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人格形成は環境のせいで96

こんばんは。

本日でこのシリーズ、締めることになります。

12月末日に向けて、ここに投稿しない小説を執筆する予定をしています。


気分転換に、またここに投稿するかもしれません。

応援、感想、ブクマ、評価お待ちしています。

それをエネルギーに変えて、また物語を続けます。


応援よろしくお願いします。

        ※


 逃げられないように彼女を腕の中に抱き寄せたまま、離れている間に起こった全ての出来事について受け入れようと、私は神妙になっていた。

 彼女はサナレスを選んだ。自分の行いにより彼女がそうした行動に出ても、責める要素など何処にもなく、ただ受け入れよう、ーーそして捨てられたとしても、愛する人のために何か役立てることはないのか? 

 それだけの事実がそこにあり、把握した私がたった今アセスの肉体に戻ってきただけの立ち位置だ。それなのに、こうして会えて彼女に触れられたことだけで私は満足している。そしてアセスの生に戻ってきた理由全てに回答できると思った。


 腕の中にいるリンフィーナは、私の生還を心から喜んでくれいている。それは彼女の態度から伝わってきた。

 それで満足。ただ彼女の意思ははっきりしており、紡ぐ言葉は残酷だった。


「アセスと別れて私、兄様を選んだ。ううん、アセス。私はずっと小さい時から兄様を選んで、兄様ーーサナレスがいなければ……耐えられない。サナレス兄様をずっと、ずっとお慕いしている」

 報われるかどうかわからないままやっとこの気持ちを兄様に伝えたのだと、彼女は言った。


 完全にノックアウトを食らうほどの衝撃を受けてはいるが、幸か不幸か私は自分の感情を表面に出すことについてどんでもなく不器用だった。

「そう。ーーそれでサナレスは?」

 冥府の悪夢の先に見せられてしまったリンフィーナがサナレスを求める姿は真実で、私には目に痛い話で、確認することですら辛い。

 けれど私は感情を閉ざしたまま、彼女の意思に耳を傾けた。


「兄様は受け入れてくれた。ーーと思う。大事だって夜毎抱いてくれる」

 言葉の重みに、私は青ざめて震える。

 こんな時感情表現が上手ければ、感情にまかしてリンフィーナを抱き寄せた。けれど私は、元々青ざめた顔をわずかだけ血の気をひかせて、震えていることなど彼女に見せてはいけないと、帝王学を学んで弱みを見せずにいる姿勢が身に付いていて幾久しい。

 彼女に触れる手の重力を宙に少し浮かした状態で、私はまんじりともせず彼女の気持ちを聞いていた。


「私、兄様と結婚したの」

 リンフィーナは瞳に涙を潤ませた眼で私を見て、少し申し訳なさそうにしていた。

 だがしかし婚約者である私に告げる通告であるかのように、彼女はしっかりと主張している。


「そうーー」

 私はなんとも言えない心のざわめきを表面に出すことすら出来ずに、しばらく吐息をついて黙っていた。けれど、唯一自分の真実が彼女のそばにあった。

 冥府で飛び散り、五等分にされた私の魂の一つに、私は今出会っていた。


 こんなところに居たのか。

 私は自分の魂の一部に救いを見た。

 唇の端を上げ、ふっと笑えてくるのは、自分の信念がブレていないことを確認したからだ。

 

 意外だと思わず、やはりなと納得せずには居られなかった。

 散らばった魂の一つは、心のまま側にいたい人のところに引き寄せられた。だから不思議なことにリンフィーナの感情のそのままを感じたし、私が居ない間、サナレスが彼女にどんなふうに接したのかも痛いほど理解した。彼女に触れたその瞬間、三者三様の気持ちを風が吹くように私の魂に伝えてきたのだ。


 私の気持ちは明らかだ。彼女が私に対してどう思っているのかなど問題視することはない。私は彼女が居なければ成り立たない存在で、彼女の生に自分の生きる意味を重ねて、依存しているのだ。

