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発現


 青年はただ暗闇を歩いていた。何処までも広がる闇、自分が誰でどんな家族が居て友人が居たのか、そんな事も忘れてしまった。そんな分からない世界。


 だが、青年はそんな暗闇を歩く。先に何があるかなんて知りもしない。ただ、何かが自分に囁くのだ。「先に進め、抗え」と。


 だから歩く、この際何が囁いているかだなんてどうだっていい。


 自分は知りたいのだ、この先に何が待ち受けるのかを



「……─!」


 何かが自分に呼び掛ける……

「ね……け─!」


聞き覚えのある声、彼女の名前は確か……

「起きろ! 寝坊助っ!」


 その言葉がハッキリと聞こえると、突然、頭痛が俺を襲う。


「……──っ!」


 俺が頭を抑えながら起きると、目の前には空色のショートの髪が目立つ少女が頬を膨らませてこちらを睨んでいた。

「ちょっと、いつまで此処で寝てるつもり!ずっと、探してたんだよ!」


 彼女はミア、村にいるごく普通の少女で俺の幼なじみだ。普段、彼女はこの昼の時間は家で父親の手伝いをしている筈なのだが……


 俺はミアに呆気に取られた顔をすると、ふと我に返り周りを見渡す。そしてミアがこの場に居る理由が直ぐにわかった。森の木や草が全て朱色に染まっている、森の夕方だ。

「っ! 何で来たんだっ!!」


 そう言うと俺は急ぎ彼女の手を取り走る。この事態の深刻さは自分がよく分かっている、本来なら腕利きの狩人が少人数で来る程の事だ。夕方はモンスターが活動を始める時間帯。特に森の少し深い所は魔獣などが獲物を探して動く時間帯だ。

「ミア!まだ走れるか!」


「う、うん! 大丈夫!」


 ミアは辛そうな顔をしながらも頷く、それもそうだ、山に住む村娘だとしても結局は小さな女の子だ。それに日頃山に入る俺でさえも少し辛い。

「ミア! 雑になるっ! 我慢しろよっ!」


「キャッ───!」


 俺はミアを担ぎ、急いで森の外へと走る。徐々に暗くなる森が更に俺を焦らせる。


 息が詰まる。


 森の外まであと少し、と言う所で足に何かが突き刺さり、足に激痛が走ったが、何とか走り何とか外まで持ちこたえた。


 脱力感が一気に押し寄せ俺は崩れ落ちる。そんな俺を見てミアは急いで俺の肩を取り、村へ向かう。


 足が動かない、視界がぼやける。


 そんな中数名の大人の足音だけが聞こえる。

「ミア、クロノ君! 大丈夫か!」


 ミアの父親だ。そして、辛うじて見える視界の中で森を睨む父親と狩人の姿が見えた。俺は後ろの森へ目を向けると、赤く光る目が無数こちらを見ていた。


 もし、少しでも遅ければなんて考えると、ゾッとする。

「お、俺がもっと気を使っていれば……」


「そんな事より! クロノ君、大丈夫か! 

その足! 酷い怪我じゃないか! 早く私の家に!」


 ミアの父親に誘導された親父は何も話す事もせず、俺に肩を貸すとミアの家へと運び込んで行った。



 あの後、俺は村でたった一人の医者であるミアの父親に処置してもらい、痛みを多少抑えてもらった。その治療を見届けると父と他の集まった狩人は万が一に備え、すぐさま家から出て行った。


 そして俺は、明日までは安静にした方がいいと言われたので、人が居るミアの家で今は厄介になっている。

「そう言えば、クロノ君。君に聞きたい事が一つあるんだ」


 ミアの父親が聞きたい事なんて一つしか、俺は思い当たらない。


「どうして、今日森の中に入ったんだい?君は森に関してはバランさんからよく教えていて貰っていたよね?」


 バラン、森の情報に関してはこの村で右に出る者はいない、俺の父。


「知ってますよ! 今日は森の生き物が活発化する日、赤い日なのは」


「ならどうして!」


「……分かりません」


 思えば俺は自身の家で寝ていた筈、でも気付いた時にはあの森の中にいた。

「俺は……」


あの時、俺は森で何をしていたんだ……?

