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13話「第一王子スタン」ざまぁ




王城、謁見の間。


玉座に座った国王は、冷たい目でスタンを見下ろしていた。


スタンは拘束を解かれ両腕を自由に動かせるようになっていた。


しかし、スタンの両隣には衛兵が控えていた。


「スタン、エデル殿下とアリシア嬢に暴力を振るったそうだな?」


「アリシアが生意気なことを言ったから殴っただけです。俺は悪くない。それにエデル殿下には暴力を振るっていません。エデル殿下に暴力を振るわれたのは俺の方です」 


ふてぶてしい態度でスタンが答えた。


「公衆の面前でアリシア嬢にプロポーズし、アリシア嬢に断られると逆上してアリシア嬢を殴った。その上、『はい、と答えるまで殴り続けるぞ!』と言ってアリシア嬢を脅したそうだな」


「俺はそんなことを言ってません!」


スタンは嘘をついて、なんとかこの場をやり過ごそうとした。


「黙れ、お前には王家の影をつけている。すでに影から詳細な報告を受けている」


国王に睨まれ、スタンはビクリと体を震わせた。


「警告したはずだ。学園で揉め事を起こせば、重い処分を下すと」


「あんなの揉め事のうちに入りませんよ。第一王子であるこの俺が、生意気な貴族に身分の差を教えてやったに過ぎません」


「そうか、身分の差か。卒業後は王位継承権を剥奪され、王族から除籍され平民になる身で、よくそんなことが言えたものだな」


「それは……確かに……。ですが王族から除籍されるのは卒業後のことで、それまで俺は王族です! それに卒業までに婿入り先を決めるので、俺が平民に落ちることもありません!」 


スタンは自信たっぷりに言った。


薄鈍(うすのろ)浅短(あさはか)だとは思っていたが、ここまで愚鈍(ぐどん)だったとはな。人前で公爵令嬢に手を上げるような男を、婿に欲しがる家がどこにある?」


国王は「フォスター公爵家の力はそれだけ強大だ。フォスター公爵家を敵に回してまで、スタンを婿養子にしたがる家などこの国にはない」という意味を込めて言ったのだが、スタンには全く伝わらなかった。


「あれはアリシアが生意気だから悪いのです! あの場にいた生徒は、王子に盾突いた貴族を成敗した俺のかっこよさに、感動し、打ち震えていたはずです!」


スタンは瞳をキラキラさせて言った。


「その自信はどこから来るのか? やはりお前を生かしておいても王家にとっても、王太子のファルケにとってもマイナスにしかならないな」


「父上! なぜここでファルケの名前が出てくるのですか!? ファルケは第二王子の分際で、俺から王太子の座を奪った泥棒ですよ!」


スタンは幼い頃から、国王の長男が王太子になるものだと本気で思っていた。


「ファルケが王太子になることは五年前から決まっていた。スタンの母親の実家のハッセ子爵家が取り潰され、側妃が幽閉されたときからな」


「嘘だ! 俺は信じない! ファルケが王太子になることがそんなに前から決まっていたなんて絶対に嘘だ! 国王の長男の俺が王太子になることは生まれたときから決まっていたんだ! それをファルケが卑怯な手を使って、俺から王太子の地位を奪っていったんだ!」


