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人格形成は環境のせいで19

こんばんは。

日曜の夜、珍しく執筆しています。

また今週もぼちぼち書いていきますので、応援よろしくお願いいたします。

        ※


 超常現象研究部などという不可思議な部に入部したこの日、私は父の職場、国立感染症研究所に足を向けた。

 研究室に入ると携帯など見てはいないだろう父のPCのメーラーに、今日はそっちに行くよと、朝一で連絡を入れていた。


 木杉達は大まかに、部活という高校生の程のいい学生活動の裏で動いている研究の話をすると、早く帰る用事があるという私をあっさりと解放した。


 毎日は参加する必要はないのだと木杉は言った。

 活動は学内の至る所に設置したカメラの録画をモニターでチェックすることらしい。

 あと超常現象が起こる場所は熱を持つことが多く、逆に心霊現象が起こる場所は気温がぐっと下がることが多く、学内にはカメラだけではなく自動で温度を集積することができる温度計も取り付けられているのだと言っていた。


 この世は科学的に何でも解明しないと気が済まないらしい。

 そんな状態では精霊が影を潜めるのは道理だな、と私は苦笑した。


 国立感染症研究所は、新宿区戸山にある。

 以前は3箇所で占めていた研究所だが、4箇所に増え、今では関西に2箇所、東北に1箇所、九州に1箇所ある。


 家族とはいえ出入りが許されるわけではないので、私は研究所の近くのスタバで珈琲を頼み、父がメールに気がついて出てくることを願っていた。


 この国に珈琲が文化として飲み物であったことは喜ばしい。ただラーディオヌ一族のそれとは豆の品種が違うらしく、味と匂いには若干物足りなさを感じている。近い味を探すと、やはりスタバの豆になるのだが、もう少し濃いめに入れてくれればいいものを。


 口に含みながら、私は吐息をついて、隣の書店から借りてきた本を開いていた。

 本は高価なものだったが、こちらでは安価で売られ、しかも買わなくても手に取って自由に読むことができるのだ。


 書店は知識の宝庫で、しかも嗜好品の珈琲を読みながら読むことができるので、父親が気づかなくとも待っていることは苦にならなかった。


 速読法を身につけている私が4冊目の本を手に取ろうとしている時だった。

 この前会った時よりも更に痩せこけて、頬骨の形がわかるくらいになった父が、私の目の前に座っていた。


「待ったか?」

「いえ」

 すっかり熱中していて、父が来たことにすら気が付かなかったくらいだ。


 この店が病院前で商売してくれていることに感謝さえしている。

 そう伝えると、父はこの系列の店は、病院前や病院内によくできるのさ、とふっと笑った。


「何分くらい時間あるの?」

「ん〜、30分と少しくらいかな。ーーなんだおまえ、珍しい本を読んでいるな」

 私の手元に並べられている、心霊現象やオカルトの本を目に留めて、父は少し目を見張った。


 亘という名前の父は、自分の中の印象では、背が高く言葉すくなで、家にいることがほとんどない人だ。自分に似て、ーーというか、この世界では反対か。

 自分は父親似のようで、無表情で抑揚のない様子は一緒にいると誰もが親子だと見てわかる。


「ちょっと興味があってね。珈琲飲む?」

「ああ。ちょっと注文してくるよ」

 そう言って亘は飲み物を買いに行った。

 この店は味はいいが、入れたものを運んでくれないということと、使い捨ての容器というのが趣向に合わない部分である。店内の騒がしさは、イヤホンで音楽を聴いていればいいのだが、と苦笑した。


「珍しいな。お前が私の職場までやってきて話なんて」

 亘は片手でカップを上から持ちながら、テーブルにそれを置くとともに着席した。


「自分のことじゃないよ。そういえばわかる?」

「母さんのことか?」

「うん。だいぶやばい」

 言葉を省略しても、ニュアンスは伝わるようで、亘は唸った。


「一回病院連れて行った方がいいと思う。飲酒の専門外来あるでしょ? 亘から予約入れてよ」

「そうか」

 そんなことになっているのか、とは言わなかった。

 亘の中でも予想がつくことだったらしく、少しも動揺していない。


「わかった。知らせてくれてありがとう。今週末は家に帰る。病院にも連れて行くよ」

 何か虚ろな表情で、亘は言った。

「真由はどうだ? 元気か? ーーお前は? 高校生活はどうだ?」

「真由は相変わらずだよ。友達も多いみたいだし心配ない。私は、ーー私も今日部活に入った。順調だよ」

 亘は、よかったと軽く破顔した。


 こんな仕事人間の父でも、一応子供のことは気にかけてくれているようだ。

 アセスとしての記憶にある父は、ラーディオヌ一族の総帥であり、同じく仕事人間であったが、自分のことなどほとんど顧みることはなく、それに比べれば亘は随分優しい表情をする。


「私達は心配ない。母さんも私達には優しい。でも……」

 そこまで言って、言い淀んだ。


「ああ、わかってる。母さんのことは私が何とかするから」

 亘はコホンと小さく咳き込みながら、プラスチックの小さな穴から珈琲を啜った。

偽りの神々シリーズ紹介

「自己肯定感を得るために、呪術を勉強し始めました。」記憶の舞姫

「破れた夢の先は、三角関係から始めます。」星廻りの夢

「封じられた魂」前・「契約の代償」後

「炎上舞台」

「ラーディオヌの秘宝」

「魔女裁判後の日常」

「異世界の秘めごとは日常から始まりました」

「冥府への道を決意するには、それなりに世間知らずでした」

シリーズの8作目になります。


 異世界転生ストーリー

「オタクの青春は異世界転生」1

「オタク、異世界転生で家を建てるほど下剋上できるのか?(オタクの青春は異世界転生2)」


 異世界未来ストーリー

「十G都市」ーレシピが全てー


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