人格形成は環境のせいで79
こんばんは。
いつも日記のように、ほちほち更新している物語にお付き合いいただき、ありがとうございます。
アセスがこの小説では悠美が出てくると暗いです。
書いている方もバイオリズム下げられます。
くらいのお好みの方は、シリーズ「ラーディオヌの秘宝」を読んでいただければ、より沈めます。
何卒よろしくお願いします。
※
姿形は変わっても、悠美は自分が主張していることを理解しているようだった。
「でもおまえ……、こんなところに一人残していけるわけないでしょ?」
私が戻ることを拒否すると、彼女は白骨化した頭部から頭皮毎抜け落ちる髪をかきむしって、首を傾げている。
少しふくよかで、ふわりとした豊かな髪が抜け落ちる様に、私は眉根を寄せた。彼女はなぜこんなところまで来て、女の人なのに自分の容姿を顧みずに私を見つめてくるのだろう
「どうして悠希、こんな地獄のようなところに留まりたいの? ここに、もしかして真由がいるの……?」
期待を込めて眼球だけがぐりぐりと動くようになった肉片が溶けてしまった悠美は、私の戸惑った態度から違うことを思いついたようで、彼女が次に大切にしている真由の存在を探してアンテナを張っている。
千切れそうになる肉が薄くなって首の骨が見える状態で、彼女は対象に想いを寄せて四方八方を探し始めた。
悠美は、未だ真由のことを諦めきれていない。
「真由は居ない。こんなところに居てくれたら、逆に困りますよ」
私も貴方も心配で仕方ないでしょう?
私は哀れな姿になっている彼女に対して、もう何の感慨も抱かず、ただあの閉鎖された空間である家の中にいる悠美に話しかけるように接していた。
無理矢理にでも私を連れ戻そうとしていた悠美の手の力が少しだけ弱くなるのを感じていて、私は白骨化した彼女の手をとった。
私はその場にひざまづいて、ずっと聞けなかったことを口にする。
「母さんさ、どうして亘と結婚したの?」
現実社会から考えるに亘はかなり優秀だったが、社会性がなく家庭的に不向きな男だった。母の実家は財閥で、おそらくは進む道をそのまま行けば令嬢としてもっと違う人生があったはずなのだ。科学者として有望ではあっても亘のような変異種を選ぶには、私にとって情報不足だ。
「反対されたわよ。お見合い結婚だっけどね。父さんは変人だったし、うちの実家の父は反対したけど、私はその時周りにあまりにも不誠実な人が群がってきて、変人でもシンプルでいいって思ったの」
「シンプル? それだけ?」
あっけに取られて冥府だということも忘れ、私はリビングにいて飲んだくれる悠美の姿をそこに見ていた。
「だって多少変だったとしても、ねぇ。親のしがらみとかそんなの別にして、好きになるかどうかでしょ?」
はっきりと悠美は言った。
悠美には言えないが、ここまで不仲で干渉しない夫婦関係を見せられたこちらとしては、見合い結婚だと聞いていて納得し、父亘への思いなど聞くに足らないものだと勝手に思ってしまっていた。
「悠希に言ってなかったかしら? 私も親に反抗する時期があって、親が設定したレールなんて絶対歩んでやるものかって思っていたのよ。ーーああ、真由。私はもっと自分の経験を思い出して、真由の立場になって考えてやるべきだった」
白骨化した手指を胸に抱き寄せ、腰をかがめて震えている母悠美について、私は初めて彼女の本当の姿の様子伺いをすることになっている。
よく見ると悠美は、私の親であった年齢ではなかった。白骨化し、肉片が削げ落ちていて髪も半分くらいしかないけれど、なぜかまだ若い姿だ。
母さんーー?
違和感に気がついてはいたけれど、母である悠美に触れることに抵抗感があって、その気分の悪さを払拭できずに、私は自分が進む未来にばかり目を向けていた。
「ごめん母さん、子供ってさ親がどうして今、自分たちの親になっているのかなんて考えもしないんだよ」
素直に謝ると悠美は驚いた顔に表情を変え、やがて「そうでしょうね」と納得した。
「私もそう。お前達を授かって、親が築いた家庭を作ってうまくいかなくて、やっと自分の親のことを冷静に振り返ることができた。そうだよね、今のお前達には無理だと思う」
体形は化け物になっていたのに、悠美は非常に冷静に気持ちを伝えてきた。
「ごめん、初めて反抗してしまうけど、私は母さんや父さんの人生に、今興味を持ったばかりだけど、ーーもう戻らない」
ふくよかだった悠美の姿を完全に消し去るように、顎骨化した冥府の亡者は、私の言葉を必死で理解しようとしているようだ。時折納得できないのか、左右に首部を振って、私の腕を握る力を強めてくる。
このまま永遠に彼女の手に掴まれたまま、私は自分自身の意思を奪われていくのではないかと悲観して、少女のような母のことを気持ち悪く思う。
どこまでつきまとう?
ただお前の腹を借りて、私としては望まない命として排出された。
家庭というもに夢を見て、家族団欒という絵空事を演じるために私はこの世に来てしまったのではない。
冥府が扉を閉ざす終焉が目前に迫っていた。けれど悠美は自らが冥府の亡者の姿に変わり果てようとしているのに、私の腕を掴んで離そうとしない。
「悠希、あなたが心配なの」
一緒に帰ろう。築いてきた家族がいる安全基地に、一緒に帰ろう。目玉が落ちそうな彼女の瞳が、忙しく震えていた。
偽りの神々シリーズ紹介
「自己肯定感を得るために、呪術を勉強し始めました。」記憶の舞姫
「破れた夢の先は、三角関係から始めます。」星廻りの夢
「封じられた魂」前・「契約の代償」後
「炎上舞台」
「ラーディオヌの秘宝」
「魔女裁判後の日常」
「異世界の秘めごとは日常から始まりました」
「冥府への道を決意するには、それなりに世間知らずでした」
シリーズの8作目になります。
異世界転生ストーリー
「オタクの青春は異世界転生」1
「オタク、異世界転生で家を建てるほど下剋上できるのか?(オタクの青春は異世界転生2)」
異世界未来ストーリー
「十G都市」ーレシピが全てー




