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人格形成は環境のせいで3

こんばんは。

偽りの神々シリーズの続き、今回はアセスの一人称で書いていきましょう。


私の日記的なものですが、皆様の反応が励みになりますので、感想ブクマなどお待ちしています。



         ※


 一刻(2時間)以上かかる片道の移動時間をを、このひとーーサナレスは半刻と少しに縮めてきた。その上、押し付けるように、妹に会わせる具体的な日取りと場所を提案してくる。


「ほんとたまたまねぇ〜。私の妹が呪術なんてもんに興味を持って、地道士の試験受けるらしいから、ここに来るんだけどさ、アセスはいるだろう? その日」


「いますよ……」

 私も試験を受ける受験生の一人ですからね。

 一族の総帥として、天道士という高位の資格試験を受ける特別な日である。

 サナレスが言うように試験会場に居るにはいるが、それは必然で、何か口実を付けて断ることはできない日だ。


 彼女に会いたい。

 けれど同時にそれは、私の人生が今までと一変してしまうだろうという予感があって、私は不安な気持ちになっていた。だから彼女に会う日取りを、何かと言い訳を作っては先延ばしにしてしまっていた。


「妹の試験帰りに、ここ寄るわなぁ。紹介したいし」

「時間的にどうかな……?」

 私も試験なのですよ、と率直な意見をいうと、サナレスは「お前の試験中なら、それを見せることも妹うには勉強になるだから、待っているよ〜。心配するな」と笑ってきた。


 やはり。

 逃がしてくれるつもりはないらしい。


 人生初、人との約束に緊張した。


 しかも私の試験を見学させるだって?

 状況でプレッシャーを与えてくるサナレスに、アセスは僅かに眉を寄せた。


「あれ? ーーまさか自信ないのぉ?」

 すかさずサナレスが突っ込んでくる。

「好きな女にはいいとこ見せたいしなぁ。試験に落ちるとかないわなぁ。幻滅されるかもしれないし……」


 額に怒りが込み上げた。

 この人わざと煽ってくる。


「落ちませんよ」

 冷たい視線で彼を見ると、サナレスは人の悪い笑みを浮かべ、心底楽しんでいるようだった。



           ※

 あの時の私は、リンフィーナに再会することにばかりに気を取られるような幼さだった。

 だからサナレス自身も、私と彼女の出会いの場を用意することに膨大な時間をかけてしまった理由に、まったく気が付いていなかった。


 まさかサナレスが、妹である彼女を自分と同じような気持ちで二人の将来を考え、その気持ちに蓋をして隠していたなんて、三人で出会ってみなければわからなかった。


 自分の感情をコントロールすることに必死で、サナレスという人が偽った強がりや優しさを鵜呑みにした。


 サナレスもいけない。

 自分に彼女を娶れと言いながら、彼女への気持ちに気づくのが遅すぎたのだ。


 ーーサナレスと私は結局、彼の妹であるリンフィーナを巡って三角関係になり、一族を巻き込んでの諍いを起こしてしまった。


 彼から最後に寄越された手紙には、『今すぐに会いたい。星光の神殿で待っている』としたためられていて、まるで恋人にでも差し出したような内容だった。


 けれど自分は行かなかった。

 私は負けたのだ。

 サナレスに、負けたのだ。


 サナレスに今会っても、自分には敗北に打ちのめされることしか想像できず、そのショックで彼やリンフィーナの前に二度と顔を出すことができなくなりそうで怖かった。


 一晩中返事の手紙になんて書いたらいいのかを考えていた。


 悔しくて、恨み節を書いてやろうかとも思った。

 けれどまだ恨みを口にするには早い。

 まだ諦めきれない。


『いつか私は絶対にあなたに勝利する。そしてーー』

 そんなことを書いて恥ずかしくなって苦笑し、重ねられた紙を一枚千切って破った。


『少しお暇をいただきます。留守はヨースケに』

 こんな何てことはないことを書き残し、私はラーディオヌ血族の一室で息を引き取った。


 ラーディオヌ一族の総帥である自分が死んだというニュースは、アルス大陸内外に拡散していく。


 それは新たな大陸暦の始まりではないのか。

 もしくは不吉なことではないのか、と勝手な憶測は膨らんでいくばかりだった。


 サナレスは気が付いただろうか。

 留守にするということは、帰ってくるということだ。その約束に気がついて、私をちゃんと待っているだろうか。


 あの人のことだ。

 まさか自分が破り捨てた内容にまで、筆圧を読んでたどり着いてしまっているんじゃあるまいな。そう思うと胸の奥がこそばゆくなった。


 さてしばし、旅に出るとするかーー。

 偽りの神々シリーズ紹介

「自己肯定感を得るために、呪術を勉強し始めました。」記憶の舞姫

「破れた夢の先は、三角関係から始めます。」星廻りの夢

「封じられた魂」前・「契約の代償」後

「炎上舞台」

「ラーディオヌの秘宝」

「魔女裁判後の日常」

「異世界の秘めごとは日常から始まりました」

「冥府への道を決意するには、それなりに世間知らずでした」

シリーズの8作目になります。


 異世界転生ストーリー

「オタクの青春は異世界転生」1

「オタク、異世界転生で家を建てるほど下剋上できるのか?(オタクの青春は異世界転生2)」


 異世界未来ストーリー

「十G都市」ーレシピが全てー


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