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初戦

 作った武器を片手に、術式開発を目指してゴブリンへ突撃を仕掛け、勇猛果敢に敵をちぎっては投げ千切っては投げの死闘を繰り広げ―――る訳もなく、ただただ木を切り倒して丸太を量産し始める上半身しかない青年。

間違えて石杉(StonePine)に斧を振り下ろして痛い目にあっているがそれはご愛敬。せっせと木こりに精を出し、どんどん積み上がる丸太丸太丸太丸太丸太・・・


 石包丁で手に豆を作りながらシャッシャッシャと小気味良い音を立てて削って、出来上がった杭を今度は漬物石大の小ぶりな岩をハンマーよろしく打ち付けて、柵の完成。いや、まだ早いか。

複数本打ち込んだ木杭の間に横棒を添わせて紐で固定して今度こそ完成。


合計で3基、洞窟を背にして正面・左斜め前・右斜め前に設置。壁を背にしているということ、それに防御設備は絶大な安心感をもたらす。しかしそれらは、決して絶対の安全など与えてはくれない・・それは、まだ望の知る(よし)ではない。



 そうそう、新しい魔法を紹介しよう。


「《ウィンドカッター》!」



 昨日、一昨日の失態を取り返すべく偵察を最優先にして何度も夜の闇に紛れて出歩いたのが功を奏し、魔法の発動に出会わせた。バレバレで思いっきり攻撃魔法としてこちらに放たれていたからしっかりと魔法陣を目視できたというのは置いておいて、気づかれるまでにかなり接近できたのだ。影が薄い、というのは存外サバイバルに向いているのかもしれない。


頬の傷跡は気にしてはいけない。割と深いしまだ生乾きだが気にしてはいけないのだ。



とにかく、風の刃で丸太を縦に切断し、更に薄くスライス…と言っても結構な厚みがあるが…して、木の板の完成。これを並べて棒を渡し、枠と支えを作成・取付。これで少々思いが大盾として機能するだろう。魔法一発で切断される?無意味だろそんな重り?HAHAHA、気にするな!


大楯を構えて、重さを手に覚えさせる。




さあ、開戦だ―――――――――――
















一方的に対象を発見、あの時と同じだ。魔法を使っているところを目撃するために、相手が気付いてなかったから撤退すればよかったあの瞬間。


ボコられる展開に終止符を打とう、ここからは僕のターンだ。


装備は石包丁。距離は約10m、風は弱く森林内で視界は比較的悪い。敵は一体、初戦にもってこいだ。多分、はぐれた個体だろう。


なぜか同族嫌悪と同情が湧いてきたが、理由は分かっているけど分からないことにしておく。ボッチジャネーシ


残念ながら僕の精神状態は過剰なストレスによってまともじゃない。人型だろうと同族だろうと容赦なく殺す、否殺すことができる。できてしまう。


攻撃開始!!!



中距離武器で相手にダメージを負わせる。槍で比較的適当に突いて、不意打ちに戸惑っている隙をついて容赦なくナイフで滅多刺しにしてしまう。「オラオラオラオラオラオラオラオラァァ」

切れ味が鈍いから殴っているのに近い感覚を覚えながら、強引に何度も攻撃することでダメージを与えていく。


!ここで!とどめだッ!!


正確に心臓(と思われる場所)に刃を思いっきり突き立てて、引き抜くッ。


「やったか!?ハッ」


華麗にback(バック) ste(ステッ)pオゥ(ポゥ)ッ!?コケッゴン゛

後方へ回避しようとして木の根につまずいて盛大にこけた。有名なフラグを立ててしまったことに気付き、大急ぎで間合いを取ろうとした結果がこれである。実は失敗フラグってだけで復活フラグじゃなかった可能性が・・・?


起き上がってすぐに傷跡を確認して、まだ動いてる心臓を見つけた。狙った場所より左寄りのところにある、まだ生暖かく弱々しく動くソレ(・・)に容赦なく最後の一撃を加える。




(あか)く染まった手を見て、少し感慨に(ふけ)る。ごく僅かな間だけ軽く手を合わせて、食べられそうな部分を解体して残りを血の匂いで他の危険生物が集まらないように埋め、そそくさとその場を立ち去った。


「殺すってこういう事なのか・・・・なんというか、微妙だな。」


もっと自分が人らしければ、吐き気を(もよお)して盛大に嘔吐(えず)くだろう。もっと自分が冷血で合理的なら、何も思わずに次の獲物を探しに行くだろう。

ところがどうだ?飼っていたペットを安楽死させるか、豚を屠殺場で(ほふ)ったあとのような、微妙な感じ。相手の命を背負うというより、レシートだけ持って帰るような微妙に責任を負いきれてないような、そんな感覚がした。



 考えたって何かが変わるわけでもないのでそのあたりにポイして、拠点に帰ろう。肉だ!久々の肉だ。感触からして固そうなので、ナイフで叩いて柔らかくしてから適当な野草(多分行者ニンニクとかの仲間)を合わせて焼く。


あ゛あ゛あ゛~~匂いがおいしそうなんじゃぁ~ジュワァ~って!ジュワァ~って!旨そうジュルリ


適当に焦げ目がついたところでゴブリン肉の香草焼き、完成だ。滴り落ちる肉の油は、照明に使いたいのでしっかりと木の器に入れて保存しておく。

「いただきます」

挨拶は大事、古事記にもそう書いてある。多分。 かぶりつくと、ちょっと固いし臭みが強いが、香草を入れたのは大正解だった。ガムのように噛まない限りえぐみは大して気にならないし、塩を振らなくても塩分が豊富に含まれるのか割とイケる濃さだ。美味い。塩コショウを振ってから焼いたのなら、きっと白飯が食いたくなっていたんだろう。


余った分は日が昇る前から急ごしらえのラックにかけて干しておいて、満たされた腹をさすりながら眠りについた。


明け方の一コマだった。



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