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17話「側妃」ざまぁ・番外編3




――側妃視点――



ハッセ子爵家から、父が急な病で倒れたという連絡が入った。


あたくしは急いで実家に帰る準備に取り掛かる。


陛下が「待て! 王太子が……お前が生んだ息子が! 卒業パーティでとんでもないことをしでかした……!」と青い顔で叫んでいるのを無視し、あたくしは実家に帰るため馬車に乗った。


陛下はお優しいが決断が遅い。


陛下があれこれと悩んでいるうちに、行動を起こしてしまった方が良い。


実家に帰ったあたくしを、無理やり連れて帰ったりしないでしょう。


スタンが卒業パーティで揉め事を起こしたらしいけど、どうせ下位貴族の令息を殴ったとかそんな程度でしょう?


スタンが学園に入学してから、たまにそういう問題を起こすことがあったわ。


そのくらい国王ならもみ消しなさいよ。今までだって権力を使ってもみ消してきたじゃない。


王太子であるスタンの気に障ることをした、相手が悪いのよ。


もしも権力でもみ消すのが難しい事態なら、側近に罪をなすりつけてしまえばいいのよ。


ジェイ・ヨッフム、カスパー・ラウ、ルーウィー・フォスター、三人も側近がいるなら、誰か一人ぐらい罪を被ってくれるわ。


側近の役目はスタンの代わりに死ぬこと。


王族の役に立って死ねるのなら、彼らも本望でしょう?


そんなことより、今はお父様の容態が心配だわ。


馬車を飛ばし、実家であるハッセ子爵家に帰ると、父は寝室のベッドに横になっていた。


父の枕元にはハッセ子爵家のお抱えの医者がいた。


医師に父の容態を尋ねたが、医者は父が倒れた原因がわからないと言う。


この役立たず!


これだから街の医者はだめなのよ。


こんなことなら城から、王の主治医を連れて来ればよかったわ。


だが王の主治医を連れてくるには、陛下の許可がいる。


陛下はスタンのことで機嫌が悪そうだったから、主治医を貸してくれそうにないわ。


もう! よりにも寄ってこんな日に問題を起こすなんて! スタンにも困ったものだわ!


城に帰ったら、スタンにうんとお説教しなくちゃ!


医者が部屋を出るのと入れ替わりに、メイドが入ってきた。


見たことがないメイドだ。あたくしが城で暮らしている間に、新しいメイドでも雇ったのかしら?


メイドはお父様の額の上に置かれた濡れタオルを回収し、別の濡れタオルをお父様の額の上に置いた。


「お父様……早く良くなって」


お父様の手を握り、お父様に呼びかけていると、首にチクリと痛みが走った。


振り返ると、先ほどお父様のタオルを交換していたメイドがあたくしの後ろに立っていた。


メイドはあたくしと目が合うと、ニヤリと笑った。


「あなた……あたくしに、なにを……?」


意識が遠くなっていく。


メイドに向かって伸ばした手は、空を掴んだ。


「ご安心ください。子爵に使ったのと同じ毒をあなたにも注射しただけです。


父親の看病のために、実家に帰ってきた娘が、父親と同じ病にかかり、同じ日に死ぬ。美談ですわね」


メイドはそう言ってくすりと笑う。


「なに……を、言って……」


舌がうまく動かない。体に力が入らない。


「原因不明の病を出した子爵家は、感染を広げないために屋敷ごと焼き払われることになっています。


使用人も屋敷と一緒に燃やします。地獄に落ちても世話してもらえるから寂しくありませんね」


メイドは邪悪な笑みを浮かべ、そう言い放った。


誰か……!


誰か来て……!


使用人を呼びたいが、口を開けることができなかった。


あたくしはそのまま気を失った。







次に目を覚ましたとき、あたくしはベッドの上だった。


この天蓋付きベッドはあたくしのもの。


ここはハッセ子爵家のあたくしの自室。


そうだわ! あたくしはメイドに毒を射たれて……!


あの女、お父様にも同じ毒を射ったと言っていたわ!


誰か人を呼ばなくては……!


このままでは、あたくしもお父様も死んでしまう……! 


こんな惨めな死に方は嫌よ!


側妃である私が王宮ではなく、実家である子爵家で死ぬなんて! 


まだスタンの結婚式も、スタンの戴冠式も見ていないのに……!!


今すぐ助けを呼ばなくては!


誰か……!


今すぐ部屋に来て……!


あたくしとハッセ子爵家の危機なのよ……!


意識があるのに喋れない。


体を動かしたいのに、指一本動かせない。


体が熱い。


息が苦しい。


泣くことも、叫ぶことも、暴れることもできない。


体のあちこちが痛い。


助けて……!


誰か、助けて……!


日を追うごとに体の熱が上がり、痛みがましていく。


診察に来た医者があたくしを診て、

「皮膚が腐っている、まさか……バジリスクの毒……!」

そう青い顔で言ったときには、絶望した。


「まずい! まずいぞ……! バジリスクの毒を使うような奴に関わったら、ワシの命が……いや一族郎党、こ、殺される!」


医者は荷物をまとめ、真っ青な顔で部屋を出ていった。


医者はその日からあたくしの部屋に来なくなった。


翌日、あたくしの看病に来たメイドが。


「看病しろと言われても、あたしたちだけではどうしようもないわ。お医者様はどうして来ないの」


「それが、お医者様は『厄介事に巻き込まれるのはごめんだ!』と言って、逃げるように屋敷を出ていってそれっきりなのよ。執事がお医者様の屋敷を訪ねたときは、もぬけの殻だったそうよ」


同僚のメイドと、そう話しているのを聞いてしまった。


陛下に聞いたことがあるわ、バジリスクは砂漠に住む猛毒を持つ蛇で、蛇の王と言われていると。


バジリスクの毒は、ある一族にのみ使うことを許された解毒薬のない猛毒だと。


バジリスクの毒を使う一族を決して怒らせてはいけない、敵に回してはいけないとも言っていたわね。


万が一その一族を敵に回したら最後。


バジリスクの毒で殺された者が一人でもでたら、その一家は終わりだと……。ターゲットの三親等先の親族まで毒殺されると……。


体に冷たい汗が伝う。


体中に毒が回り、生きたまま体が腐って死ぬなんて嫌っ……! 


死にたくない……!


あたくしは何もしてない……!


助けて……!


誰か助けて……!


怖い……!


いや、死にたくない……!


痛い……痛い……。


苦しい……苦しい……。


誰か……!


誰か、お願い…………助けて!


読んで下さりありがとうございます。

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