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人格形成は環境のせいで13

まだ陽が明るいうちに執筆。

今回は異世界転生だけれど逆転生ものとして物語を進行しています。


現代ものを書くので一人称で、視点を変えずで最後まで行けたらなぁ。

        ※


 生まれてこのかた、自己主張するのは苦手だった。


 ラーディオヌ一族の総帥として生まれても、貴族らのお飾りの長として長年暮らしてきた自分は、望むことよりも望まれることを実行するだけで、今覚えば必死だったのだと思う。


 山村悠希として生を受けた今も、前世というのかそういった記憶や呪力を失わずにいたので、不信がられないかだけを意識して、その日その日を暮らしてきた。


 だから自分が何をしたいかなんて考えたこともない。


 アセスとして少しだけ自我が目覚め始めたばかりの私は、だから母に対してまともに意見することすらできなかった。


 山村悠美は何かに悩み、それを払拭するように毎日酒を体内に入れる。


 ーーお酒控えなよ。

 けれど自分が発する言葉の弱さといったら、親不孝なことこの上ない。


 普通の息子だったら、病的になりかけている彼女の飲酒をもっと真剣になって制止するのだろうか。

 それなのに今日も私は、泥酔しきってしまった彼女を、居間から寝室まで運ぶことしかできなかった。


 真由は必死で母親に懇願していた。

『ねぇお願いだからお母さん、もう飲まないでってば!!』


 そう言って実行力のある彼女は、冷蔵庫に入っている酒の全てを流し台に放出したが、そんな一時的なものは通用しない。

 真由も自分も学校に通っていて、その時間母は大量に飲酒してしまうのだ。


 私はここ数日姿を見ていない父の帰りを待っていた。


 土気色になって手を振るわせている母の姿は尋常ではなく、いよいよ彼女の生命に危険を感じてしまったからだ。


 酒は百薬の長だと、世界史で知った偉人が誇大広告を打ったものだが、習慣化する酒の量をどれだけの人間がセーブできていることだろう。


 私は父を待ちながら、サナレスとの対話を思い出した。

『なんだって? アセス』

『だから、その……酒を飲んで神経をぼやかして何になるんです?』

『はぁ……、おまえ酒がなくなればいいって? ーーそりゃ無理な話だ。これほど儲かる仕組みと、国を統治するのに適した美味しい水なんてありゃしない』


 ラーディア一族の次期総帥としては乱暴な言葉で、臣下に聞かれやしないかとヒヤリとする。そう言って彼は心底悪い笑みを浮かべる。


 私は意外そうに眉根を寄せる。

『あなたとても酒を楽しそうに飲んでいますけれど、それを抗弁に使ってはこないんですね』

『あ? 酒をのむ楽しみを取ったら何が残るんだとか言うと思ったの?』

 首肯すると、サナレスはやれやれと肩をすくめた。


『労働ってさ、疲れるだろ?

 だったらそれに見合う対価が必要で、それは日々側にあって、簡単に手にすることができなければいけない。1日の疲れを忘れさせて、眠らせてくれなければいけない。


 でなきゃ誰がクソ真面目に、国のため、人のために働くんだよ。

 人はもっと自由にいたいはずだ』


 サナレスは言った。


『人類は自由を手放したその時に、混沌に落ちる酒という薬を手に入れたんだよ』

 少々嫌なことがあっても忘れられるように。

 常習的に飲まずにはいられなくなるように。

『でも確実に老化するけどな』

『王族でも?』

『貴族の免疫を超えるほど怠惰に飲めば、当然老化するし、死ぬことになるよ。ーーつまり人は死にたいんだ、神と言われる生命でも』


『あなたも?』

『それを聞くな。無自覚でやるから、いいんだよ』


 ずいぶん歪んでいるなぁと思った。

 けれど近頃の母の依存具合を知り、サナレスの言っていたことを思い出し、案外的を得ていると思ってしまった。


 酒はダウン系の薬物で、人の脳神経に作用する。


 あんなことを口走るサナレスもまた、何か酒で紛らわさなければならないことがあったのか?

 今は聞くことはできなかった。


 彼は男で、自制心が強い。


 けれど母は小さくて、完全に酒に飲まれてしまっている。

 このままでいいわけないよなぁ。


 しかも睡眠導入剤を服用しながら、酒を煽って(あおって)いるようだった。

 最近では身なりにも構わなくなってしまっているし、部屋の中も散らかってきている。

 それでも私と真由の朝食と夕食は、たとえ惣菜でも確保しようとしてくれているらしいが、あの様子ではこの日常が続いていく保証はなかった。


 感染症が猛威をふるい、汚染された空気の中で生きる医師の父は忙しく、この日も家に戻らなかった。


 夫婦間はずいぶん前から冷え切っていて、それゆえ悠美は酒に依存した。

 ーーいや。

 そうとばかり言えないことを自覚していて、胸の奥が苦しくなる。


 私のせいかもしれない。


偽りの神々シリーズ紹介

「自己肯定感を得るために、呪術を勉強し始めました。」記憶の舞姫

「破れた夢の先は、三角関係から始めます。」星廻りの夢

「封じられた魂」前・「契約の代償」後

「炎上舞台」

「ラーディオヌの秘宝」

「魔女裁判後の日常」

「異世界の秘めごとは日常から始まりました」

「冥府への道を決意するには、それなりに世間知らずでした」

シリーズの8作目になります。


 異世界転生ストーリー

「オタクの青春は異世界転生」1

「オタク、異世界転生で家を建てるほど下剋上できるのか?(オタクの青春は異世界転生2)」


 異世界未来ストーリー

「十G都市」ーレシピが全てー

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