 私の存在意味がそこにあった。


 対してサナレスは。

 深い。

 もっと深い。

 サナレスがリンフィーナに向ける愛情の深さには太刀打ちならない。


 リンフィーナの側に私の魂の欠片があったから、彼女に触れた瞬間に全てを理解して、敗北感に打ちひしがれた。

 彼女に向ける愛情の質の違いを知って、嫉妬する余裕すらなく、感じ入るものがある。

 ーー深くて、温かい。そこにサナレスのエゴというものは皆無で、リンフィーナへの愛情だけがある。


「アセス、なぜ泣いているの? どこか痛い? どうかしたの?」

 リンフィーナの側にくっついて、サナレスから得た愛情を彼女と同化して感じた時、私は目頭が熱くなり、表せない気持ちを目元から落ちる涙として全てを溢れ出していた。

 幼い頃に初めて彼女と星光の神殿で出会った、無力だった時の自分に戻ったようだ。

 ただ涙を流すばかり。


 月並みな疑問。

 恋と愛は、どう違う?


 焦がれたり、独り占めしたいと思ったり、この人がいないと明日を迎えられないと依存するのは恋。

 私はリンフィーナに恋焦がれて、彼女を独占したかった。


 けれどサナレスがリンフィーナを思う感情は、私の低レベルな次元のそれとは違う。


 ただ相手に幸せになって欲しい。


 ドキドキしたり、駆け引きしたり、異性に対して思う感情の範囲には収まらず、なぜか私は悠美を思い出した。

 正しくは悠美ではなく、悠美が毎日、飲んだくれながらも食卓に置いてくれた、あの簡素なプラスチックのトレイに入った貧しい食事。それを思い出していた。


 食べようが食べまいが自由。愛情を与えても、それに感謝されなくても平気。与える愛情の対象は、いつかは自分を疎んじるし、離れていってもそれでいい。悠美はきっとわかっていた。


 今を支えるーー!


 悠美は先の彼女自身の幸せなど考えていなかった。

 サナレスは、リンフィーナとの未来なんてとっくの昔に諦めて、それなのに彼女のためだけに存在し続けた。


「アセス? お医者様を呼ぶ? ねぇ、何処か痛い?」

 狼狽えるリンフィーナの前で、私は自分の5つ目の魂を回収して、涙を流し続けていた。


 完全に敗北している。

 今は。

 私はおずおずと彼女を引き寄せて、彼女の肩に額を置いた。


 正々堂々と勝負しましょう。

 何度となく私がサナレスに言ってきた言葉だったが、彼はいつも私に容赦してくる。こうして私がリンフィーナを望めば、二人だけの時間を与えようとする。


 正々堂々と彼と勝負できる人間にならなければならない。

 早く。

 私はリンフィーナの肩に項垂れたまま、自らの非力さを歯痒く思った。


 今を支える。

 大切な人と今という時間をどう過ごすべきか。


 冥府に行って転生したからこそ、わかる私になった。

 私は呟く。


「母さん、ありがとう』

 その言葉は悠美に、そしてマリアという二人の母から独立する宣言だった。

 

偽りの神々シリーズ紹介

「自己肯定感を得るために、呪術を勉強し始めました。」記憶の舞姫

「破れた夢の先は、三角関係から始めます。」星廻りの夢

「封じられた魂」前・「契約の代償」後

「炎上舞台」

「ラーディオヌの秘宝」

「魔女裁判後の日常」

「異世界の秘めごとは日常から始まりました」

「冥府への道を決意するには、それなりに世間知らずでした」

シリーズの8作目になります。


 異世界転生ストーリー

「オタクの青春は異世界転生」1

「オタク、異世界転生で家を建てるほど下剋上できるのか?(オタクの青春は異世界転生2)」


 異世界未来ストーリー

「十G都市」ーレシピが全てー

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