4.ヌルゲーで荒んだ心が洗われるようだ
如月兄妹が住む一軒家の隣には、兄妹の祖母が一人で住んでいる。
裕翔は、幼い頃からよく入り浸っていたので、祖母からはとても可愛がられていた。
妹の結海も、勿論兄と一緒に遊びに来ることはあるのだが、それより頻繁に訪れる人物がいる。
「おばあちゃんこんばんは。お邪魔しまーす。」
夕食後、鍵などかかっていない玄関の引き戸を開けて隣家に入った裕翔は、予想外なことに二人から挨拶を返される。
「裕翔や、いらっしゃい。」
「裕翔くん、こんばんは。お邪魔してます。」
「あれっ、芽衣。どしているの?」
紫陽花学園の制服を纏って居間に馴染んでいた奥沢芽衣と裕翔は、二人が小学校一年生の頃からの幼馴染みである。
入学して初めての席替えで隣になったことから仲良くなったという、ありふれた出会いだ。
もっとも、小学校入学まで当人同士の付き合いが無かっただけで、家同士はとても近所にあり、親同士はそれ以前から交流があったのだが。
かつては、雨で外で遊べない日などは、裕翔は芽衣を自宅ではなく、祖母宅に招待していた際、芽衣は祖母から料理などを教わっていたので、思春期を迎え裕翔と芽衣が二人で遊ぶことがなくなった後も女性二人の交流は続いていた。
「帰りに通りがかったら、たまたまおばあさまとお会いして誘われたの。お夕飯御馳走になっちゃった。」
「おばあちゃん、いきなりそんな無理なこと言って……。」
「たまには人と話しながら食事したくなるものさ。最近は裕翔も結海もあんまりご飯食べに来てくれないからね。」
「はぁ、まぁそうだけど。」
まるで悪びれることもない祖母の様子に、仕方ないな、とばかりに肩を竦めてみせる裕翔。
そんな二人の様子を、芽衣は『天使の微笑』と学園内で噂される微笑みで見守る。
彼女のことを『姫』と陰で呼ぶファンすらいるらしい。
玄関を施錠していないことや、よく知った仲とは言え無遠慮に自宅に引き込んでしまう祖母の様子から、どうもこの家だけ世間とは違う時間が流れているようだと裕翔は思う。
結海も優しい祖母のことは勿論好きなのであるが、そんな前時代的な雰囲気は肌に合わないのか、それほど積極的にはこの家には寄り付かない。
もっとも、ここに芽衣がいることを知ったら、どうしておばあちゃんの家に結海も呼ばないんだ、と憤慨することは間違いないが。
そして、裕翔が祖母宅に入り浸るのには、実は祖母の存在よりも大きな理由がある。
それは、ゲームに対する、現在の彼のスタンスを形成するのに大きな影響を与えたものだ。
「おばあちゃん、今日もおじいちゃんのゲーム借りるよ。」
そう言って亡き祖父の書斎に向かおうとする裕翔だが、ふと振り返って芽衣に言う。
「久しぶりに芽衣も一緒にやるか?」
裕翔の誘いに、芽衣はちょっと困った顔をしながら答える。
「うーん。裕翔くんがやるゲームは、あたしにはちょっと難しすぎるから、後ろで見てるね。」
そんな芽衣の様子に、裕翔は少し何かを考えたようだが、やがて納得したらしく、不敵な笑みを浮かべながら言った。
「わかった。よし、今日こそアレをクリアしてやるぜ。」
「うん、頑張ってね。裕翔くん。」
芽衣は、そんな様子の裕翔に向けて小さく胸の前で拳を握ってみせた。
ーー一時間後。
今は骨董品に近いテレビの画面上に、安全地帯にいたはずの主人公が突然ボスキャラと重なる位置で爆散したことにより、この日八回目のゲームオーバーの文字列が表示された。
どうも、ボスキャラの苛烈な攻撃により画像処理が追いつかなくなり、裕翔がほんの少し主人公を移動させるつもりで操作したものが処理された時には、まるでワープしたかのように大幅に移動していたのだ。
ビデオゲーム黎明期のゲーム機の処理能力の下では、比較的よく起こった現象である。
そんな理不尽を被った裕翔の表情は、しかしとても晴れやかだった。
「はぁー。やられたー。」
「裕翔くん、ゲームオーバーになったのに嬉しそうだね?」
ハラハラしながら裕翔のプレイを見守っていた芽衣は、そんな彼の様子に不思議そうだ。
「そりゃそうだよ。やっぱりさ」
裕翔は、心底満足したような顔で前置きし、言った。
「レトロなクソゲーは最高だな。ヌルゲーで荒んだ心が洗われるようだよ。芽衣。」
芽衣は、そんな裕翔の無邪気な笑顔に、学園内の男子を魅了している『天使の微笑』で答えた。
幼馴染みの奥沢芽衣が登場です。
こんな天使のような子がまわりにいたらいいのになぁ。
あと1回か2回でプロローグは終わり、デスゲームが始まるかと思います!
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