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人格形成は環境のせいで66


偽りの神々シリーズ紹介

「自己肯定感を得るために、呪術を勉強し始めました。」記憶の舞姫

「破れた夢の先は、三角関係から始めます。」星廻りの夢

「封じられた魂」前・「契約の代償」後

「炎上舞台」

「ラーディオヌの秘宝」

「魔女裁判後の日常」

「異世界の秘めごとは日常から始まりました」

「冥府への道を決意するには、それなりに世間知らずでした」

シリーズの8作目になります。


 異世界転生ストーリー

「オタクの青春は異世界転生」1

「オタク、異世界転生で家を建てるほど下剋上できるのか?(オタクの青春は異世界転生2)」


 異世界未来ストーリー

「十G都市」ーレシピが全てー

          ※


 夢の中にいる時は、心地良すぎる。

 けれどずっとは続かなかった。


 時々針で心を刺されるように、チクチクと胸が痛む瞬間があり、現実を見つめる時が定期的に訪れた。

 それはリアル。

 受け止めるには辛すぎたが、もう目を背けることはできなかった。


 リンフィーナは幸せな兄との時間を守りたくて、臭いものに蓋をしていた。

 その自覚はあるけれど、考えないようにしたい。そう念じることで、全ての煩わしさを日常にぼやかしていく。


 けれど同じように辛いはずの兄は、ひと時たりとも彼を忘れない。

 アセス・アルス・ラーディオヌ。


 ここにもう一人、生きているはずではない人の肉体がある。

 兄サナレスは一日の始まりを、いつも彼のそばで過ごした。


 自分は辛すぎて、兄が間向かうその先にアセスがいることを、見て見ぬふりをしていた。それでまかり通るなら、記憶から消してしまいたいほど、彼の存在は痛みを伴う。


『少し待っておいで』

 そんなふうに自分を遠ざけるサナレスは、自分を庇護しようとしてくれる。まるでそれが責任であるかのように。


 その日の朝、リンフィーナは決心した。

 サナレスと共にいる未来を夢見た自分は、決してアセスの存在から目を背けてはいけない。小さな責任感というか、自覚しなければならないものがあって、ある日尻込みしていた自分を叱咤し前を向く。


「一緒に行くわ」

 リンフィーナは、サナレスの背中にしがみつくようにして、かつての婚約者であるアセスの抜け殻に近づいて行った。


 近づくにつれて全身が硬って、サナレスの背中の衣服を握る手が震えた。


 神である王族の死体は、焼かずに墓跡の中に眠る。

 他の王族のしきたりは多少違うだろうが、アセスはラーディア一族、アルス家の慣わしによって埋葬されている。


「無理しないでいい」

 サナレスは自分を気遣ってここに自分が来ることを勧めなかったが、リンフィーナはサナレスの背中にくっついて、アセスの抜け殻に手を合わせることを決心したのだ。本音を言えばここに来るのは怖くて仕方がない。


 どうしても忘れることができない、婚約までした相手。幼い頃に出会ってずっとさすれられなかった人、美しいラーディオヌ一族の総帥、ーーそれだけではなく心を持っていかれた人なのだ。


 手酷く振られた記憶の傷は未だ深く、それでも時折見せてくれた優しさに縋ってしまう自分がいる。

 サナレスといる時ですら、四六時中アセスのことが頭から離れてくれなくて、心が痛む。


 会いたくない。

 会えば自覚せざるを得ない。


 アセスの整った土気色の顔を眺めて、そこに血が通っていないことを確かめるのは、針の上を歩くように辛く、足元から倒れ込みそうで、口から内臓が出て叫び出しそうなくらい痛い。ーー痛い!


「どうして無理をする?」

 サナレスは私の頭に手を置いた。


 サナレスとて自分と同じ、身を切られる思いでアセスの側にいる。

 サナレスもアセスを無視できないほど、大きな存在として捉えている。

 だから自分も、切られるような痛みを伴っても目を背けず、せめてサナレスと痛みを共有したかった。


「兄様……、今日でもう七日経つよね」

 兄の背中で半身を隠すような姿勢でアセスの土気色の顔を眺め、リンフィーナは絶望的な気分になっていた。

「まだ七日だ」

 七日経てば危険、そして10日経てば絶望的だという共通認識を、アセスをこうして仮死状態にした者の口から聞いて知ってはいる。


 兄と私の完璧な日常も、アセスの生死によって左右されることを、互いに知っていた。


「大丈夫か?」

 サナレスは背中にしがみついているだけの自分の心を案じて、幾度となく声をかける。

「兄様がいるから」

 その言葉がサナレスにどれほどの重荷を背負わせているのか、わからずに自分は震える声で答えている。


「アセスは必ず戻るよ。ーーそう約束した」

 約束を違えるような男ではないと、サナレスは言う。

 戻って欲しい、その気持ちに嘘偽りは微塵もないけれど、もし戻ったアセスに自分とサナレスが合わせる顔はあるのだろうか?


 サナレスは自分の考えとはまた違うだろう。サナレスはただ、自分を慰めてくれていただけだ。

 けれど自分は、明らかにアセスへの気持ちに蓋をして、サナレスとの日常、幼少期から望んできた完璧を求めた。


 この裏切りを、どう弁明したらいいのか。

 というか、裏切りと思う自分は自意識過剰で、アセスは自分のことなど何ほども意識していないかもしれない。わからないから、余計に気持ちが沈んだ。


 その不安をサナレスに押し付ける訳ではないのに、自分はさらに頼りなげに小さくなってサナレスの背中にしがみつく。

「何もお前が不安に思うことはない。これは私とアセスの問題だ」

 

 違う。

 兄様はただ、生きる希望すら無くしている私に、ーー希望を与えてくれた。


 さらに兄の背中の衣服の布をぎゅっと握って何も言えなかった。

 兄サナレスに抱かれて、子供時代を見送った。サナレスは真綿に包むように、大切に異性としてそばにいて、自分の無くしていた存在意義を育んでくれている。自信のない自分に何度も、親鳥が子に餌を与え、啄むような愛情をくれる。


「ごめんなさい」

 兄の背中の衣服を掴んだまま座り込んで、誰にとも定かではないけれど謝罪する。

 私が悪い。全部私が悪い。

 そう思うのに、サナレスが倒れ込む身体を抱きとめた。


「全ては私の責任だ」

 地面から抱き上げられ、アセスが安置されているその場から離された。

 完璧な朝を迎えた、サナレスといる二人だけの空間に気がつくと戻っている。


 そして自分は、束の間アセスが眠る棺のことを忘れるのだ。

「兄様、兄様ーー!」

 縋るようにサナレスを求める。

「大丈夫、愛している。そばにいるから」

 優しい声と、伝わってくる体温を感じて、安心して微睡んでいく。


 望んできた未来の、誰にも邪魔されたくはない、完璧な日常だった。

こんばんは。

緊急事態宣言がやっとあけて、少しホッとしますね。


いつもの夜ですが、秋めいてきた今夜は、何か季節に癒されます。

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