水不足
焼けつくような喉の渇きで望は目を覚ました。体は火照り、荒い呼吸をしている。熱中症―――水が足りないことが原因だ。
『≪仮想脚≫だとおそらく水を見つけるまでに体力が尽きる。手だけで動こうにも力が入らない。不味いな。非常に不味い。』思考は段々と鈍ってくる。
「≪ウィンドブレード≫!≪ウィンドブレード≫!」
魔法を使おうにもイメージが固まらず、簡略化した詠唱が必要で同時発動は不可能だ。
魔法陣を複数同時にイメージすることで、2つ以上の発動ができるのだ。脳内容量の量に依存するので使えなければ意味のないテクニックである。この場合は水分不足とそれによる電解質の濃度過多及び汗の不足による超過熱による思考能力低下でイデア量が減少している。早い話が妄想力・想像力といったモノだ。
「ウィンドブレード!ウィンドブレード!」丸太を切って車輪を作り、それに乗って移動することを驚異的な発想力で思いつく。だがしかしすでに意識は朦朧としていて、一回余計な個所を切断していることにも気づいていない。
「《ウィンドスピア》ウィンドズ――ゲホッゴホッ」もはや詠唱さえ形になっていない。痛む喉元まで血が上ってくるような感覚に襲われながら、それでも生きるために足掻きを続ける。
「《ウィンドスピア》」
やっと車輪を作り終えた。震える手で軸を通し、すぐさま移動を始める。
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幸い、物の二分で渓流についた。火事場の馬鹿力か、あるいは「おちるううぅぅうう」下り坂だったからか。おそらく両方だろう。「死ぬ死ぬ死ぬううう」川の周辺は水の浸食作用によって「ぐっ」『硬いものに当たったよ今!?』谷間になっている。「ぎっ」『痛ェ』上流に近い場所ほどごつごつした岩が多いので、ここは中流付近だろう。「ガハッ」おっと、そろそろ望の様子に戻ろう。
満身創痍で谷底についた。すぐさま口をつけて川の水を飲む、この際雑菌とか煮沸とか気にしている場合じゃない。ゴクゴクと喉を鳴らす音が大きく響く。時折エホエホせき込みながら、久々の水が喉を通過する感覚に身を震わせた。
口いっぱいに鉄の味がする。全身に切り傷と打撲で、着ていた服はボロボロでところどころに赤黒い染みが付き、おまけにずぶ濡れ。使った車輪は大破して使い物にならない。川の一角が赤く染まり、そんなところでじかに口を付けて飲んだらそりゃ血の味しかしないはずだ。
「《ファイア》ささざさ寒サムさぶいぃいい」ガタガタガタ
暖を取り、失った体力の回復を待つ。体温は下がり切って貧血に陥った体は少し温めたくらいじゃ如何にもならないけど、何もしないよりはましだ。少なくともただ低体温で死ぬ濡れ鼠になるよりは。
もちろん、水場で血の匂いを漂わせている状況で、上位の捕食者がやってこない訳がない。
休息の時間は終わった。突如として火が消えた。拳大の水球が上の方から飛んできたことで、炎がかき消されたようだ。息をつく間もなく、石の弾丸が襲ってくる。望の右腕に切り傷が増えた。
攻撃された方向に目を凝らすと、真っ先にそれと分かったのが
[watar][100][][][brain][sphere][]
魔方陣だ。中央から火を消した水球が飛び出した。身をよじって回避すると、今度は別の魔方陣が描かれた。
[earth][100][][][brain][bullet][]
とその直後、足元いや腹元?の石に弾丸が撃ち込まれた。
『あっこれ無理ゲー』すでに絶望的な状況なのに、何を今更?
―――――――――
敵は一体。おそらくこのまえの【ゴブリンソーサラー】の上位種だろう。
【ゴブリンウィザード】(仮称)の手は《ウォータースフィア》(安直ネーミング)と《ストーンバレット》(直球式命名法)が分かっている。こちらは谷底、相手は上から魔法を撃ち込んできていて、相手に圧倒的有利なフィールド。
・・・。・・・・。・・・・・。ドシュ!
