人格形成は環境のせいで74
こんばんは。
本日、2度目更新します。
ほぼ毎日未満、書く日以上の頻度で更新しています。
お付き合いいただける方、よろしくお願いいたします。
そのうち出し方は、整理することがあるかもしれないので、ご容赦ください。
※
リンフィーナ!
やはり彼女は兄サナレスといることを望み、私など相手には望まなかったのだろうか。そう思うと何ともやりきれず、彼女の名前を心の中で叫んでいた。
私達は出会うべきして出会い、いっときは婚約者として互いの気持ちを確かめ合った。たとえその平和な幸福な時間は、サナレスの慈悲によって与えられたものであっても、確かに私は幸福で彼女のためであれば何を犠牲にしてもいいとすら思えた。それが自らを支えたラーディオヌ一族の総帥という立場を捨てることになっても、私の存在意義は彼女の側にあるのだ。
「私は帰る」
悠希としての人生を蔑ろにするわけではない。けれどずっと悠希として生き続けることに抵抗し、彼が関わるべきして関わった人を嫌悪した。
感情を揺さぶられずに、悠希が関わるもの全てを俯瞰してやろうとするうがった姿勢は、まるで進む未来を邪魔されないようにするための去勢ではなかったか。
だから今更魔物である水竜の言葉に惑わされることなどない。
一番惑わせてきたのは、悠希として生きていることに幸せを与えてきたのは、家族だった。悠美という情緒不安定な母がいて、家庭よりも研究を大事にしてしまう父亘がいて、それを愚痴る破天荒な真由がいる、ーーあの温かくもない冷めたスープのような日常が、一番私を悠希にしてきたのだ。
それは、もうない。
悠希としての人生は、まるで箱にみっちりと詰められた私の死体のようだと思っていた。わりと整っている。悠希としての容姿だけではなく、箱の中に裸体で無防備に押し込められている日常は、雑多であっても平和で、思いのほか芸術的なほどに美しい。
火竜の力をねじ伏せながら、水竜の眷属である水の属性を支配して、私は悠希として生きた16年と少しの時間を振り返っていた。
悠美は私のことを病気ではないかと心配していた時期があった。それでよく精神科医に私を連れて行き、失感情症ではないかとかアスペルガーではないかとか、医師による診断を欲しがっていた。
もし私が異世界で生きて、アセスとしての人生を悠美に告白していたら、彼女は私を完全に統合失調症だと、三度病院に連れていったことだろう。
でもねぇ。
母ってすごいんですね。
アセスとして戻る決意を強固にしていると、リンフィーナの気配を感じることができた。彼女以上に、今は恋敵となるサナレスその存在が私を呼び戻してくれる気配を感じる。
ねぇ母様。私は貴方に裏切られたと思い、貴方を殺し、冥府にあっても貴方の遺影を土足で踏みつけるような男で、それでも自分は死なずにその先の未来で大成すると這い上がるような虫けらです。
美しい花の香りがする生粋の貴族である母は、どうして私に刺殺された瞬間に、ねぇ?
私なんてもう要らないと跳ね除けておきながら、私に命を奪われた瞬間に何とも恍惚とした表情で私を見てーー。
「悠希、悠希、悠希!! 返事して悠希!!!」
前触れもなく、深山みゆきが叫び出した。魂の叫びは冥府に木霊して私はゾクっと身震いした。
母が来る。
真由が死んでしまって最も冥府に近い魂の状態にいる悠美が、今自分を探して冥府への扉までこじ開けようとしているのだった。
偽りの神々シリーズ紹介
「自己肯定感を得るために、呪術を勉強し始めました。」記憶の舞姫
「破れた夢の先は、三角関係から始めます。」星廻りの夢
「封じられた魂」前・「契約の代償」後
「炎上舞台」
「ラーディオヌの秘宝」
「魔女裁判後の日常」
「異世界の秘めごとは日常から始まりました」
「冥府への道を決意するには、それなりに世間知らずでした」
シリーズの8作目になります。
異世界転生ストーリー
「オタクの青春は異世界転生」1
「オタク、異世界転生で家を建てるほど下剋上できるのか?(オタクの青春は異世界転生2)」
異世界未来ストーリー
「十G都市」ーレシピが全てー




