おめでとうの日
その日は、珍しく娘夫婦も息子夫婦も、私のところへと帰ってきていた。
寝たきりで動けない私のために、大好きなお酒まで持参して、口々に『おめでとう』と祝ってくれる。
「お母さん、おめでとう!」
「おめでとうございます」
「ばー、おめ、とー」
「でとーっ」
娘とその伴侶の男性、それからまだまだ幼い男の子の孫二人。
「母さん、おめでとう」
「おめでとうございます。お義母さん」
まだ子供は居ないものの、仲の良い息子夫婦。
口々に告げられる祝いの言葉に、私は久々に動かしたような気がする口で、『ありがとう』と告げた。
「お母さん、お母さんが大好きなお酒も用意したのよ? さぁ、乾杯しましょう!」
「あぁ、それが良いな」
「かんぱー?」
「ぱーっ!」
グラスにコポコポと音を立てて注がれる琥珀色のそれは、私が大好きなウイスキー。年を取ってから、めっきり飲まなくなったものの昔からこれが好きで好きでたまらない。
ベッドのサイドテーブルに置かれたそれに私は思わず喉を鳴らす。
「さぁ、遠慮せずにどうぞ!」
娘がニコニコとお酒を勧めてくる。
「俺が支えてやるから、ゆっくり飲むといい」
随分と逞しく育った息子が気遣ってくれる。
「ばー!」
「ばー!」
孫達は、私のことを嬉しそうに呼んでくれる。
『あぁ、今日はとっても、幸せな日ねぇ』
大切な家族に囲まれて祝われるのは、とても、とても幸せだった。そうして、助けを借りながらも一口、苦味のあるそれを飲めば、ふと、疑問が出てくる。
『ところで今日は、何のお祝いだったのかしら?』
とある病院にて。
「ねぇ、あのおばあさんの噂、知ってる?」
「知ってる知ってる。昔、飲酒運転をして、人を轢き殺しちゃったのよね」
「そうそう、それで、ここからが怖いんだけど、その翌年、あのおばあさんの家族は全員死んだんだって」
「えっ? ……それって……」
「報復じゃないかって話もあるんだけど、まだ警察は何も掴めてないし、それ以上に、おばあさんもその日以来、完全にボケ始めちゃって……」
「えー、何それっ、怖っ!」
「こらっ、無駄話しないっ」
「「はーいっ」」
その日の夜、とある病院にて、一人の老婆の死亡が確認された。その表情は、苦悶に満ちた壮絶な表情であり、看護師達も思わず悲鳴をあげるほどだったとか……。
彼女が、一体、ダレに、ナニを祝われていたのかは、誰も知らない。
「おめでとう」
「おめでとう!」
「おめでとうございます」
「おめ、とー」
「でとー」
「おめでとう」
「おめデとウ」
「オめデトう」
「オメデトウ……」
……………………。
さて、一体何が『おめでたかった』んでしょうねぇ?
いやぁな後味を残しながら、とりあえず終了!
それでは、また、どこかの作品でお会いできたら嬉しいです。