心にもないことを言っているだけだ!」
オレは自分に言い聞かせるように叫んだ。
オレの中ではすでに、ゲレへの信頼は揺らいでいた。
「ジェイ・ヨッフム、貴様はどこまでもおめでたい男だな」
フォスター公爵がオレを鼻で笑う。
「ゲレ・ベルガーに尋ねる。
この中で一番悪いのは誰だと思う?
そいつの名前と、そいつが一番悪いと思う理由を正直に言えば、お前の頭に硫○をかけるのは止めてやろう」
フォスター公爵がゲレに尋ねる。
「本当ですか!?
本当に正直に話せば、あたしの頭に硫○をかけるのをやめてくれるんですか?!」
ゲレが泣きそうな顔で公爵に問う。
「ああ、本当だとも。お前の頭に硫○をかけるのは止めてやろう」
フォスター公爵が口角を上げる。
フォスター公爵の口元は上がっているのに、目は全然笑っていなかった。
「なら言うわ!
悪いのは言い出しっぺのスタン殿下よ!
ううんスタン様は口を出すだけで、頭が空っぽで役に立たないから、緻密な計画を立てたのはカスパーね!
カスパーも悪いわ!
でも一番悪いのは、アリシアを斬り殺したジェイだわ!」
ゲレはあっさりとオレたちのことを、公爵に売った。
「なるほど、ゲレ・ベルガー君はジェイ・ヨッフムが一番悪いと言うのだね?」
「そうよ!
ジェイが一番悪いわ!
アリシアさえ生きていれば、あたしたちがしたことは、卒業パーティでのちょっとした悪ふざけで済んだのよ!
ジェイがアリシアを斬り殺したから、大事になって、フォスター公爵に復讐されることになったのよ!
今あたしたちが酷い目にあっているのは、全部、全部、ジェイのせいよ!」
ゲレが可愛い顔を歪め、オレを睨む。
「ゲレ・ベルガー、貴様に今一度尋ねる。
アリシアを殺すように命じたのは、スタンだと聞いているが、それでも貴様はジェイ・ヨッフムが一番悪いと言うのだな?」
フォスター公爵がもう一度ゲレに尋ねた。
「そうよ!
スタン様の命令にバカ正直に従ったジェイが悪いわ!」
「フォスター公爵、聞いてくれ!
俺はアリシアを、剣でちょっと脅してやろうと思っただけだ!
まさかジェイが、アリシアに斬りかかるとは思わなかったんだ!」
ゲレに続き、スタン殿下にまで裏切られた。
「ゲレ……!
スタン殿下……!
あんまりです!
オレは殿下の命に従ってアリシアを斬っただけなのに……」
「うるさい黙れ!
卒業パーティだぞ!
そんなめでたい席で本当に人を殺すとは思わないだろ!」
スタン殿下が、ゴミを見る目でオレを睨む。
殿下の目は「罪を被って死ね」と言っていた。
「ぼくも、あれはやりすぎだと思ったよ」
カスパー……お前までオレを責めるのか……?
ゲレにも、スタン殿下にも、カスパーにも裏切られた。
「全部、オレ一人が悪かったって言うのか?
オレにアリシアを殺すように命じたのはスタン殿下です!
ゲレもカスパーも、オレが剣を抜いたとき止めなかったじゃないか!」
「俺は冗談のつもりで言ったんだ!
本当に殺すとは思わなかった!」
「あたしは怖くて、動けなかったのよ」
「ジェイが剣を抜いてから、アリシア嬢に斬りかかるのに数秒の時もなかった。
止めようにも、止められなかった」
三人が冷たい目でオレを見る。
三人はオレに全ての罪を押し付けて、逃げる気だ。
「こんなのあんまりだ!
オレが何をしたっていうんだ!
オレは……オレはただ……殿下の命令に、従っただけなのに……!」
オレは悔しい気持ちでいっぱいだった。
ゲレと殿下とカスパーを順番に睨む。
しかし三人には、目を逸らされてしまった。
「どうやらジェイ・ヨッフム、お前はみんなから見捨てられたようだね」
フォスター公爵が、蔑んだ目でオレを見た。
「フォスター公爵!
誰が一番悪いか正直に言ったわ!
約束通り、あたしのことは助けてくれるんでしょう?」
ゲレが期待を込めた目で、フォスター公爵を見る。
「そうだね。約束通り君の頭に硫○をかけるのは止めよう」
「えっ……?
それはどういうこと……?」
ゲレはフォスター公爵の言葉が理解できないようだ。
愚かだなゲレ。
公爵は頭に硫○をかけるのを止めると言っただけだ。
ゲレを助けるなんて、一言も言ってない。
公爵の部下がゲレの体を壁に押し付ける。
部下が公爵に先端の尖った金属の棒と、金槌を手渡す。公爵は無表情でゲレの右の手のひらに、杭を刺した。
「アリシアは出る杭を打ちそこねたようだね。
身の程をわきまえずに出てきた杭は、こうやって打ち付けるのだよ」
公爵はゲレの左手にも杭を打ちつけた。
「助け……たずげて……」
ゲレがボロボロと涙を流しながら、公爵に助けを求める。
「ゲレ・ベルガー。約束通り、頭に硫○をかけるのは止めてあげるよ」
公爵は部下に命じ、ゲレの顔に硫○をかけた。
ゲレの可愛かった顔が、醜く焼けただれていく。
オレはゲレが公爵にひどい目に遭わされても、何も感じなかった。
つい先程まで命をかけて守ろうと思っていた女だが、もうどうでもいい。
オレに罪をなすりつけた女が、どんな目に遭おうが、オレの知ったことではない。
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