家族旅行の果てに 【月夜譚No.173】
まさか豪華客船の旅が当たるとは思わなかった。
偶々買い物をした店で福引きの券を貰い、気紛れに引いてみるかという軽い気持ちだったのだ。ハズレてもポケットティッシュが貰えるし、運が良ければ菓子の一つでも食べられるだろうと。
青い空をバックに白が映える客船を仰いだ青年は、思わず溜め息を吐き出した。これからそこに自分が乗るだなんて、ここまで来ておいて信じられない心持ちだ。
しかしながら、数年振りの家族旅行の良いきっかけになった。両親は喜んでくれたし、三つ下の妹も初めての豪華客船にはしゃいでいる。妹とは絶賛喧嘩中なのだが、この旅の間に和解できればと密かに思っていた。
客室はそれほど上のものではないが、こんな船に乗れるのならば、そんなことは気にならない。出される食事も催されるイベントも盛り沢山で、毎日飽きることはなさそうだ。
軽い足取りでステップを踏み、乗船する。日常も仕事も忘れて、思い切り羽を伸ばそう。
船は出航した。
この先の運命を知らぬ乗客達を乗せて――。