―――うん、逃げよkバシャ!
どうやら、応戦しないとダメなようだ。さっき見て盗んだ《ストーンバレット》を敵の方に向かって打ち込む。シュン―――パキィィィン「ギャ!(ソコダ!)」見当違いな方向に飛んで行った石は、盛大に音を立てて対岸で爆散した。結果、更にゴブリンが集まってきた
_人人人人人人人人人人人人_
> 敵の増援\(^o^)/モウヤダ <
 ̄Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y ̄
しっかり狙わないとダメなようだ。後悔先に立たず、もうおうちかえりゅううううう!!!
また切り傷が増えた。今度は魔法ではなく矢によるものだ。下手に撃つとまた音で余計ゴブリンが集まってしまう!こうなったら「高度戦略的一時撤退いぃぃいいぃ!」逃げるのみだ!
――――15分後――――
「やめてこっち来ないでイヤあああああああ!!!」
「多分拠点はこっち…だと思う…」
「グギャググギャ?(ヨンダカ?)」
「お呼びじゃないです帰ってください~~~!」
――――30分後――――
「ここは何処?」
「ガギャ…(ハグレタ…)」
「どうしよっかなぁ…」
「ギャァガギャ?(ナカマ?)」
――――1時間後――――
「グ・・・ギャ・・・(止マルンジャネエゾ・・・)」
「団長?何やってんだよ?団長ォ!!」
「あっ違うんです、僕がやったんじゃないです。えっ問答無用?話せばわかるってうおお」
「逃~げるんだよぉ~」
――――2時間後――――
昔の偉い人は言った。「兵法三十六計逃げるにしかず」と。なんかの漫画で見た。「逃げてもいい。逃げた人は、もう一度戦えるから」と。でもこう思う、「そもそも逃げ切れる保証がない強敵には立ち向かおうとした時点で手遅れだ」と。
どうも。黎明望、16歳。只今、ゴブリンから逃げています。
現実逃避もつかの間、左から弓矢、右舷後方からは魔法が迫ってきている。
[fire][100][][][brain][blade][]
「≪ファイアブレード≫おおおおお」
新たな魔法を0.5秒で作り出し対処。《仮想脚》のおかげで少しずつ距離は開いていく。が、敵には飛び道具があるので一進一退の状況だ。
作成した魔法は両手では数えきれない。先ほどの《ファイアブレード》以外にも、《ファイアスピア》《ファイアバレット》《ファイアスフィア》《ファイアボール》《アイススピア》《ウォータースピア》《ウォーターブレード》《ウォーターバレット》《ストーンスピア》等の魔法を作り、スフィアより飛ぶが制御がやや難しい球を作る[ball]の術式を見つけた。
――――――――
どれくらいの時間が経ったか分からない。体力が底をついた。≪仮想脚≫が消え、望はその場に転げ落ちた。目を瞑り、喰われることに備える。
『ああ、僕はもうダメなのかもしれない。あの決意は何だったんだ?死なない、ただそれだけなのにどうしてこんなにも難しいんだ?畜生、畜生、畜生!人はいつか死ぬ、でも今じゃなくたっていいだろ』
予想していた痛みは来なかった。恐る恐る目を開け、周りを見るとすでにゴブリンの姿はなく、遠く木々の向こうには自分が建てた拠点があった。
何とか拠点内に棒のようになった腕を動かして体を引きずりこみ、ばたりと倒れた。望の意識はフェードアウトしていった。
旧作8話部分まで相当、7・8話統合及び改稿。
以下対応部分リスト
プロローグ0-3・・・プロローグ
1・2・3話・・・出発
4・5・6話・・・道具
とっとと旧作追い越して更新するのでよろしくお願いします
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