人格形成は日常のせいで80
こんばんは。
昨年のお盆ぐらいから、日記のように書いています。
週3回以上更新しています。
ちょっと今暗いんですが、評価、反応いただけると、ガソリンになります。
お付き合いよろしくお願いします。
※
「私は戻らない」
「一緒に戻ろう、こんな恐ろしいところに居てもいいことはないよ」
ひたすら推し問答を続ける時間だけが過ぎ、深山から伸びる現世への道が細くなり閉ざされていく。
木杉や蓮は一生懸命とりかえばやされた生徒たちを、唯一異世界に伸びる光の糸に誘導していた。短い間一緒にいたクラスメイト達はこの騒動の中、本当に一本の光の糸に群がるようにしながら、天に登って行こうとしていた。
20名程度の学生と教師がそこに連なり、教師は役割故なのか一番下にいて生徒達を先に登らせようとしていた。この世界で正気を保ち、そういった行いができる立派さに、私は内心拍手する。
「母さん」
私は改めて母に向き直った。
「ごめん。私は貴方の子供として生まれた時から、貴方以上に大切な人がいたんだ」
到底受け入れてもらえる話とも思えなかったが、今生の最後に嘘はつけないと思っていた。
「私はもともと、異世界での記憶を持って生まれ変わって、だから母さんとの、ーー家族との間に距離をとってきた」
「馬鹿なことを! そういうの統合失調症って言うんだから、やっぱりお前病院に行かないと!」
悠美は顔色を変えてすがってきた。
「そうだよね」
私は彼女の握り締めてくる手をしっかりと握り返し、説得するように彼女の瞳を見つめ続けた。
目に宿る気持ちには、誰も嘘をつけない。
心は眼差しから溢れ出すから、よほど器用に自分自身を騙さない限り、嘘はつけない体の部位で、私は初めて悠美に語りかけた。
「母さん、僕らがいた世界でこの話をしていたら、信じてもらえなかったと思う。でもここは冥府、ーー地獄で日常と違う。この地獄でも、私が言うことを信じられない?」
時間がないんだ。
私は反り返って天を仰ぐ深山みゆきの方を指さした。
「あれが唯一、私たちがいた世界への扉をに続く道なんだ」
若返った悠美は、私と同じように肩を並べて深山が指す一筋の光に目を向けた。
だが彼女の手は私の手を握ったままで、その場から1ミリも動こうとしなかった。
「私が間違ってた? 私父さんと別れてもいいよ。お前達が、笑って帰ってこられる家庭にしたいし、私が家庭を守れる人になれば帰ってきてくれる?」
私は首を横に振った。
「ごめん母さん。どんなに仲が悪くてもさ、両親が離婚するなんて子供は望まない。そのことを言われたり感じたりすると、辛い。真由はたぶん、その不安定な環境が一番辛かった」
真由から感じていた感情を代弁した。私はアセスとして19歳を迎えようとする年齢の記憶があって、悠美と亘の歪みがある家庭環境を冷静に分析し続けた。私のせいで壊れた部分も幾分あったと、申し訳なくさえ思っている。
「母さん、ごめん。母さんにここに残ってほしくない」
自分の姿さえ保てない、心が弱った母に、冥府は過酷すぎる。元に戻る世界への入り口が閉じて仕舞えば、彼女は一生魑魅魍魎として地獄を漂うことになる。
「お前をおいてなんて!」
「聞いて! よく聞いて母さん」
再び身体中から叫び声を上げるように苦しみ始める母を、私はその胸に抱き締めた。
「ーーよく聞いて」
荒ぶる獣のように暴れる亡者に変わり果てようとしている母に、生まれて初めて自分から接触する。彼女は私の腕の中で最初暴れようとしていたが、やがて大人しくなり、諦めたように俯いた。
「話そう、母さん」
前の記憶に残るマリアとはできなかったことを、私は悠美と試みていた。ちゃんと話せずに反発し、勢いでマリアを殺してしまった母殺しという大罪を、2度と繰り返したくはない。
気持ちの昂りのまま彼女を抱き締め、腕の中にいる小さな存在を直視する。
「私は、貴方の子供に生まれて成長した」
話す言葉に嘘を混ぜなかった。
マリアとの距離は近すぎて遠く、そして私が幼すぎて理解できずにいた部分が多かったが、悠美が抱えてきた問題は全て理解でき、受け取ってきた。彼女からの確かな愛情。
夫婦関係への葛藤や悩み、子育てに対する迷いなど、19歳のアセスとして記憶を持つ私が感じてきたものは悠希の成長年齢で受け取れるものではなかったのかもしれないが、今ならわかるのだ。家庭という中で生まれる、愛情にまつわる様々な感情とそれに反する憎悪、束縛、エゴ。そんな全てに今、向かい合うために、私は深く息を吸い込んだ。
偽りの神々シリーズ紹介
「自己肯定感を得るために、呪術を勉強し始めました。」記憶の舞姫
「破れた夢の先は、三角関係から始めます。」星廻りの夢
「封じられた魂」前・「契約の代償」後
「炎上舞台」
「ラーディオヌの秘宝」
「魔女裁判後の日常」
「異世界の秘めごとは日常から始まりました」
「冥府への道を決意するには、それなりに世間知らずでした」
シリーズの8作目になります。
異世界転生ストーリー
「オタクの青春は異世界転生」1
「オタク、異世界転生で家を建てるほど下剋上できるのか?(オタクの青春は異世界転生2)」
異世界未来ストーリー
「十G都市」ーレシピが全てー