真剣な顔で抗議をするスタンを見て、国王は固まった。


「まさか国王の長子に生まれただけで、自分が王太子になれると本気で信じていたとはな……。考えが浅い上に厚かましい」


国王はスタンの想像の上を行く愚かさを目の当たりにし、眉間にシワを寄せ、深く息を吐いた。


母親の実家は没落、後ろ盾を失い、頭も悪い、素行も悪い、暴力的で、思慮が浅く、怠け者、そんな男を王太子にするわけがない。


「フォスター公爵、スタンの処分をどうしたらよい?」


「父上! なぜ、そんなことをフォスター公爵に聞くのですか! フォスター公爵など一貴族にすぎません!」


王宮では、フォスター公爵の許可なくして、紙一枚、ペン一本動かせないと言われている。


そのフォスター公爵に向かって、よくもそんなことが言えるものだと……国王は息子の愚かしさに辟易していた。


「陛下。スタン殿下の処分なのですが、今すぐ王位継承権を剥奪し、王族から除籍し、その上で北の塔に幽閉するのがよろしいかと」


「そうだな公爵名案だ。ではそうすることにしよう」


「ちょっと、待て! だからなんでフォスター公爵が俺の罰を決めるんだ!」


スタンの言葉を無視し、国王はフォスター公爵と話を進めていく。


フォスター公爵は提案をしただけで、スタンの処罰を決めたのは国王だ。


間抜けなスタンはそのことにすら気が付かない。


「王位継承権の剥奪と、除籍処分はこちらでしておく。騎士団長に命ずる。スタンを北の塔に連れていけ。そやつはもはや王族ではない。多少手荒に扱っても構わん」


「承知いたしました」


騎士団長はスタンに近づくと、無表情でスタンを拘束した。


騎士団長は暴れるスタンを俵を担ぐように、肩で担いだ。


「騎士団長、少しよいかな?」


スタンを俵担ぎして扉へと向かう騎士団長を、フォスター公爵が止めた。


「フォスター公爵、助けてくれるのか……!」


スタンは瞳に涙を浮かべ、期待を込めた表情でフォスター公爵を見る。


だがその期待はあっさりと裏切られた。


「スタン殿下……いえもう王子ではないのでしたね。ではスタン様とお呼びしますね。わしごときに陛下の判断を覆す力などありませんよ。わしはただスタン様に、北の塔がどのようなところか教えて差し上げようと思っただけです。スタン様は北の塔がどのようなところかご存知ですか?」


「知らない。だが貴族用の牢みたいなところだろ?」


スタンは塔に行っても美味しいものを食べ、何不自由なく暮らせると思っていた。


フォスター公爵は残念な物を見る表情でスタンを見て、首を横に振った。


「いいえスタン様それは違います。北の塔は、平民用の牢屋以下のところです。暗い部屋、粗末なベッド、隙間風が通り抜ける壁、壁の穴からは風だけではなくネズミや虫が出てくる、それはそれは不潔で恐ろしいところです」


「そ、そんな不衛生なところに行けと言うのか!」


「そうです。毒杯が届くまであなたはそこで過ごすのです」


「毒……杯だと?」


毒杯という言葉を聞いて、スタンの顔は青ざめた。


「さようでございます。これからスタン様は、陛下がスタン様を処刑せよと命を下し、毒杯が北の塔に届く日を、今日か明日かと……怯えながら、汚らしい部屋で一人で過ごすのです」


「そんな……」


スタンの目が絶望に染まる。


「一つだけ助言いたします。毒杯と言ったのでワインなどの飲み物に毒が入っていると思われたかもしれませんね。


しかし、何に毒が入っているか分かりません。パンやスープや肉や水に毒が入っている可能性も十分にあります。


食べ物を口に入れるときは、最後の食事だと思ってお召し上がりください」


フォスター公爵がスタンの目をまっすぐに見て、冷淡な声で告げた。


「いっ、嫌だーー! 俺はそんなところに行きたくないーー!! 助けてっ! 助けてください!! 父上ーー!!」


フォスター公爵の言葉に、スタンは完全に心を折られた。


「わしの話はこれで終わりです。騎士団長殿、スタン様を北の塔にお連れしてください」


涙と鼻水を垂らし泣きわめくスタンを肩に担ぎ、騎士団長は無表情で部屋を後にした。


「フォスター公爵も酷いことをする。北の塔に入れられたスタンは、水一杯まともに口にすることができないだろう」


国王が乾いた笑みを浮かべる。


「スタン様は餓死するかもしれませんね。それはそれで構いません。毒杯の節約になります」


フォスター公爵が冷然と告げた。


「スタンにはふさわしい罰かもしれんな」


国王はスタンを生かしておいても、王国にとってもファルケにとってもプラスにならないと判断した。


国王の中で、スタンはファルケの足を引っ張るだけの存在、税金を無駄遣いするだけの存在、貴族や平民の怒りを買うだけの存在として位置づけられていた。


「差し出がましいことを申します陛下。腹違いの兄弟が立太子することは、王族にとっては命の危機を示します。それも分からないようでは、スタン様はどのみち長くは生きられなかったでしょう」


王国の歴史を紐解けば、腹違いの兄弟が即位すると同時に、粛清された者は何人もいる。


「側妃を幽閉したあと、王妃が二人目を生んだ。三人目も妊娠中だ。スタンの血のスペアとしての役目も終わった」


側妃というストレスを取り除いたことで、王妃が懐妊したことは国王にとって幸運だった。


「スタンがあれ以上、国内の貴族にひんしゅくを買う前に幽閉できた」


スタンの行いの悪さは年々目に余るものになっていて、国王を悩ませていた。


「スタンが他国の貴族や王族とトラブルを起こす前に、処分できて良かったと思うことにしよう」


国王は独り言のようにつぶやいた。


フォスター公爵は、娘の復讐対象の最後の一人を処分できたことに、心の中で両手を上げ喜んでいた。



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