5.凶暴な奴だったら、お前でも楽しめるだろ?
世間一般で『時給』という単語は、主にパートタイム労働者に与えられる一時間あたりの給料、という意味が一般的であろう。
しかし、これがネットゲームだと、一時間あたりの収入ではなく、獲得経験値を表すことが多い。
例としてはーー砂漠は時給350kーーなどという使い方をする。(kは1000を現す単位)
とにかく『時給効率』というものを追い求める『効率厨』と言われるプレイヤーが少なくない数存在するのだが、裕翔には、効率という言葉からは無縁だ。
もっとも、『仮想現実世界において自分で目標を立てて活動する』ことが、VR生活課題の主題なので、裕翔がユニヴェールでどう過ごそうが、本来誰からも文句を言われる筋合いなどない、はずなのである。
ーーそのはず、なのだが。
それをあまり良く思わない者もやはりいるわけで。
「おい、如月。」
昼休憩、裕翔が一人で弁当を食べていると、クラスの陽キャグループのひとり、柔道部副主将である桂重四郎がその巨体でのしかかるよう顔を近づけて声をかけてきた。
「何? リアジュー。」
重四郎は、その熊のような野生的な風貌で、あまり丁寧とは言えない口調で話すので、クラスメイトから『まさに獣』ということで、『リア獣』というあだ名で呼ばれている。
しかし、彼は見た目通りの乱暴な性格ではなく、実は思いやりのある少年である。
ちなみにクラス内に佐々美波という恋人もいて『リア充』でもある。
「お前も一人で引きこもってばっかいないで、たまには攻略手伝ってくれよ。」
「手伝えって言われても、俺小妖精だから弱いぞ?」
そのセリフが裕翔以外のものなら、普通は納得されるものなのだが、重四郎は、呆れた顔で反駁する。
「何言ってるんだ如月。お前、クラスで一番遠距離戦闘スキルが高いだろうが。」
そう、戦闘行為が不利な種族のくせに一年次にはひたすら強敵とのバトルに明け暮れた裕翔のキャラクターは、実は学年でもトップクラスの戦闘力を誇る。
種族のハンデを、育てたスキルランクと、鬼畜難易度のレトロゲームで培ったプレイヤースキルで補う裕翔の戦い方は、生産向きの種族なのに非効率なプレイをすることへの揶揄も込めて『非生産的行為』などと呼ばれたりもする。
「でもなぁ、俺、死ぬ危険がないような安定の狩場はつまんないから嫌なんだけど?」
何度となく繰り返した文句で重四郎の誘いを断ってきた裕翔だったが、不敵な笑みを浮かべて重四郎の次のセリフに、目の色が変わった。
「お前がそう言うと思って、今日はとっておきの話を持ってきた。」
「お、なんだ?」
「リトス平原で、先輩たちの情報にはなかった湖が見つかったんだよ。」
「マジかよ。俺リトスは、もう隅々まで踏破したと思ったのにな!」
案の定話に乗ってきたことに満足し、さらに裕翔の興味を引くような情報を提供してくる。
「釣りスキル持ってる奴が軽く試してみたんだが、何かデカいのがかかった途端、糸ブチ切られてた。」
「ほうほう。そりゃいいな。」
裕翔の食いつき方は、まさに餌を目の前にした魚のようだ。
「如月、釣りスキル上げてただろ? お前なら釣り上げられるかもと思ってね。んで、今まで見たことないような凶暴な奴だったら、お前でも楽しめるだろ?」
「ああ、わかった。じゃあ、色々準備して行くよ。何時にどこに行けばいい?」
気が早っているのか、重四郎に声をかけられた時にはまだ半分以上残っていた弁当の中身はすでに空っぽだ。
「正午の鐘が鳴ったら、ジュピテール王都の東門前に集まってくれ。リトスには、美波がワープゲート開ける。」
重四郎の恋人は、移動魔法など空間に関する魔法が得意な種族だ。
「じゃあ如月、またユニヴェールでな。」
「オッケーリアジュー。」
「よーし待ってろよ、未知の怪魚! 即死攻撃とかしてくるかなー? 食らったら二度と復活できないみたいなバグったことしてこないかなー? そういうのを紙一重で躱して反撃するのが醍醐味なんだよなー。」
久々の強敵とのバトルの予感に、若干危ない発言が飛び出る裕翔だった。
ーーそれが現実にまさかなろうとは。
リア充の登場です。
ネット生活が充実してる人は何と呼んだらいいのでしょうか?
ネト充?
次回からいよいよデスゲームの始まり?
ブクマ、お星様応援してくださる方に感謝!