人格形成は感情のせいで31
こんばんは。
よく降る雨の中ですね。
本日は昼から有給なるものを取得してきたので、少し早い時間に執筆ができています。
お付き合いいただいていらっしゃる皆様、ありがとうございます。
評価、感想、ブクマなど、反応を励みにしておりますので、よろしくお願いします。
しかし、前書きと後書きはみんなどんなふうにしてるのかなぁ。
※
早くアセスに戻りたい。
結局赤子から生まれ変わったとしても、私は家族には縁がなく、初めて一番近くに来た姫ですら、私ではなく別の男を選ぶ。
自信のなさに反吐が出るけれど、母の暗い表情を眺めるたび、心の弱さが溢れ出て、見上げた空から落ちてくる降り止まない雨のようだ。
いつからだろうか。
家に帰るのが辛くなった。バラバラになっていく家族でも、いつこの世に期限が来るともしれない私には何もできない。だからせめて家族にとって無害にあり、感情を閉じ込めて過ごしてきた。
もう慣れっこになっているはずだ。それなのにこんな雨の日は、嫌でも思い出すことがある。
厚い雷雨が立ち昇り、稲光が光るそんな日には、自分の両手に視線を止めずにはいられない。錯覚であるというのに、時々私の手はてらてらと赤黒く濡れている等に見えた。
洗っても、洗ってもその汚れは取れなくて、激しく雨が降る日には、私は手を洗い続けた。それは悠希にとして生を受けた今ですら、アセスの記憶がある私に受け継がれた呪いとして、染み付いてしまっている。
悠美を一人残し、レインコートを羽織って学校に登校したが、学校に着いてからも陰鬱な気分は天候と共に付き纏ってきた。
私は校舎内に入るよりも早く、校庭にある手洗い場の蛇口を勢いよく捻った。脇を通り過ぎる見知らぬ生徒は、おかしなものを見るように一瞥して通り過ぎていく。
尋常でないように目に映ることは理解している。
頭でわかっていても止められないのだ。
雨の日に手が濡れている状態でいることが、たまらなく恐ろしい。
いや、大丈夫だ。私の手は今アセスのそれではなく、汚れてはいない。そう言い聞かせようとするのに、これ以上開けないというぐらい開いた蛇口から、とうとうと流れる水で手を洗い続けていたかった。
洗い流したいのは、私が殺した実母の血だ。
アセスとしての魂が犯した最初の罪は母殺しだった。殺さなければならなくなった事情なら、いくらでも口にできたのだが、決行してしまったことへの後悔は、手に染み付いた血の影として残ってしまっている。
この世界は児童虐待防止法とか、ご丁寧に子供という弱者を守る法が整備されているが、アセスが全てだと思っていたラーディオヌ一族の王族としての暮らしは、もっと無秩序だった。
私は母親であるマリアから、児童虐待法でいうところの性的虐待を受けて育った。マリアは浮世離れする生粋の貴族で、一族の王に王妃として迎えられ、自らの美貌に酔いしれていた。そして彼女にそっくりな私を、モノのように支配してきた。
思い出すたびに、心臓がギュッと縮んだ。
恥辱であることは苦々しく心に刻んであるから、私は子供ながらに口を閉し、彼女から逃げられるその日まで悪夢を抱えた。
だから私は、悠美が恐ろしい。
悠美は今の私である悠希の母で、アセスの母であったマリアとは別人で、マリアが私に強要してきたことをした訳ではないし、そんなことをする人ではないことをわかっていた。
それなのに真由が花火に行きたいと駄々をこねた日、悠美は手に火傷を負ったその手で、反射的に真由を叩いていた。
まるでマリアが私をモノとして扱ったように、悠美もまた子供をモノとして扱ったように見えて、内心私の方が真由以上に萎縮した。
「何しているの?」
レインコートごとすでに全身がずぶ濡れになっているのに、手を洗い続けている自分を覗き込んでくる者がいた。
昨日一日、寝込んでしまったといっていた深山みゆきだ。彼女は片眉を上げて、蛇口を占める。
「もう、手綺麗だけど」
そういって手首を掴まれて、引っ張られた。
「一限目始まってるでしょ? サボるの? 私まだ体調良くないからサボるけど一緒に来る?」
言葉では確認しているものの、掴んだ手を引く力が強くて、姿勢良く前を歩く彼女に引っ張ら手ていく。
長く真っ直ぐに伸びた髪の毛が、かつての恋人を思い出し、少し呼吸が整った。
『ねぇあなた、こんなに綺麗なのに何を泣いているの?』
違う。私は汚れている。
『本当に、とてもキレイ』
幼い頃自分を救った少女の言葉を胸の中に抱きしめる。
「深山先輩、もう大丈夫です。私は授業にーー」
「はぁ? 大丈夫なわけないでしょ。こんな往来で泣いてるんじゃないわよ」
馬鹿なことを、と思った。
悠希として涙など流したことは一度もない。
「雨ですよ」
そうい反論すると、「うるさい」と一喝された。
偽りの神々シリーズ紹介
「自己肯定感を得るために、呪術を勉強し始めました。」記憶の舞姫
「破れた夢の先は、三角関係から始めます。」星廻りの夢
「封じられた魂」前・「契約の代償」後
「炎上舞台」
「ラーディオヌの秘宝」
「魔女裁判後の日常」
「異世界の秘めごとは日常から始まりました」
「冥府への道を決意するには、それなりに世間知らずでした」
シリーズの8作目になります。
異世界転生ストーリー
「オタクの青春は異世界転生」1
「オタク、異世界転生で家を建てるほど下剋上できるのか?(オタクの青春は異世界転生2)」
異世界未来ストーリー
「十G都市」ーレシピが全てー




