人格形成は環境のせいで75
偽りの神々シリーズ紹介
「自己肯定感を得るために、呪術を勉強し始めました。」記憶の舞姫
「破れた夢の先は、三角関係から始めます。」星廻りの夢
「封じられた魂」前・「契約の代償」後
「炎上舞台」
「ラーディオヌの秘宝」
「魔女裁判後の日常」
「異世界の秘めごとは日常から始まりました」
「冥府への道を決意するには、それなりに世間知らずでした」
シリーズの8作目になります。
異世界転生ストーリー
「オタクの青春は異世界転生」1
「オタク、異世界転生で家を建てるほど下剋上できるのか?(オタクの青春は異世界転生2)」
異世界未来ストーリー
「十G都市」ーレシピが全てー
※
悠美は無知が故の暴力というものを纏う女人だった。
悠希として産み落としてくれた、紛れもない母だったので、私は悠美をがこんな冥府にまで私の気配を追ってきたことを無視できないでいる。
「悠希!」
深山の片目から繋がれる細い糸をたどり、私の所在を確かめようと冥府まで来てしまう彼女は、私にとっては畏怖する存在として認識されている。
私はアセス・アルス・ラーディオヌ。それを核として時空を是正しようとしている私にとっては、悠希としての人生は今更蓋をすべきものだった。けれどまとわりつくしがらみは想像以上にしつこい。
「悠希!」
また悠美に名を呼ばれて、決意したはずの私の感情が引きずられるように明け透けになる。
「もういいから。お前が私をどう思っていてもいいから、家族として側にいてちょうだい」
家族というのは一族の血縁というだけの厄介なものですよね?
私は父とまともに意見を交換することなく一族の統治者として望まれ、ーー祭り上げられたのだ。
ただ側にいる、それだけの関係にアセスとして価値を見出すことはできなかった。
今必要としている存在は、単にサナレスとリンフィーナ、彼ら兄妹が必要とする意思のカケラでもいい。
アルス大陸のラーディア一族の王族である、サナレスと彼の妹リンフィーナの気配をたどる。アルス大陸ラーディオヌ一族総帥として望まれた過去は単なる飾りものでしかなく、私にとって彼ら二人の兄妹に望まれてやっと、生きる意味を知った。
悠希として生きた16年と少しの時間は、不慮の事故でしかない。
それ以前の記憶が鮮明で、私はその記憶だけを聖域で守るようにしながら別人生を受け入れたのだ。
私はアセス・アルス・ラーディオヌ。
生まれて初めて望まれたのはラーディオヌ一族の総帥を継ぐということ。
二番目に望まれたのは、一族の太母である母の意のままに生きるという地獄だった。
リンフィーナに出会い、サナレスから望まれたころ私は一族の全てに絶望していた。そんな私に初めて希望を与えてくれたリンフィーナという少女を伴侶として護って欲しいということで、新たに感情を動かされ、驚きはしたが与えられた使命感に充足した。
冥府から悠希として生きた世界につながる道は今にも閉じようとしていたが、2匹の竜と私の分身である深山みゆきにより、未だ細い糸が繋がっている。
悠希として平和な高校一年生に戻る道が光の糸として示されてはいたが、私はサナレスとリンフィーナに会いたかった。
「お前が必死に求める二人から手ひどく裏切られていることを見せよう」
冥府の王は悪気なく二人の姿を見せてきた。
「サナレスという男はお前に妹のことを頼みながら、何をしていると思う?」
裸体で求め合うサナレスとリンフィーナの姿を、ありふれた景色を眺めるように視覚から脳へと見せられることになる。
求め合う二人の身体のシルエットは私の脳裏に刻まれ、拳が震えた。
自分の歪さを再確認することになり、一瞬思考が停止する。
「許せるのか? 二人はお前を裏切っている。お前が命まで掛けて約束を守ったというのに、二人はお前を蔑ろにして、今は情事の最中なのだ」
リンフィーナはサナレスを求めていた。そしてサナレスも、彼女の異性としてスタートラインに立つと言ってきたのだから、この展開は一番恐れていたことではあるが想定内であって、それ故に現実だと認識して打ちのめされる。
信じられないだとか、感情の起伏を荒立たせることがなかったのは、単に恐れていたことが現実になったからだ。
わかっていたことなのだ。
初めてリンフィーナと気持ちを通わせたと思えた水月の宮で、私達は一線を越えようとした。けれど彼女は兄以外の異性に怯え、私は母以外の異性に戸惑った。
確かに惹かれ合っていたのに、性的な接触にトラウマがある自分は彼女のことを受け止められなかった。
サナレスによって与えられた猶予期間を私は持て余してしまったのだ。
寝屋で裸体になったというのに、私たちはギクシャクした。互いに求め合ったというのに私は母から受けた性的なトラウマが払拭できず、リンフィーナの兄への思慕を自分への拒絶として受け取ってしまった。
そしてリンフィーナは兄サナレスと一緒にいることが一番幸せなのだと、部外者が割り込める先はないと告知された気分になった。
どれほど冷静になろうとしても嫉妬せずにいられなかった。
かの兄妹は知らないのだ。
だから冥府が私に見せる悪夢という現実などに、弱るような私ではない。
サナレスとリンフィーナの兄妹関係に割り込んでいったのは私。そして私は、どうにもこうにも、失恋を覚悟していてもその上で、二人ともを必要としている。
「悠希!」
悠希として縁を結んだ母である悠美に名前を呼ばれた。
レム睡眠時の脳派で、私は少し顎を上げた。
「母さん?」
悠希として生きた時間の原子反射的な反応なのか、私は彼女の声に意識を澄ませた。
こんばんは。
秋の長夜に酔いどれながら書いております。
日記なのでご容赦を。
そのうち訂正入れて行きます。