「もしかして、覚えていないのかい?」


「す、すみません。起きる前の事はよく……」


「……わかった。今回の事は私から話をつけておく。だが、今後ミアをこんな事態に巻き込まないでくれ。頼む」


 ミアの父親は頭を深く下げる。

「……今後、気を付けます」


「ありがとう、クロノ君」


 ミアの父親はその言葉だけを残して部屋から出て行った後、クロノは急に疲労感に襲われ気絶する様に深い眠りに入った。



 夢を見た。森の中で長い白銀の髪の少女が見つめていた。そして笑顔で呟いた「見つけた」と、まぁなんとも言えない夢。


 そして、無駄に現実的な夢だ。手を出せば、触れてしまいそうな程に……


 本当に最近はよく奇妙な夢を見る。


 俺は身体を起こすと治療の施された足を触るが痛みは無く特に問題はなさそうだ。


「親父に会いに行く位なら動いてもいいよな?」


 そう呟き、クロノは親父が居るであろう家へ向かって行った。


 朝早くという事もあって、村には人が余り少ない、いたとしても顔見知りの狩人が獣の後処理を済ませている。


 クロノは軽く会釈を済ませ、なんの問題もなく家へ辿り着いた。


 幸い、家の鍵は開いていた、俺は中に入り辺りを見る、机には剣が置かれ、弓が無い所を見ると、多分親父は狩りに出ているのだろう。


 俺は閉じてある窓を開け、外を見る、空はまだ少し暗く、涼しい風が身体を撫でてくれる。そんな風は眠気を再び誘う。


 クロノは自室に向かいベットへ横たわり、目を閉じる。


 鳥の歌声が心地いい。


 だが、そんな穏やかな時も一瞬にして恐怖へと変わった。


 聞こえる筈のない剣の交わる鈍い音が耳に流れ、痛み、絶望し、そして亡者となる。


 聞き慣れた音。


 戦争の記憶だ。


 分からない……いや、これは俺自身の記憶、人に情などいらない世界。


 弱い者には死、強い者には生が残る、単純で残酷な世界。


 よく分からない。


 夢に出ていた男性、それは赤の他人じゃなんかない。俺自身、人を躊躇なく殺め、敵国の罪のない人を斬り捨て最前線に立つ老兵……


 私は最後、死を迎えた。こうしてまだ生きて居るなど信じられない。


 例え、魔法だとしても、そんな魔法は聞いた事もないし、魂を器に移す魔法など、人間なんかが出来る芸当とは思えない。それこそ、神の力に等しい物になるだろう。


 だが、死ぬ直前の記憶がまるでさっき起きたかのような程、鮮明なのは吐き気がする。前世の記憶、そして今の記憶。


 あまり、考えないでおこう。

「……少し、調べる必要があるな」


 クロノはその場を後にし、ある所へと足を進めた。



 少し村から離れた小さいこの森の中に見える、気味の悪い家がある。

この家は占い師の老婆が住んでいる。

いつから居るのかは知らない。ただ、村に出向いては何かと助言を伝え去っていく。好き勝手な婆さんだと言う事。


 だが、確実なのは婆さんの占いは良く当たると言う確実性だ。


 だからここを訪れた。


 俺はノックもせずに家の扉を開ける。


中には葉や木の実、そして動物やモンスターの頭蓋などが吊り下げられ、奇妙の臭いのする薄暗い場所。

「占い婆!いませんか!」


「は、はい?ここに」


 占い婆は布に身を包み、カウンターの様な場所で座っていた。


 そして、その占い婆の真ん前にはガラス玉が胡散臭く置かれている。

「おや?これはこれは、クロノ君じゃないか。どうしたんだい?こんな所まで、いつもなら、家で寝ている頃じゃないのかい?」


「いや、そんな事より今は占って貰いたい事があるんだ。俺について」


「ん?何を言っているんだい?儂は以前、君を占ったばかりじゃないか、おぬしの人生は20歳を迎えた時に運命の女性と出会い円満な家庭を築き上げる物だと……」


占い婆はそう呆れ呆れだが、ガラス玉を覗き込み目を丸くする。

「そ、そんな馬鹿な!こんな事が起きて言い訳っ!」


どうやら、過去の記憶が発現した所為で占いが変わったと見ていいだろう、なら見える運命も違う筈だ。

「占い婆何が見える?」


「……」


「占い婆?」


「……これはやむを得ないわね」


占い婆は魔法の時に使用するマジックステッキをこちらに構え呪文を唱えた。

だが、その言葉に用いる呪文はヒューマンの物では無く、明らかにエルフ族の言葉だった。

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