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人格形成は環境のせいで84

本日、日記の続き。

金曜日ですからね、書いていきましょう。

お付き合いいただき、ありがとうございます。

         ※


「アセス、アセス、アセス!」

 心の中で忘れられなくなった人のことばかりを思い出す。

 まだ命があると言われて信じていたくても、死人のように横たわる彼を目のして、通常の精神状態ではいられない。


 もしアセスが戻らなかったら、そう思うとリンフィーナは生きた心地がしなかった。


 サナレス兄様が一番大切。

 兄様は自分の全てで、アセスという人に出会うまでは兄の存在は唯一で、全知全能の相手ーーつまり神そのものだった。


 兄に代わる相手などいない。サナレスだけが生涯そばに居てくれるなら、他に望む相手などなどない、完璧な日常だったのだ。

 それなのになぜか心が騒いで、消せない存在の生存確認で一期一憂してしまう。


 リンフィーナは机の上に何度も頭を打ちつける。

 痛い。

 冷静になりたいけれど、感情の起伏をコントロールすることが苦手で、せめて痛みでぐるぐる回る思考に冷や水を浴びせようとした。


 今夜も魔法の水の手を借りて、眠ってしまおうと企む。


 焦がれた兄サナレスは、常用的に葡萄酒というアルコールを口にしていたので、リンフィーナはその魅惑的な飲料に手を伸ばしたかった。


「飲み過ぎだよ」

 不安な気持ちを紛らそうと、忙しくおかわりを丸くて掌におさまるグラスに注いでいると、サナレスに声をかけられた。


「何杯目なの?」

 優しい口調だが、サナレスが自分の行動を戒めてくるときには、それで終わりを意味している。確かに最近の自分は飲酒が過ぎている。

 対して晩酌を常としていたサナレスは、いつからか飲まなくなっていた。

 そっと葡萄酒の瓶を取り上げられて、リンフィーナは慌てて腕を伸ばした。未練がましく酒瓶を追って腕をジタバタさせてみるが、虚しく引力に従って手を下ろす。


「だって! 今日で10日になるでしょ……」

「心配なのはわかるけれど、それとこれは別。過ぎると身体によくない」

「どうして兄様は飲まないの?」

 サナレスは戸棚に果実酒をしまってしまい、こちらを振り返る。

 らしくもなく苦笑して、「気が気じゃないよな?」と核心をついてきた。


「もしさ、あいつが戻らなければ、私たちの時間も止まったままか?」

「止まったままじゃない! 兄様と私は結婚した。私は兄様しか見ない! ーーアセスのことは……、元婚約者だから、……少し気になっているだけだし……」

 ほう、とサナレスは試すようにこちらを見た。こんな表情をする兄に叶うわけはないけれど、リンフィーナは視線を逸らせて、グラスに残っていた酒を煽る。


 アセスは自分との婚約を解消し、ラーディアの別の姫を娶ろうとした。

 それほど自分は彼にとってどうでもよくて、サナレスから頼まれて優しいアセスは断れず、自分の守り手を引き受けた。

「自分の不運に巻き込んでしまったアセスの行く末を気にしないわけにがないもの。それにーー」


 兄と自分は体の関係もある。

 アセスとの関係はそこで断ち消えたのだ。

「ただ私は、これから先いっさい関わらない関係だったとしても、アセスには生きててほしい! それだけだし……。私はもう、ずっと前から兄様を選んでる!」

 そう、とサナレスがさらに悪戯っぽい表情で口の端を上げる。


「選んでいただいて光栄だよ。ーーでもリンフィーナ、私もアセスに会いたいよ」

「結婚の報告をしないとね。こんなふうにラーディア一族が閉ざされて、世間的には兄妹だということになっているけれど、アセスにはちゃんと説明しないと! 一線を超えた二人の関係を説明して、そしてラーディアとラーディオヌ一族を再び兄弟氏族として国交を結ぶ」

 意気込みを言葉にしていると、サナレスはぷっと吹き出してしまった。


「また、馬鹿にして兄様! 私もう、寝るときは兄様がいないと、もう子供の頃みたいに我慢できないし。毎日一緒に眠りたいし、目覚めた時も一緒にいて抱きしめて欲しい」

 体温を感じたい。生きていると実感したい。

「そうじゃなきゃ眠れない」


 サナレスは自分を引き寄せて抱きしめた。

「本当にとんだ誘惑をしてくる姫君だな」

 いつものように抱いてくれる安心感と、酒に酔った感覚でふわふわとしていた。


 でも今日で10日目なんだ。

 アセスのことが気にかかり、だからサナレスが吐息のように呟いた言葉を聞き逃した。

「でも、とても幼いよな」

 そんなことを言われた記憶は、夢の中に消えていった。


 サナレスの腕の中にいながら、自分は懸命にアセスを探していた。



 

偽りの神々シリーズ紹介

「自己肯定感を得るために、呪術を勉強し始めました。」記憶の舞姫

「破れた夢の先は、三角関係から始めます。」星廻りの夢

「封じられた魂」前・「契約の代償」後

「炎上舞台」

「ラーディオヌの秘宝」

「魔女裁判後の日常」

「異世界の秘めごとは日常から始まりました」

「冥府への道を決意するには、それなりに世間知らずでした」

シリーズの8作目になります。


 異世界転生ストーリー

「オタクの青春は異世界転生」1

「オタク、異世界転生で家を建てるほど下剋上できるのか?(オタクの青春は異世界転生2)」


 異世界未来ストーリー

「十G都市」ーレシピが全てー

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