人格形成は環境のせいで61
偽りの神々シリーズ紹介
「自己肯定感を得るために、呪術を勉強し始めました。」記憶の舞姫
「破れた夢の先は、三角関係から始めます。」星廻りの夢
「封じられた魂」前・「契約の代償」後
「炎上舞台」
「ラーディオヌの秘宝」
「魔女裁判後の日常」
「異世界の秘めごとは日常から始まりました」
「冥府への道を決意するには、それなりに世間知らずでした」
シリーズの8作目になります。
異世界転生ストーリー
「オタクの青春は異世界転生」1
「オタク、異世界転生で家を建てるほど下剋上できるのか?(オタクの青春は異世界転生2)」
異世界未来ストーリー
「十G都市」ーレシピが全てー
※
見るもおぞましい冥府の景色を、私は悠々と病院の屋上から見下ろしていた。三階という高さは微妙に高くはなく、湧いて出てくる死霊の彼らが伸ばす手が、今にも足先に届きそうだ。
「うぇ。これ何体いるの? 人類みんなとりかえばやされちゃった?」
普通の人間がこの様子を目の当たりにして言う言葉ではない。それなりに焦っているようだが、木杉は事態を想定内として受け止めているようだ。
「この状況、おそらくは我々の方がとりかえばやされた世界に来てしまったと考える方だ妥当ですね」
私がそう答えると、木杉はごもっともと納得したようだった。そうして私に真向かって、クスと笑う。
「アセスと言ったな? 絶世の美女じゃないか」
私は失神している深山を抱きとめたまま、自嘲気味に口の端を歪めた。冥府では長年なじんだ魂の姿に戻るのだ。私の場合クリスタルドール、ーーアルス大陸一の美姫が残した宝玉として、多くのものに愛でられた姿に戻っている。
だが、断っておくが私の性別は男である。
美女と称され、整った細い眉をしがめ、私は木杉を一瞥する。
「それで木杉、このまま深山とあなたを冥府ごと閉じてしまえば、私たちがいた世界は守られるわけなんですが、諦めていただいていいですか?」
「はぁ?」
「さっき携帯で連絡取っていらしたようですが、間に合いました? つながったとして、こっちに救出にしてくれる方、いらっしゃいますかね?」
純粋な気持ちで彼らの命運をどうするのか問いかけたというのに、木杉のこっちを見る眼が凄んでいた。
人の命の灯火を吹き消すような冷気に、私は慣れていた。それは冥府に来た回数からというよりも、アセスとして生まれ落ちたその瞬間から、私が生きたそこは冥府に近しい場所だったのだ。
けれどこの冥府に適応する人など、そういるはずもない。
「さて……」
私は私達がいた意識の中、病院から屋上に出る扉を、右手を上げて吹き飛ばした。
近くまで登ってきていた死霊ごと、3階の屋上から虫のように薙ぎ払われる。
「もう来てるねぇ。ーーで、やられちゃったら俺ら、どうなちゃうわけ?」
はは。
私は心の中で乾いた笑いを漏らした。
「仲間になるだけですよ」
「うっわー。やっぱゾンビ。ーー終わりは?」
「なくもないですが、多分相当難関なので、この難局を切り抜けていただいた方がいいかと思います」
木杉も私の意見を受けて、右左に首を傾けて肩慣らしを始めた。彼の能力を私は未だ知らない。けれど使いものになるのかどうか、ここで試せるというわけだ。
冥府では生まれ落ちた魂の核になる部分が表象化する。木杉は今、私の目の前で制服姿の『木杉先輩』のままだったが、冥府においてどう変化するのか。ひとつ見ものだと言えた。
「みゆきちゃんはさ、あの世と向こうをつなぐ橋渡しみたいな存在でしょ? てことでみゆきちゃんていう聖域をとりあえず護って戦えばいいってことね」
「あと、護りながらここから出ること考えなければいけませんよね」
「わかってるって。みゆきちゃんとアセス、美女二人を守るのが役目ってわけでしょ? 僕も蓮もはりきっちゃうよぉ」
蓮ーー?
木杉がそう言った瞬間、自分達の背後が熱風と共に赤く染まった。
体を焼く熱と光に振り返ると、背後に目を見張るような巨体の竜が羽を広げ、舞い降りた。
「遅い!」
風圧と熱を腕で防ぎながら確認するが、形相とは違う軽口を叩く、知っている存在だった。
「先輩は突然すぎるんすよ」
寝てたのに、と愚痴る。
木杉が召喚した蓮なのか?
確かめるべく目を細めたが、彼は姿が変わってもそのままだった。
蓮の意識は確からしく、口がきけるらしい。そしてその軽率さは蓮そのものだ。
いや、冥府にあってはもう、意志の疎通が会話で成立しているのかどうかは不明なので、存在が軽薄なのだろうか。
「で、ここのみんな焼き払ってしまえば解決?」
「違う!」
違う!
私と木杉がシンクロして、大きさ勝負では太刀打ちならない蓮を、気迫で押さえ込んだ。
「馬鹿力なはずだ、まさか火炎の龍とは……」
呆れる私に対して、蓮は反論するようにこちらをにらんでいる。
「木杉先輩、まだ悠希っちに言ってないの?」
何を!?
もどかしく思う私を横目に、木杉は「とりあえず目の前の状態を片付けない?」と軽く言った。
「蓮さぁ、私が育てた可愛い子供達も、一緒に送ってくれた?」
「御意。下で交戦してるよ」
蓮がくるっと巻いた鋭い爪で、下の様子を指さしたように見え、私と木杉が目をやるとそこにはあの施設にいた白い衣の子供達が死霊と一戦構えているようだった。
こんばんは。
今晩もアップします。
日記みたいにこそっと読んでください。




