人格形成は環境のせいで58
偽りの神々シリーズ紹介
「自己肯定感を得るために、呪術を勉強し始めました。」記憶の舞姫
「破れた夢の先は、三角関係から始めます。」星廻りの夢
「封じられた魂」前・「契約の代償」後
「炎上舞台」
「ラーディオヌの秘宝」
「魔女裁判後の日常」
「異世界の秘めごとは日常から始まりました」
「冥府への道を決意するには、それなりに世間知らずでした」
シリーズの8作目になります。
異世界転生ストーリー
「オタクの青春は異世界転生」1
「オタク、異世界転生で家を建てるほど下剋上できるのか?(オタクの青春は異世界転生2)」
異世界未来ストーリー
「十G都市」ーレシピが全てー
※
木杉にとって恋愛は茶番だ。
だから大切な存在の話をしたときに、どこか噛み合わない。
価値観は合致しない。
ーーきっとサナレスとなら、自分の感情がどれだけ泡立とうと、大切な人の望むことを一番に優先することができるのに。
ここにいない兄妹のことを考えて、私は軽く絶望する。
「木杉先輩が私に望んだことを叶えるには、深山に会わなければならないんですよね?」
病棟の個室の一室で、月明かりだけで会話をしている。
「でも、あなたははぐらかすことが上手いので……、そこを正直に話していただかないと、どうにもね」
それならば協力しかねる、と私は嘯く。
面倒な案件だと関わらずにいることも選択肢として浮かんだが、この世で初めて、家族以外に興味をそそられた人達で、その能力も突出していた。
これも何かの暇つぶし、縁だろうという想いもある。
けれど木杉の掌の上で、彼の書いた筋書き通りに動かされるのはごめんだった。
「ちゃんと話せば力になるって?」
「さっきから何度も申し上げているように、話を聞いてから考えたいのです。博士」
もう、木杉先輩とは呼ばなかった。学校をひとつ買い取り、学内のあらゆるところに監視カメラ、そしてサーモグラフィで「何か」をモニタリングしようと整えてきた木杉博士は、おそらくは深山の能力を監視してきた。
「蓮はあなたの想像の範囲、つまり研究所内にいる子供達と同分類。で、深山と私は、研究対象つまり未知数で、あなたの能力は科学」
息が掛かるほど近くにいる深山が、表情を緩めた。
「私が研究し、望んだものも、退けたいものも、ーーおまえにはわかるって?」
私はため息をついた。彼は力を履き違えている。
努力、能力、運命、この三つが相関関係となって表出するのが呪術なのであり、精霊の祝福で能力を伸ばしていく。
「呪術というのは、努力では得られないのです。天の采配とは思いませんが、遺伝なのか、お家芸なのか私には分かりかねます」
それはこの世の運というものに等しい。
皆まで言わなくても、木杉は悟ったようだった。
「みゆきちゃんも、悠希くんもさ、脅威だよ」
いつもどこか作ったキャラクターを演じている木杉の仮面が剥がれた時間だったと思う。
「君達が心を、ーーいや脳を覗いた人間は、一様にこの世のものではなくなっていく。まるでさ、この世界の終わりの深淵を覗いてしまったみたいに」
初めて木杉の声を聞いて、私は笑った。嬉しすぎて、見ようによってはアルカリックな感じで不気味に感じられても、手首の細胞蘇生に痛むことも忘れて笑ってしまう。
まるでサナレスが自分に降参しているかのような、高揚感だ。
擬似体験ではあるとしても。
「おそらくは深山ができることは、私は全てできる」
習得は遅くとも、試してみれば可能だった。とりかえばやされた生徒、アンデッドも深山に反応するのであれば、私にも反応してきた。深山が抑制することに力を発するのであれば、私はおそらく活性化すること、ーーつまり今は真逆に反応させることが可能だ。
これってまるで亘の所持している本に書かれていた、交感神経と副交感神経の役割のようだと思った。
交感神経は興奮系で消化器系は減退し、神経が研ぎ澄まされる。緊張すると食欲減退するのも納得する。反対に服交換神経はリラックスしている状態。
ああ、詳しくは覚えていない。
人の記憶ほど脆いものはないのだ。特に悠希の脳はアセスであった頃の記憶がある私に取って、役立たずだ。感情が伴わないものは大抵すぐ忘れていく。どこかでシナプスが途切れているのかと揶揄してしまうが、内心では悔しくて自由がきく足で、病室の真っ白なシーツを跳ね除けた。
「私はこの世の病歴を全て背負うほど、おかしなことを言い、不可思議な能力を使ったとして、阻害されても構わない」
もう、構わない。
悠美が守ってきた家族という集合体が壊れて、タカが外れる。
「興味を持ったことに関わるぐらいの酔狂さを楽しみたい」
私の寿命は7日から10日程度。
もう命が尽きる。
尽きてくれなければ戻れないので、困るのだ。
タイムリミットを言い渡された状態で、私は交感神経を活性化させている自分を感じる。
「一緒に戦ってくれるなら、心強い」
「何と?」
質問すると、木杉は苦笑した。
「百鬼夜行って言えば一番適しているかなと思うけどさ、とりかえばやされた奴ら、見ただろ? 学内で起ったことを話したけれど、ーーその学校がさ、百鬼夜行で歴史に残った地だと仮定して欲しい。我を失ってさ、どんなふうに傷づけられてもゾンビみたいにこっちに襲ってくる人が増えてきたら、やばいよね?」
アンデッドのことを、ゾンビというのだろうか?
確かに奴らは痛みを感じない。そして自らの意思を失い、徘徊する亡者だ。
「協力してくれるってこと同意する?」
「あなたがつまらない言霊のような契約書を柵として使わないのであれば」
完全に嫌味だった。
私の性格は割と執念深い。記憶においてもそのへんは一級品だ。
「百鬼夜行って、平安時代から室町時代に今みたいな現象になったことを記されているんだけど、実際はさ、目撃された魑魅魍魎って人のなれの果てで、今とりかえばやされた人だったんだと、僕は思ってる」
博士としての言葉なのか、木杉としての信念なのかはわからなかった。
「ただ日本には鬼門って言葉あるよね?」
面倒な知識だが、私は首肯する。
科学で何もかもをジャッジしているようで、不可思議なことを完全否定できていないのが、この世の魂の逃げ場である。
「この学校は古くから鬼門に位置していて、百鬼夜行の時代に存在し、ーー深山がいて、そして君が来た」
私は負傷していない手で頭を押さえ、病室を出た。後についてくる木杉に伝えたいことは多くあったが、脳内での内容の整理が追いつかない。
「百鬼夜行、歴史になるぐらいですから、過去においても退治したんでしょう? ーーあなたもこの世における異形、そんな能力を身につけた能力者を募ってきた」
それさ。
私は鼻で笑いたかったが、自分が率いてきたラーディオヌ一族を思って笑えなかった。
「その集って来た民衆が、例え役に立たないものであっても、先の展望はあるんでしょう?」
それは問いというよりも、それなりに一流と言われる策士に対して確認すべき事項だった。
こんばんは。
今秋の文化週間です、てかさ、警察も取り締まり月刊みたいなことしてますね。
うーむ。春と秋にするのはやめた方がいいよね。気候がいいからしてるみたい。
あ、反社会的なこと書いてませんよ。交通安全週間に疑問なだけ。




