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合流した私たちは急いでアンドロイドを駆使し2人を基地に案内すると、パズさんを集中治療室に運んだ。

心配そうに涙ぐむメルシィさんを慰めながら2時間ほど経つとアンドロイドからパズさんの応急処置が済み、危険域を脱したという報告が入った。

モニターに映し出される治療液に浸かり眠るパズさんを見つめながらメルシィさんは私たちの顔を見ながら礼を言った。


「ありがとう。パズが負傷して気を失って困り果てていたところなの」


私たちはとんでもない、と手を振りながら胸を撫で下ろす。


「傷口が化膿して、それが熱の原因みたいね。生命には別状はないみたいだわ」


ニムもソファに深く腰掛け緊張を解く。


「パズさんが治るまで、いや治った後も良かったら好きなだけこの基地で過ごすといいよ。元の基地に帰るのを手伝っても構わない」


メルシィさんは私たちが貸し出した毛布を肩に羽織り、その長い金色の髪を撫でながら運ばれてきたスープを一口飲んだ。


「ありがとう。私はノルン基地から来たメルシィ。治療を受けてるのがパズよ。彼は2日前に獣から私を守る為に負傷してしまって…… あなた達が見つけてくれなかったら私たち……」


「いいえ、困ってたら助けるのは当たり前だとボードから教わったわ。

……改めてあいさつするね

私はワユカ。ラタク基地の第一世代。

こちらは番いのニム。

ボードからあなた達が基地を脱出したと聞いて驚いたわ」


ひと段落した私たちは彼らの真意を尋ねることにした。

いったいどうしてボードの恩恵を捨て旅に出ようなんて思い立ったのだろうか。

メルシィさんは顎に指を当てながら思い返すように語り始め、そして懐から小型のデバイスを取り出して何枚かの写真を私たちに見せてくれた。


「大変な旅だった……でも楽しかったわ。見て、これが旧人類が暮らしていたという都市の跡地よ。目を凝らさないと解らないほどの瓦礫しか残ってないけど。私たちはこういうものを探して旅がしたかったの」


そこには蔦が絡まった錆びた鉄骨だったり、草原に佇む石垣の跡が写っていた。

私たちはじっとその写真を見つめる。

興味深いし、いい写真だとは思うけどやはり危険な旅に出る理由としては理解はできなかった。

私はふと尋ねる。


「こんなに危険な目に遭っても?」


メルシィさんは柔らかな笑顔で私の目を見つめ返した。


「そうよ。私も彼も後悔なんてしてないし、パズが治ったらまた旅を始めるつもりよ」


「どうして……」


うん、と小さく頷きながらメルシィさんはリビングを見回し、手を広げる。


「……ここはそこそこ広いし衣食住始め何でもあるわよね。

私たちも生まれた時からここと似たような基地で育ち、それぞれの趣味を持っていました。

つがいとして生涯を共にする運命もそれで良しとしていたわ」


だったら何故……?

という表情を読み取っていたのだろう。

メルシィさんは私たちの反応を見越していたかのように続ける。


「見たくなったの。先人達が住んでいた痕跡というやつを。

そして会いたくなったの。遠いところに居るという友人たちに」


……ますますわからない


「……それはそんな危険な目に遭ってもやることなの?」


メルシィは飲み干したスープをテーブルに置いて深く頷く。


「やる価値はあると思ってるわ」


うーん……、と困惑したようにニムは額を手で抱え考え始めた。

私も似たような考えだ。

せっかくの安全を捨ててまで続けるほどのことだろうか?


そんな私たちの様子を微笑みながら見つめメルシィさんは「そんなに深く考えるほどのことじゃないわ」と言った。


「そうね、そのうち理解してもらえると嬉しいわね。そして本当にありがとうね、しばらくお世話になります」




それから数日が経ちパズさんが完全治癒した。

白い長い髪を伸ばしたその青年はニムよりも高身長で、やはり旅に出るなんて突飛なことをするだけありエネルギッシュな男性だった。


「やあ、2人とも本当にありがとう。君たちは命の恩人だよ。メルシィも心配かけたね」


それからお互いの基地で今までどんな暮らしをしてきたのか、研究をしてきたのかという話になるとパズさんは生き生きと自分の専門分野について語り始めた。

特に彼は人体生理学に詳しく、筋肉について語り始めると遂には上着を脱ぎその鍛えられた肉体を披露する。

何故だか分からないけどその時私の頬が熱くなった。


「これが僧帽筋、そして三角筋。好きなものばかり食べてたら栄養バランスが崩れてしっかりとした筋肉がつかないんだよ」


そうして延々と「良質な筋肉の作り方」について語り続けるパズさんをメルシィさんは真っ赤になって叱りつける。


「パズ! 女の子も居るのよ! 脱いじゃダメ! 失礼よ!」


そうして手渡された上着を手早く着ながらパズさんははっはっと笑う。


「おっと、ごめんよ。なにぶん僕たちはずっと穴蔵に引きこもって来たもんだからね。旧世紀でいうデリカシー、とかいうのか? そういうのもわからないんだよ」


それから数日間、とりあえずパズさんの体調が安定するまで2人はこの基地に留まるということで私たちはまた色々とお話をした。

2人が来てからの数日はまるで色が付いたように賑やかな毎日だった。

似たような境遇なのに考え方も今までの過ごし方や専門分野も何もかも違う。

同じ人間なのになぜこれ程まで違うんだろうと思う。


ある日、私は2人を誘って念願の冬の大三角の観測パーティーを4人で開いた。

2人は旅の空で見飽きてるかも知れないけど、私の詳しい解説と温かいお茶とお菓子つきで夜空を眺めるとまた違ったものが見えてくるはずだ。


「あれがデネブ、アルタイル、ベガ。旧世紀では冬の大三角と呼ばれていた星座よ」


小高い丘に防寒シートを広げ、思い思いのスタイルでそれぞれが星空を見上げる。

そして、私が数々の星座の由来や古い神話を3人に語り始めた。

「ごめんね、こいつ星の話になると止まらないんだ」というニムの小声を聞こえなかったことにしながら私は星座を語り続ける。

幸い、2人は笑みを浮かべながら私の話を興味深く聞いてくれているようだった。

白い髪をゴムで束ねたパズさんが面白そうな笑顔で付き添いのアンドロイドに紅茶をお代わりする。


「へえ…… ワユカは旧世紀なら宇宙飛行士か天文の研究者になってたかもしれないね」


「……そんなこと考えたことなかった」


そうか、旧世紀ではそんな職業もあったなあ、とテキストの一節を思い返す。


「じゃあ、これからは考えてもいいかもしれないね。ワクワクしない? 宇宙船を作ってこの空へ旅立つ自分を想像すると」


メルシィさんが星明かりに照らされた金色の髪をたくし上げ、面白そうな笑みを浮かべながら私の目を見つめていた。


「そうですね…… 本当にそんなことが出来るなら」


でもそんなリソース残っているのかな……

私が宇宙へ上がる有用性は……?


そんな計算と理想を頭の中で天秤にかけながら私は暫く仰向けになって瞬く星空を見つめる。


「……いってみるのも悪くないと思います」

すいません、3話予定でしたが次話が最終回です

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