人格形成は環境のせいで57
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家に帰る必要は無くなった。
近くのスーパーや惣菜屋で買ってきた夕飯は、もううちの家の傷ついた食卓に用意されることはない。
早めに帰らなければと、訳のわからない焦燥に駆られることは、ーーもうない。
「深山が近くにいるのであれば、寄りたいのですが」
率直に自らの反省点を謝罪したくて言ったのだが、木杉は面白そうに別の解釈をしたようだ。
「でもさ、悠希君、手首ちぎれるくらい負傷してるよね。ーーあ、猟奇的に手首ちぎったのも悠希か」
と何か嬉しそうだ。
「深山先輩が、私の自傷行為を心配して止めようとしてくれていたから、今後その必要はないと申し伝えたいだけです」
それ以外の感慨はないのだけれど、木杉が心底面白そうに私の意見に同意してきた。
「でもさ、痛みがあるんじゃ今日は無理だよね?」
「無理?」
私は首を傾げる。
「心配せずとも、お前……木杉先輩が望む、他の生徒達の魂の奪還を手伝うことに支障は出ない」
「いや、そういう心配をしているわけではなくて」
「何を懸念されているのです?」
わからなくて、率直に聞いているのに木杉はまじまじとこっちを見ているだけだ。
「悠希ーー、いやアセスってさモテないでしょ? あ、ごめんごめん。僕もモテるわけじゃないから、これ単に同類あい憐れむって感じの親近感ね」
深山の話からどうしてそんな内容になるのだと怪訝がったが、私は会話においての応答能力が高いとは言えない。
質問にただ一つひとつ、丁寧に答えていくだけだ。
「モテると言う解釈は、単に人気があると言うことですか?」
「ーーいや、男女の間でのこと……」
「女性に限るのでしょうか?」
「え? そっち側……?」
地雷をいくつか自分で仕掛け、それを順番に踏んでいる気がしたが、面倒なので回答するだけだ。
「そっち側の意味を測りかねます。女性に限って言うのであれば、私ではなく私の地位、もしくは美貌に興味のある女人には好ましいと評価されました。けれど地位を剥奪され、手入れされた容姿を失った私が、受け入れられたかどうかは不明です」
残念なことに、私は鋭すぎた。
鋭さゆえに男としての本能は、禁欲という檻に囚われ、目の前にいる少女が望む本当の心をのぞいてしまう。
そうすると私は消えていく。
自分の気持ちを表現することは苦手で、相手が何を望んでいるのか、それを察知することの方が簡単だったので、自分の欲望は消えたまま、相手の望みだけを伺っているだけになる。
「おまえ、AIみたい」
木杉が私をこう評した。
「AIって、人工知能? 私は一応血の通った人ですよ」
「そういうとこ!」
無礼なことに、また額を指で弾かれ、眉を顰める。
「感情ってそんなもんじゃないでしょ? コンピュータみたいに順番に情報処理してれば済むってもんじゃない! 特に恋愛はさ、ただ好きかどうか、欲しいかどうかじゃない?」
「欲しい?」
「好きな人にモテたい。独占したい。単純なことでしょ?」
そんな気持ちは、よくわかる。サナレスにリンフィーナを奪われたことを察知した時、自分にとって敬意さえ払える人だったのに、殺意を覚えた。
奪い返したいだとか、そんな単純な感情を分析すると、ただこの先彼女と一緒にいるのは私でありたいと思っていただけだ。
「単純かーー。けれど私は、欲しいかどうかで動かない」
「はぁ?」
と木杉が不可解さに顔を歪めた。
「恋愛と言えるのかどうかわかりませんが、本当に大切な人に対しては、自分がどうしたいかどうかではないでしょう? 相手が誰といるのが幸せかということですよね?」
ーーそしてあなたがこんな茶番ではぐらかしてくる深山みゆきという人に、今は興味を持っている。
「ねぇ木杉、あなたにとって彼女が、脅威であり最高傑作である理由を言ってもらわないと手を貸せませんよ」
肩をすくめた木杉を人睨みしてしまう。
「やっぱ気づいた?」
「自分で試すまでは確信を持つことはできませんでしたが。ーートリガーは私ではない。彼女ですよね?」
偽りの神々シリーズ紹介
「自己肯定感を得るために、呪術を勉強し始めました。」記憶の舞姫
「破れた夢の先は、三角関係から始めます。」星廻りの夢
「封じられた魂」前・「契約の代償」後
「炎上舞台」
「ラーディオヌの秘宝」
「魔女裁判後の日常」
「異世界の秘めごとは日常から始まりました」
「冥府への道を決意するには、それなりに世間知らずでした」
シリーズの8作目になります。
異世界転生ストーリー
「オタクの青春は異世界転生」1
「オタク、異世界転生で家を建てるほど下剋上できるのか?(オタクの青春は異世界転生2)」
異世界未来ストーリー
「十G都市」ーレシピが全てー




