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4(終)

冬が去り春がきた。

温かな日差しと薄緑の樹々に見送られるようにメルシィさんとパズさんの旅立ちの日がやって来た。

彼らとの共同生活は短いけどとても楽しく、また刺激的なものだった。

穴蔵の中で引きこもっているだけでは分からない事が世の中には存在する事を理解した貴重な3週間だったと思う。


「お世話になったわね、ワユカちゃん、ニムくん。会えて良かったわ」


「本当に行っちゃうんですか……? 危ないですよ」


手を振るメルシィさんを分かっていても私は引き留めてしまう。

でも彼らを引き止める事など誰にも出来ないだろう。

……わかっていたことだ


メルシィさんは首を振りながら優しい笑みで私たちに語りかける。


「私たちは旅を続けるわ。あなたたちのような友達に会うために。ここでの出来事も旅先で語り継ぐわ。そのずっと向こうでも新しいお話を。そうやって私たちは世界を繋げるの」


それは世界中の人たちを繋げる旅だ。

意味があるのかどうかは分からない。

でも、私たちは彼らと過ごした日々を忘れない。

それが彼らの旅の答えなのだろう。


私とニムは顔を見合わせると笑顔で彼らを送り出す。


「素敵な事ですね……」


荷物をバイクに詰めた彼らは最後に振り返り手を振った。

私たちも旅立つ彼らに向けて力強く手を振り返した。


「お元気で」


「君たちも元気でね」


ボードによると、彼らの無謀な旅の5年生存率は10%以下だと言われていた。



……3年後に彼らが行方不明になったと知らされた私たちは数日ものが喉を通らなかった

でも彼らが遺した旅の日誌はボードにより管理されており、私たちは泣きながらそれを読み返した。

人類を繋げると言う彼らの旅は意味があった。

私たちは彼らの遺した日記を読み終えたあとはそう確信していた。











『聞こえるかい、ワユカ』


「聞こえてるわ、ニム。エンジンも安定してる。計器にも異常ないわ」


計器の横のスピーカーから聞こえるニムの声に私は無事を伝える。

コクピットには暗い黒い宇宙の空が果てしなく広がっていた。


『どうかな? そこから見える地球は』


私は少し考え込み、窓に映る地域を見つめ笑いながらスピーカーと小さなモニターに映るニムにこう答える。


「月並みだけど私のように宇宙に出た昔の人はこう言ったらしいわね。引用させてもらうわ。『地球は青かった』」


私が乗っているこの宇宙船は私に内緒で地下でコツコツとニムとボードによって開発されたもので15年越しに完成されたものだそうだ。

サプライズで先日私の誕生日にこの船がプレゼントされた時は私はただただ唖然としたものだ。

数ヶ月の訓練を受けた私はこうして今、宇宙船に乗り込み大海へと漕ぎ出している。

第一弾の航海である今回はまず月面着陸が目標である。


笑い声と共にニムの返事が返ってきた。


『良かった。ご機嫌だね、ワユカ』


「当然よ、ニム。長年の夢を叶えてくれてありがとう。それでそろそろ愛する私たちの子ども達に代わって欲しいわ」


ニムは少し拗ねたようにモニターの外の私たちの愛する子どもたちを手招きする。


『……ちぇ、子どもたちができてからはワユカの一番は子どもたちだよね』


「妬かないでよニム」


あれから私とニムの間には一男一女の子どもたちができた。

とても可愛い子どもたちだ。

他のコミュニティーでも第二世代の人類が生まれ始めているらしい。

人類はこれから少しづつ増え始めるだろう。


スピーカーから可愛らしい声が聞こえてくる。


『お母さん、元気なの?』


『お母さん! お母さん! 僕、月の石が欲しい!』


モニターを見ると小さな男の子と女の子が私の顔を覗き込むように見つめてくる。

まるで星の光のように綺麗な目だ。


「はいはい、ミユガー、テサル。一週間程でお母さんは帰りますからね」


そうして子どもたちと宇宙について語り始める。

彼らも私に負けず劣らずの宇宙マニアなのだ。


そして、ふと男の子のミサルが本を片手に真剣な表情で問いかけてくる。

彼が最近とても関心を持って取り組んでいる研究・・の一つであり、地球人類の永遠のテーマだ。


『お母さん、人って地球にしか居ないのかなあ? 宇宙ってとんでもなく広いのに』


「そうね…… ボードの計算によるといないって言われてるわ。昔の偉い学者たちもそう言ってるわね」


私のその返答に眉根を寄せながらテサルは残念そうに手元の本を閉じる。


『……つまんないね、いた方が面白いのに』


「そうね、私もそう思うわ。でもね、発見や新体験っていうのは計算だけじゃ解明出来ないこともあるのよ」


窓の外の星を見つめ、星座を探しながら私は少し空想にふける。

……あれは彼らと見た冬の大三角だ


テサルは不思議そうな顔で私に問い返してきた。


『お母さんは宇宙人が居ると思ってる?』


「私は居ると思うわ」


会える、と思っている事に価値がある。

見えているものに辿り着きたい、と思っている事に価値がある。

彼らが教えてくれたことだ。


「そしていつか会えると思ってる」


いつか会いたい、私が会えなくても数世代後の地球人が宇宙人に会えますように、と祈りながら私は再び冬の大三角を見つめた。

最後までお読み下さりありがとうございました。

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