1話「卒業パーティでの断罪」
「アリシア・フォスター! 貴様との婚約を破棄する!」
王太子のスタン様が壇上からそう叫んだ。
スタン殿下の腕には、胸元が大きく開いた派手なドレスを身につけた男爵令嬢がくっついている。
スタン殿下の後ろには側近が三人。騎士団長の息子のジェイ・ヨッフムと、宰相の息子のカスパー・ラウと、私の義弟でいとこのルーウィー・ホルンがいた。
五人は蔑んだ表情を浮かべ、私を睨んでいる。
「貴様はここにいるゲレ・ベルガー男爵令嬢をいじめた! よって身分を剥奪し死罪にする!」
意味が分からない。公爵令嬢が男爵令嬢(しかも孤児院出身の庶子)をいじめたからなんだというのだ。
そもそも私は男爵令嬢をいじめていない。
「婚約者のいる男性に馴れ馴れしくするな」「下位の貴族から高位の貴族に話しかけるな」「許可していないのに、馴れ馴れしく名前で呼ぶな」と注意しただけだ。
王太子に公爵令嬢を断罪する権利も、身分を剥奪する権利も、死罪にする権利も与えられていない。
それが許されているのは国王陛下だけだ。
「あたし、アリシア様にノートや本を破られたり、髪を切られたり、噴水に突き落とされたりしました。硫酸をかけられそうになったこともあります」
男爵令嬢が顔を覆い泣く真似をした。
「お義姉様の部屋から、犯行に使われた硫酸の瓶やハサミが出てきたよ」
義弟のルーウィーが得意げに空の瓶やハサミを見せる。
「公爵令嬢がゲレをいじめているのを見た者がいます」
宰相の息子がドヤ顔でメガネをぐいっと上げた。
やってもいないことの証拠があって、証人がいる?
はめられた。こいつら私に冤罪をかけ殺すつもりだ。
「恐れながら殿下、私は……」
「ジェイ許す! そいつを斬れ!」
「かしこまりました」
騎士団長の息子が剣を抜く。
「死ね! ゲレをいじめた悪女め!」
私は言い訳する時間すら与えられず、騎士団長の息子に斬られ、絶命した。
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