人格形成は環境のせいで34
こんばんは。
やっと警報が解除されました。ここのところ、天候も加減を知らないなぁ。
休講になると、あと大変なんだけど調整。
雨が降ると嫌でもインドアになるので、小説日和。そこは嬉しいんだけど。
※
「やあ。たまに授業なんてもんに出た隙に、親密だねぇ」
揶揄うような口調で言ってくるが、その視線は油断ならず、木杉は手に持ったA4のバインダーの角で自分の顎にリズムを刻んでいる。
「具合、もういいの? みゆきちゃん」
「ええ。昨夜は最悪だったけど。1Aのクラス全員の雑念で、一睡もできてないけど」
「お疲れ〜」
木杉の態度に、深山は肩をすくめ「この人ほんと、人使いが荒いのよ」と苦笑いを浮かべる。
「んでどうして悠希といるの? 真面目な悠希くんが授業ボイコットなんて、僕たち悪い影響与えちゃってるのかな?」
「いえ、私も雨の日は頭痛持ちなので休ませていただいていたんですよ」
しれと言ってやる。この手のとぼけたタイプの扱いは、サナレスを相手にして多少なりとも耐性がついている。
「それはそうとみゆきちゃん、自分の能力のことカミングアウトするなんて珍しいねぇ。施設に居た時から比べるとすごい進歩だよねぇ」
いやぁ、いいこといいこと、と木杉は大仰にうなづいて見せた。
私はこの七癖ありそうな木杉からより、深山の方から色々と情報を得たいと思っていたので、割って入られた残念な登場に、密かに嘆息する。
「あんなに嫌いだった施設出身だってことまで話しちゃうんだから、僕のことも話した?」
表情や口調は相変わらず柔らかだけれど、深山の方が顔をこわばらせたので、一瞬背筋がゾッとする空気感を感じてしまった。
「ーー何も……聞いていませんよ。できればそう言うことはご本人の口からお聞きしたい」
私は咄嗟に木杉の興味を自分に向けた。
直感で感じてしまう。日頃は対等であるかのように軽口を叩き合っていても、木杉と深山の間には言いようのない上下関係が構築されている気がした。蛇に人睨みされる蛙が萎縮するような緊張感が、深山を黙らせてしまう。
「悠希は僕のこと知りたいの? それとも施設のこと?」
「差し支えなければ両方伺いたいと思います」
「うん、いいけどさ。なんか悠希ってこの世の人じゃないみたい。やっぱり“とりかえばや“でこっちに来たトラベラーって感じの話し方だよね」
「こっちという言い方があるなら、貴方が言う向こう側とは何処を指しているのでしょう?」
木杉の予測は外れてはいない。私はとりかえばやがどういったことなのか、まだ理解していなかった。けれど悠希という肉体を、仮の器だと思っている自分は、ある意味で悠希本人としては生きている意識がない。
「口で説明するよりも、見た方が早いかなぁ」
「まさか、連れて行くの!?」
正気じゃないと、深山は言った。
「心配しなくてもみゆきはここに居たらいいし」
「蓮ですら連れて行ってないでしょ? ーーどうして」
「蓮の生態は、施設ではタイプAに分類されるし、よくあることだろ。でもさ、勇気は多分タイプレス。僕が今まで見てきたどのタイプでもなさそうなんだ。ーーつまり特級」
木杉は軽く私の方に手を置いてきた。
パーソナルスペースに遠慮のない人間が苦手で、私はチラと見てその手を振り払う。
「それに興味あるっていうんだから、隠しちゃうより全部見せちゃう方がいいでしょ?」
深山は思い詰めた表情で何も言わない。その代わりに気遣うような視線がこちらに向いて、私の意思を確かめようとしているようだ。
「ただの施設ではなさそうですし、興味がありますよ。せっかく授業をサボっているんですし、案内いただけますか?」
淡々と私は言った。アセスであった時から、どうしてか嫌なことが起こりそうな前触れがあっても、感情が氷のように固まったままだった。肝が据わっているといった類のものではなく、全てが他人事のように感じてしまうのだ。
アセスとして母を殺したあの日から心のどこかに穴が空き、そしてリンフィーナ、彼女と別れたその日から、心が別のところに浮かんでいるのをただ眺めているだけのような気がしている。
「じゃあ早速お出かけしますか。車回させますねぇ」
木杉はスマホを取り出して、肩と耳にそれを挟んだ。
偽りの神々シリーズ紹介
「自己肯定感を得るために、呪術を勉強し始めました。」記憶の舞姫
「破れた夢の先は、三角関係から始めます。」星廻りの夢
「封じられた魂」前・「契約の代償」後
「炎上舞台」
「ラーディオヌの秘宝」
「魔女裁判後の日常」
「異世界の秘めごとは日常から始まりました」
「冥府への道を決意するには、それなりに世間知らずでした」
シリーズの8作目になります。
異世界転生ストーリー
「オタクの青春は異世界転生」1
「オタク、異世界転生で家を建てるほど下剋上できるのか?(オタクの青春は異世界転生2)」
異世界未来ストーリー
「十G都市」ーレシピが全てー




