16話「バジリスクの毒」番外編2
執務室に戻ったわしは、家令と暗殺部隊を呼んだ。
彼らはすぐにわしの部屋に集合した。
敵は王太子スタン・ゲート、男爵令嬢ゲレ・ベルガー、子爵令息ジェイ・ヨッフム、侯爵令息カスパー・ラウ、公爵家養子ルーウィー・フォスターの五人。
ここからは時間との戦いだ。
王太子とその仲間達が家に帰る前に、わしの手で奴らを抹殺する。
奴らは、王命による婚約を一方的に破棄し、公爵家の令嬢に冤罪をかけ、裁判にかけずに殺害し、卒業パーティを台無しにした。
いくら王太子とその側近といえど、厳罰は免れまい。
しかし王は判断が遅い。そして身内に甘い。
側妃と王太子にいいように言いくるめられ、王太子とその一味を軽い処分で済ませるかもしれない。
一番身分が低く、アリシア殺害の実行犯でもあるジェイ・ヨッフムに罪を押し付け、他の四人は逃げる可能性がある。
その場合、死罪になるのはジェイ・ヨッフムのみ。
残りの四人に下される刑罰は、スタンは廃太子され貴族牢に幽閉。
カスパー・ラウは侯爵家から除籍。男爵令嬢のゲレは修道院。
ルーウィーは養子縁組を解除されホルン子爵家に帰る……その程度だろう。
わしの娘に冤罪をかけ、弁解も許さずに殺しておいて、その程度の罰で済むと思うなよ!!
「家令! ルーウィーとの養子縁組を解消する! 早急に手続きの準備をせよ!」
「かしこまりました。旦那様」
「ついでにホルン子爵家へ行き、バナンを捕えろ。子の不始末の責任は、実の親であるやつにもある」
愚弟との縁を今日限りで切る。
「ルーウィーの奴、養子の分際でつけ上がりおって。やつだけはあっさりと殺さん。死んだほうがマシと言う目に合わせてから、じわじわと殺してやる」
養子の分際で、当主の実子であるアリシアに冤罪をかけ、ただで済むと思うなよ。
「バジリスクの毒を使う。用意せよ」
わしは暗部に命令する。
「承知いたしました」
砂漠に住むバジリスクは猛毒を有している。
その毒は遅効性で、徐々に体が動かなくなり、最後は肉が腐り落ちて死に至る。
バジリスクの毒に効く解毒剤はない。
「親の責めを問うのなら、スタンの親である側妃にも問わなくてはならんな。
王妃より先に息子を生んだ程度でのことで、息子が王太子になれると信じ込み、幼いころからスタンを洗脳し続けた罪は重い」
側妃が子を生んだ日、男だと分かった瞬間、側妃もスタンも始末しておけばよかったよ。
遅くても王妃がファルケ殿下を生んだ時点で殺しておくべきだった。
「ハッセ子爵家に行き、側妃の父親にバジリスクの毒を使え。すぐに死なないように、ごく少量の毒を注射器を使いハッセ子爵に射て」
わしは暗部の女性隊員に命じた。
「承知いたしました」
バジリスクの毒は、少量ずつ注射すると病にかかったように見える。
側妃はファザコンだ。父親が病にかかったと知れば、実家に飛んで帰るだろう。
父親の看病のために実家に帰った側妃が倒れる。病に侵されたものは王宮に入ることはできない。
それは側妃であっても例外ではない。例外が許されるのは国王と王妃と王太子のみ。
側妃を思い入れのあるハッセ子爵家で、大好きな父親と一緒に死なせてやるのだ、わしは優しいな。
「王太子と側近のいる食堂は分かったか?」
「はい。王都の中心にあるホテルを兼ねた高級レストラン、ケーフィヒです」
「鳥かごか、自ら檻の中に入って待っているとは感心なことだ」
「今日はそのレストランで食事をしたあと、ホテルに泊まるようです」
「そうか、では奴らが今日、家に帰らなくても誰も気づかないのだな」
奴らの親の元にも、奴らが学園で何をしでかしたのか情報は入っているだろう。
各家の人間に、今すぐバカ息子・バカ娘を家に連れ帰り、子供に処罰を与える気概があればよいが。
今頃は子供を切り捨て、家の対面を保つことばかり考えているはずだ。
フォスター公爵家もなめられたものだな。
子供を切り捨てたぐらいで、わしが許すと思っているのか?
ゲレ・ベルガー、ジェイ・ヨッフム、カスパー・ラウ、ルーウィーの実の親にも責任を取らせる。
スタンの親にだけ責任を取らせ、他の奴の親を見逃したのでは不公平だからな。
アリシアが生まれてから十八年。
最愛の娘に嫌われたくなくて、温厚な父親を演じてきたが、それも今日で終わりだ。
地獄の悪魔よりも残忍で、魔女よりも執念深く、龍よりもしぶといと言われた、わしの恐ろしさを思い知らせてやる。
首を洗って待っているがいい。
全員簡単には殺さぬぞ。
自分たちのしでかしたことを、後悔しながら死ぬがいい。
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