第27話 雪原
バサッバサッバサッ!
「ふぅー……つ、疲れた……」
「お疲れ様ノーちゃん。雪の中でしっかり飛ぶの疲れたでしょ?」
「疲れた。でも、本題はここからだから」
「そうだね。気を引き締めないと」
一片触れば凍えてしまう冷たさの雪が空からひらひらと舞い散る中、翼を羽ばたかせ対岸へとたどり着いた二人は青い雪が降り積る青く冷たい雪原へと降り立っていた。
「にしても、絶対に渡る事が無いと思ってた対岸に来れる日が来るなんてなぁ……本当に青い雪原が広がってるなんて」
「だね。でも雪の色が違うからか寒さも段違いだ、村長も言ってたけれど長居はするべき場所じゃない。早く目標の場所を見つけよう」
ノートゥーンは感激してる様子のルシィーナにそう言うと翼にもふもふの毛を生やし、その翼で自分とルシィーナを覆い暖を取る。
そう、二人がこの地に来たのは子守唄の一節にある「青雪降る白雪原」を見つける為であり、二人は村長からその「白雪原」へと至るヒントを貰っているのだ。
「一応村長に言われた通り「村から北へと真っ直ぐ向かい、最も尖って飛び出た氷から対岸へと渡れ」って事でノーちゃんには渡って貰ったけれど、どう?」
「……うっすらだけど、うん。確かにこの氷晶大峡谷を超えてから竜の力を感じるよ」
「方向とかは分かる?」
「んー……ダメ、わかんない。気配が薄すぎる。これは遠すぎると言うよりは……弱ってる?」
「弱ってる?竜って弱るの?」
「いや。竜は悠久の時を生きる生き物だから、他の生き物とか災害に害されない限り死ぬ事も弱る事も無いはず」
「なるほどね。って事はやっぱり村長の言葉しかヒントは無い訳か」
「そうなるね、とりあえずは方角は見失わずにこのまま真っ直ぐって感じか──────」
ドォォオオン!
「なっ!」
真っ直ぐ歩みを進めながら確かに感じた竜の気配についてルシィーナと語っていたノートゥーンは上空に気配を感じ、翼でルシィーナを抱えて後ろへと飛び退り、落ちてきた物を回避する。
「一体何が……ノーちゃん大丈夫?」
「僕は大丈夫。だけどこれは……氷塊?なんでこんなものが……」
「ね、ねぇ、ノーちゃん。その氷……なんか、動いてない?」
「何言ってるのシィー?氷が動く訳──────」
『GEEEEEEEEEEEEE!』
「へ?」
ガァン!
「ノーちゃんっ!」
近くに寄って氷塊を見ていたノートゥーンがルシィーナにそう言われ、ルシィーナの方へ振り返った後に顔を戻したノートゥーンの左右から、氷塊から伸びた腕が襲いかかる。
しかし──────
「びっくりしたなぁもう!」
ノートゥーンは太い爬虫類の様な腕に変化させた両腕を左右に広げ、ノートゥーンを潰そうとした氷の両腕を受け止めていた。
「シィー!」
「分かった!石槍陣!」
「砕けとけ!この氷人形モドキ!」
ガガガガガとルシィーナの放った石の槍が氷塊の腕を砕き、仰け反った氷塊へと自由になったノートゥーンが更に巨大化させた腕を硬質化させ、一撃で氷塊を砕く。
「ノーちゃん大丈夫!?怪我はない?!」
「大丈夫、大丈夫だから。方角は見失ってない?」
「それは大丈夫!ちゃんと把握してるし、コンパスも壊れてないよ」
「ならよかった。にしても、この魔物はなんだったんだろう?」
「うーん……私も魔物かと思ったけど、全身氷出できてるみたいだし……もしかして意志を持つ物?」
「エレメンタル……って、あの聖域とか霊山みたいなパワースポットに居るっていう伝説上のあの?」
「断言は出来ないけどその可能性は高いと思う。魔物も一応体は血肉で出来てる生き物だし。でもこの子の体は氷で出来てる、つまるとこ生き物ですらない」
「なるほどねぇ……」
ノートゥーンの一撃により砕かれた先程まで動いていた氷塊を調べ、ルシィーナがこの敵が何者なのかをある程度考察し終えた時、二人の後ろへと何かが落ちてきた時の様な音がする。
その音を聞いた二人がまさかといった表情で振り向くと、そこにはさっき相手にした様な氷塊が幾つも鎮座しており──────
「えーっと……ノーちゃん?これはぁ……」
「……逃げる!」
「だよねぇー!」
それを見た二人は氷塊にすぐさま背を向け、全力でコンパスの指し示す方向へと走り始める。
「んぬぁー!しつこいなこいつら!もう10分くらい追いかけられてるんだけど!」
「ノ、ノーちゃぁーん!」
流石にもうシィーの体力も尽きる。敵が居るのに大きい隙は晒したくないけど……
「ひぃ……ひぃ……ぴぃ……!」
仕方ない!
「シィー!もうちょっと頑張って!」
「えぇっ?!も、もう無理だよぉ!」
「もう少しだけだから!頑張って!」
「わ、分かったぁー!」
よし!それじゃあ──────
「先ずは前に出るっ!」
ルシィーナに喝を入れたノートゥーンはそう言うと地面を大きく蹴り勢い良く前へと出る。
そして氷塊達からある程度距離を取り、体を流線型の早く走れる姿に、スリップしない様爪を鋭く尖らせ、ルシィーナが暖まれるようもふもふになる。
そして丁度そのタイミングで──────
「ひゅっ、はひゅっ!ノ、ノーちゃっ!」
『頑張った!偉いよシィー!後は任せて』
横をヘロヘロになりながら通りがかったルシィーナの首根っこを咥え放り投げて背中に乗せると、今までの比ではない速さで雪原を駆け、そして。
「見えた!白い雪原!」
『方角は?!』
「北東に30度!でもノーちゃん、竜は何処にも──────」
『場所なら分かってる!だからシィー、しっかり捕まっててよねっ!』
あれから更に早く走っているのにも関わらず、更に増えた氷塊に追われながら青い雪原の中に空いた穴のように白い雪原へとたどり着いたノートゥーンは、そう言って大きくジャンプすると爪へと青黒いオーラを纏わせ──────
「分解よ!僕の力になれ!」
それを白い雪原へと叩きつけ、溶けた雪から生まれた大量の水が分解された事で爆風が発生し、周りの厚く積もった雪が吹き飛ばされ顕になった雪の下の氷へとヒビを入れる。
そして薄く光が漏れ出るヒビへとノートゥーンは爪を拳に変化させ叩きつけ、光溢れる氷の下へとルシィーナを背に乗せてルシィーナは飛びこむのだった。




